橋桁
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 17:11 UTC 版)
橋桁は桁高さを抑えて重量軽減を図り、ケーブルの定着性向上と耐風安定性の観点から両端に三角形状のフェアリングを取り付けた薄型偏平六角形の箱型構造である。特に名港トリトンは海上に架かる長大支間長の橋梁であるために風の影響を無視できない。海上は高層の建物が密集する陸上よりも表面がなだらかであることから架橋地点の風速は高く、船舶の航行を確保するために桁位置を非常に高く設定していることから3橋とも橋桁に対して概ね60 m/sの風速に耐える設計を行っている。風は橋の側面に水平方向の力が働き、橋が水平に長いものであることを考えた場合、橋全体に受ける風圧は膨大なものとなり、その結果として橋を構成する部材が曲がったり、橋を支える下部工に悪影響を及ぼす危険性がある。特に長大支間橋梁では精巧な橋梁の模型を使った風洞実験を行って風に対する安全を保障するが、名港トリトンの3橋もこの例に漏れない。風洞実験の結果、発現した振動が有害と判断される場合、それを制御するための空気力学的な対策が実施される。橋桁の両端に鋭角のフェアリングを取り付けて断面を流線形としているのも風圧の作用を少しでも低減するためであり、同様に橋桁の上下長さを小さくして薄型偏平としているのも同様の理由である。風に対する影響を無視できないのは、過去に幾多の落橋事故に遭遇しているからであり、なかでも完成後わずか4か月にして19 m/sの風で落橋したタコマナローズ橋が有名である。タコマナローズ橋は吊橋であるが、斜張橋の耐風安定も吊橋と共通する問題であり、タコマナローズ橋の落橋原因となった発散振動については名港トリトンの風洞実験でも入念な検討が行われた。 橋桁およびタワー、基礎(ケーソン)の鋼材は大規模であることから陸上輸送が不可能であることに加え、輸送コストの面から海上輸送を基本とした。このため、名古屋港と航路で輸送可能な鉄工企業が選定され、三重県津市の日本鋼管(現・JFEエンジニアリング)をはじめ、日本車両製造衣浦工場、石川島播磨重工業(現・IHI)愛知工場など近在の企業のほか、横浜市や遠くは北九州市、愛媛県東予市(現・西条市)で製作されたものが名古屋港まで曳航された。橋桁の場合、概ね15 m(西大橋は7 - 12 m)程度の単ブロックを台船に載せて直接現地に運ばれている。 橋桁の架設方法は、側径間が工程の短縮、作業省略の意図からベント(Bent:橋脚を意味するが日本では仮支柱をベントと呼ぶ。ステージングともいう)工法による架設、中央径間側は航路確保の前提からベントを設けずに橋桁を渡す張り出し架設工法(カレンチバー工法ともいう:Cantilever)を用いた。側径間は橋桁4ブロックを工場であらかじめ一体化して大ブロックに仕立ててからフローティングクレーンで吊り上げてベント上に載せた。中央径間の場合、大ブロック上に直下吊りクレーンを設置のうえ、台船で曳航された橋桁単ブロックを直下吊りクレーンで持ち上げて大ブロックに継ぎ足し、これを両側から中心部に向かって繰り返して橋桁を伸長した。 橋桁の色は名港西大橋一期線竣工時は主塔と同じ赤が採用された。しかし、中央と東の完成を機に陸上区間の高架橋との統一感を考慮のうえ、青い空、海に連続した水平線を表現するために3橋とも白とされた。なお、陸上高架橋は、第二東名と伊勢湾岸道路が東海ICで接続するにあたって、第二東名と伊勢湾岸道路の塗り分け位置、桁の色彩検討が行なわれた。この結果、新宝ふ頭で桁は白色に変化してそのまま名港東大橋の橋桁に連結することになり、見た目の連続性が確保された。 画像左:西大橋建設時点では最もマストの高い客船は「いしかり」と想定されたが、後年になってそれを上回る客船が名古屋港に寄港することになった。画像は「いしかり」と金城ふ頭に接岸する「ダイヤモンドプリンセス」。画像右:名港西大橋をくぐり抜ける太平洋フェリー「きそ」。 3橋の中で橋桁が最も高いのが中央大橋で、直下の航路空間を47 m確保、次いで東大橋の40 m、西大橋の38 mである。ただし、日本道路公団と名古屋港管理組合が協議のうえ名古屋海上保安部に提出した桁下空間はこれとは異なり、名港中央大橋は55 m、名港東大橋は41 m、名港西大橋は39 mとなっている。これと連動して中央大橋の路面高さが最も高くなっている。設計当初は当時考えられる限りの大型船の通行を考慮して桁高さを決定し、西大橋の場合はカーフェリーの「いしかり」(マスト高36 m)が対象とされた。また中央大橋の場合は、航海練習船「日本丸」と「海王丸」の高さを基準としたことから、海上から橋桁までの空間が概ね50 mで計画された。しかしながら、後年になってより巨大なクルーズ船が名古屋港に寄港することになった。ダイヤモンドプリンセスのほか、クァンタム・オブ・ザ・シーズやボイジャー・オブ・ザ・シーズが寄港した際は、名港中央大橋の許容高さ51 m(桁下空間は55 mだが、余裕を4 m以上保持する決まりから51 m)を超過することから客船用のガーデンふ頭に接岸することが叶わず、貨物船用の金城ふ頭に接岸している。なお、外国客船が寄港することによる地域への経済効果は4000万円ともされ、名古屋港としてもその恩恵に与ろうと誘致に力を入れているが、いかんせん中央大橋をくぐれないことから金城ふ頭受け入れとならざるを得ず、入国態勢が貧弱なこともあって他港に出し抜かれているのが現状である。 橋桁には桁に吊り下がるようにして検査車が設置されている。主桁外面の点検、塗装作業のためで、これにより修理の際は困難な足場を組むことなく作業できる。特に大規模橋梁の大敵は微細なさびであることから、発見次第適切な処置を施している。検査車は前後の径間に1台、中央部に1台で、一つの橋に対して3台付属し、各径間を分速8 mで移動できる。動力はディーゼルエンジンで、躯体は防錆、軽量化の観点からアルミ合金製である。また、景観性を考慮して塗色は橋桁と同一として、下面には化粧板を取り付けている。 橋脚と主塔の上に位置する橋桁は、後述する弾性拘束ケーブルのほか、支承と連結するための接合部がある。橋端部は大きな負反力(この場合は上に向かう力)が生じ、かつ橋軸方向の移動も考慮して、アイバー形式のペンデル支承を用いている。ただし、橋軸直角方向(橋軸方向は車の進行方向、対する橋軸直角方向は橋軸に対して90度直角の方向)には抵抗できないため、水平支承を左右に配置した。一方、主塔部には中間支承を各2個ずつ配置して、いずれも橋軸方向のみ可働とした。 橋桁の上にはアスファルトを舗装しているが、これを2層として表層は排水性舗装、下層(すなわち鋼床板上)は空げき率がほとんどなく防水性に優れたグースアスファルトを舗装した。これにより排水性舗装に浸透する水をグースアスファルトで遮断することで鋼床板の腐食を防いでいる。 橋桁は薄型偏平六角形として耐風安定性、ケーブルの定着性に配慮。橋桁に吊り下げてあるのは検査車。 橋桁と主ケーブルとの連結は橋桁外側腹板に定着鋼管を割り込ませる方式である。 3橋の中で名港中央大橋の桁高さが最も高いため、中央大橋からは他の2橋を見下ろすように映る。 陸上高架橋と斜張橋の橋桁が白で統一され、見た目の連続性が確保されている。
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