種実類 利用の歴史

種実類

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/09 14:25 UTC 版)

利用の歴史

そのまま、あるいは炒るなどの簡単な加工で食べられるものが多く、油脂などの多量の栄養分を含み、また穀物などと違い採集が容易であったため、狩猟採集社会においてナッツは食生活の根幹をなしていたところが多かった。ただし、特に中緯度・高緯度地方においてナッツの収穫はに集中し、また長期保存が可能であることから、ナッツは主に秋に大量に収穫してを越すための保存食としての性格を持っていた。縄文時代の遺跡である福井県鳥浜貝塚においては、クリやヒシなどのナッツ類が予想消費量をはるかに越えて出土しており、この推測を裏付けている[27]。また、クリやハシバミのように明るい場所を好むナッツ類は、人類が伐採や火入れなどで極相林を消滅させた場所に進出して繁茂する性質を持っており、それを人類がある程度理解してナッツの実る木が育ちやすいように周囲の環境に手入れを行う、すなわちごく初期の栽培化新石器時代には行われていたと考えられている[28]。なかでも青森県三内丸山遺跡においては、縄文時代中期にクリの純林が誕生しており、当時この地域でクリを栽培し主食としていた証拠と考えられている[29]。やがて人類が穀物を改良し栽培を開始すると食料としての重要性は低下したが、以後も嗜好品としての性格を強めながら主要食糧の一角をなしてきた。採集だけでなく、農業の開始とともにいくつかのナッツは完全な栽培植物として育てられた。

現代においてナッツとして利用されている植物の原産・栽培化された土地はさまざまである。アーモンドやピスタチオは中東原産で、そこから旧大陸の広い地域に広まっていった。クリは日本、中国、ヨーロッパ、アメリカ東海岸にそれぞれ自生種があり、クリ、チュウゴクグリヨーロッパグリアメリカグリとして各地域で栽培化された[30]。クルミも旧大陸に広く分布し、各地で採集または栽培された。ココナッツの原料であるココヤシは東南アジアが原産と考えられており、ここから旧大陸の熱帯地域へと広まっていった。とくにオセアニアの、南太平洋に広がる諸島群においてはココヤシは真水の少ない環礁においても栽培できるために重要な役割を果たし、ポリネシア人の南太平洋植民において重要な役割を果たした。

新大陸発祥のナッツで最も重要なものはピーナッツであり、南アメリカ大陸で栽培化され、インカ帝国では重要な栽培植物となっていた。コロンブス交換によって旧大陸に持ち込まれると、アフリカ大陸西部で盛んに栽培されるようになった。また、アメリカ南部でも盛んに栽培され、南北戦争後にはアメリカ北部でも消費が急速に拡大した。新大陸原産でピーナッツに次ぎ重要なものはカシューナッツであるが、これは南アメリカ大陸でも北東部を原産としている。ブラジルナッツはアマゾンに分布し、ゴムの採集が盛んになる19世紀後半まではアマゾンで最も価値ある産物のひとつだった。21世紀においてもブラジルナッツは高く評価されるナッツであるが、これはほかのものと違って栽培が非常に難しく、採集に頼っているためアマゾンの開発とともに生産量が急激に落ち込んできている[31]

このほか、オーストラリア大陸原産のものとしてマカダミアが存在する。マカダミアはアボリジニによって長く利用されてきたが、商業栽培は19世紀後半にヨーロッパ人によってはじめられた。1882年にはハワイに持ち込まれて栽培が成功し、21世紀においてはハワイがマカダミアの大産地となっている。なお、オーストラリア大陸原産の食用植物には他大陸で広く利用されているものはほかにはあまり存在せず、マカダミアが最も知られた存在となっている[32]


注釈

  1. ^ a b ただしクルミペカンの果実の構造は典型的な核果とは異なる点があるため、狭義の核果とはされないこともある[10]
  2. ^ 同属の近縁種のものを含めてヒッコリーともよばれる[19]

出典

  1. ^ a b c d e f 日本食品標準成分表2020年版(八訂)”. 文部科学省. 2022年5月19日閲覧。
  2. ^ 豆類(種実) Pulses”. 農林水産省. 2022年5月20日閲覧。
  3. ^ a b c d e f ナッツ. コトバンクより2022年5月20日閲覧
  4. ^ a b ナッツ類 Tree nuts”. 農林水産省. 2022年5月20日閲覧。
  5. ^ ケン・アルバーラ著 田口未和訳 (2016). ナッツの歴史. 原書房. pp. 13–14. ISBN 978-4562053261 
  6. ^ Stuppy, W. (2004). Glossary of Seed and Fruit Morphological Terms. Seed Conservation Department, Royal Botanic Gardens, Kew, Wakehurst Place. pp. 1–24 
  7. ^ a b nut”. Merriam-Webster Dictionary. 2022年5月6日閲覧。
  8. ^ a b 清水建美 (2001). 図説 植物用語事典. 八坂書房. pp. 96–108. ISBN 978-4896944792 
  9. ^ 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “堅果”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 415. ISBN 978-4000803144 
  10. ^ a b c d e f Armstrong, W.P.. “Fruits Called Nuts”. Wayne's Word. 2022年5月6日閲覧。
  11. ^ 和泉秀彦・三宅義明・舘和彦 (編著). 栄養科学ファウンデーションシリーズ 5 食品学. 朝倉書店. p. 84. ISBN 978-4-254-61655-2 
  12. ^ 斎藤新一郎 (2000). 木と動物の森づくり. 八坂書房. p. 18. ISBN 978-4896944600 
  13. ^ 新版 食材図典 生鮮食材篇: FOOD’S FOOD. 小学館. (2003). p. 302. ISBN 978-4095260846 
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  15. ^ 斎藤新一郎 (2000). 木と動物の森づくり. 八坂書房. p. 30. ISBN 978-4896944600 
  16. ^ 邑田仁 (2017). “ハス科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 2. 平凡社. p. 214. ISBN 978-4582535396 
  17. ^ 米倉浩司 (2016). “ヒシ属”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 3. 平凡社. pp. 260. ISBN 978-4582535334 
  18. ^ 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 (2012). “ヒシの仲間”. 草木の種子と果実. 誠文堂新光社. p. 129. ISBN 978-4-416-71219-1 
  19. ^ ペカン. コトバンクより2022年5月21日閲覧
  20. ^ 「ナッツの歴史」p145 ケン・アルバーラ著 田口未和訳 原書房 2016年8月27日第1刷
  21. ^ 「栗の文化史 日本人と栗の寄り添う姿」p154-155 有岡利幸 雄山閣 2017年2月25日初版発行
  22. ^ a b 「オセアニアを知る事典」平凡社 p112 1990年8月21日初版第1刷
  23. ^ 「マメな豆の話」p141 吉田よし子 平凡社 2000年4月20日初版第1刷
  24. ^ 「マメな豆の話」p177 吉田よし子 平凡社 2000年4月20日初版第1刷
  25. ^ 「新訂版 食用油脂入門」(食品知識ミニブックスシリーズ) p83 日本食糧新聞社 平成16年10月29日発行
  26. ^ 「基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし」pp16-17 NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著 農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷
  27. ^ 「人類史の中の定住革命」p125 西田正規 講談社学術文庫 2007年3月10日第1刷
  28. ^ 「人類史の中の定住革命」p185 西田正規 講談社学術文庫 2007年3月10日第1刷
  29. ^ 「栗の文化史 日本人と栗の寄り添う姿」p26-29 有岡利幸 雄山閣 2017年2月25日初版発行
  30. ^ 「世界の食用植物文化図鑑 起源・歴史・分布・栽培・料理」p242 バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント著 山本紀夫監訳 柊風舎 2010年1月20日第1刷
  31. ^ 「世界の食用植物文化図鑑」p238 バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント著 山本紀夫監訳 柊風舎 2010年1月20日第1刷
  32. ^ 「世界の食用植物文化図鑑」p245 バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント著 山本紀夫監訳 柊風舎 2010年1月20日第1刷


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