楽曲の世界観
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 03:07 UTC 版)
「サザンオールスターズ」の記事における「楽曲の世界観」の解説
和風 「桑田佳祐#思想・哲学」および「桑田佳祐#日本文化への造詣」も参照 歌詞について教育学者で明治大学文学部教授の齋藤孝は「日本語の可能性を最大限に広げている」と評価しており、また桑田がたびたび行う当て字(二重読み)についても「こうした表現は江戸や明治の時代によく見られる表現なんですね。(中略)ひらがなは私たちの身体にスッと入っているもの、漢字は理知的で、頭のほうに入って来るものですのでこうして表現をすることによって、頭と身体の両方から掴む効果も生んでいると思います」と評価している。さらに、文語体と口語体の混在も桑田の歌詞の大きな特色であるとしている。 桑田は日本語の情緒を「ある面でサザンがやっていることと合うと思う」と考えており、「言葉の意味そのものよりも、古来から日本語の持つ情緒、"粋さ"みたいなもんで自分の感性をダイレクトに出したい」「ビートルズとか外国の文化にもろに影響を受けてるけど、やっぱり日本の“ワビ”“サビ”の感覚っていうのを、もっと音楽に出していきたい」と述べている。また、日本的なものから「平和」を含めた「”和”という言葉が好き」といった発言もしている。 初期の楽曲に登場した「ちょいと」などのフレーズに関しては、長唄や落語などの語感に影響を受けたものであると述べている。「JAPANEGGAE (ジャパネゲエ)」「愛の言霊 〜Spiritual Message〜」「CRY 哀 CRY」「通りゃんせ」などのように古語を取り入れた楽曲も存在し、また「ナチカサヌ恋歌」「平和の琉歌」「神の島遥か国」などのように沖縄をテーマにした楽曲も制作されている。楽曲だけでなくライブの演出やグッズ・DVDなどにも和風要素を取り入れることが多い。 和洋折衷 マーティ・フリードマンやマキタスポーツのようにコード進行やメロディなどを「和洋折衷」と評する者も多い。松田はこうした和洋折衷な路線を「自分たちなりの和モノ路線というか、洋楽と和モノの折衷を、俺たちはかっこ悪いものとしてとらえていないから」と述べており、桑田の楽曲に対するバランスのとり方を高く評価している。亀田誠治は、桑田のことを「『日本人である』っていうことを最大の武器にして音楽を作られてる方だと思いますね」と評し、上述する和洋折衷な歌詞を「すごく日本っぽいキーワードをたくさん使ってる」「日本っていう国が持つ文化とか日本民族の歴史みたいなものを、桑田さんはごく自然に音楽の歌詞としてまとめあげてるんじゃないかっていう気がするんですね」などと高く評価している。主に初期作品での英詞の監修を手掛けていた小林克也は和洋折衷な表現をする桑田のことを「日本人の洋楽コンプレックスを解放してくれた男」「明治や大正の文豪に連なる人」と評価している。 「ミスマッチの仕方が、多少定番とズレている方が面白い」といった考えを持っており、「愛は花のように (Olé!)」や「LOVE KOREA」のようにスペイン語やハングルなどの異国情緒的なモチーフを楽曲や映像に取り入れたこともある。しかし、こういった要素がきっかけで出自や思想に関するデマが流れたこともある。 エロティック 「シュラバ★ラ★バンバ」「エロティカ・セブン」「マンピーのG★SPOT」は「エロス3部作」と呼称されることがあり、また「マイ フェラ レディ」「経験II」「BOHBO No.5」「天国オン・ザ・ビーチ」などのようにタイトルや歌詞に性的な言葉が含まれる楽曲も多く存在する。造語や比喩、隠しメッセージが多用されているのが特徴的である。桑田はこれらエロティックな楽曲を制作する理由について「音楽って、やっぱりセックスがないとダメだと思うのね。(中略)そういうことの方が素直に歌詞にしやすいわけ。これは性格だと思うんだけど」と述べている。 桑田のエロティックな表現について、齋藤孝は「日本人が明らかに性を謳歌(おうか)していた江戸時代の文学作品に通じるものがある」、徳光正行は「桑田さんは精神的な”永遠の童貞”的なところがいい」「エロ全開の曲もあれば、私小説のような美しいエロもある」、ミッツ・マングローブは「セックスに憧れている中坊の妄想みたいな感じが歌詞に出てる」「生々しさがない」「これが生々しいエロだったら、老若男女に支持されるはずがない」と評価している。亀田誠治は、桑田の妻である原由子の存在が桑田のエロティックな表現の品格を上げていると評価しており、「『桑田さんのエロは、かわいいエロなんですよ。ゆるしてあげてね、みんなでパーティー楽しもうね!』といった空気を、原由子さんの存在が醸し出してくれている」と述べている。加山雄三は桑田のことを「本当にいいやつ。心が素晴らしいから、あんなスケベな曲が作れるんだよ」と述べている。 社会風刺・反戦・平和 社会風刺や反戦などをテーマにした楽曲については1982年発売の5thアルバム『NUDE MAN』の頃から制作されており、「流れる雲を追いかけて」「爆笑アイランド」「平和の琉歌」「ピースとハイライト」「蛍」「平和の鐘が鳴る」などがある。こうしたテーマの楽曲を制作することについて桑田は「光を描こうとすれば、どうしてもその対極にある忘れてはならないことも描かなければならない」「明るいだけの歌はあまり面白くない」「大人でいれば辛いことがたくさんある」「世の中が不穏で歪んでいれば、歌だって自ずと歪むと思うんです」「僕だって自分の日常がありますから、全ての問題について毎日思い続けていられるわけじゃない。(中略)ただ、それでもおかしいことはおかしいと思うものだし、たまたまそれがきっかけで音楽が生まれたのなら、それを歌えない空気も、そこで歌えない自分も僕は嫌なんです」といったことを述べている。一方、インタビューでは「難しいことはよく分からない」「政治も疎い」 とも述べている。 風刺は過剰に人を傷つけるものではあってはならないとし、「たとえば直接的に『○×反対』というのではなく、どこか粋でありたいし、○と×の間に様々なグラデーションがあると思います」といった考えを述べている。事実、桑田が風刺や反戦をテーマにして制作した楽曲は、単に世相を批判したり、後ろ向きな事柄を描くだけでなく、曲によっては後ろ向きな事柄を描いた上で前向きな歌詞を書いたり、日本国民に寄り添いエールを送ったり、平和ボケをしている自分たちへ自戒を込めたり、解釈を聞き手にゆだねるものも存在するなど、趣向を凝らしていることも特徴である。かつては歌詞に過激なフレーズを入れたこともあったが、後年には「やっぱり流れが良くないと、尖った言葉ばっかりの羅列だと、やっぱりポップミュージックとしてはね。僕はあまり好きじゃないんですよね。メロディも大事だし」「僕だってこう見えて、コンプライアンスだのなんだのと昔と比べたら相当気を配っているんです」と語っている。 反戦歌を制作することについては「戦争はなかなか無くならないことも、平和を訴えるうえでのある種の虚しさも、大人ですから薄々は気付いています。でも言うだけでも言わなきゃ夢が持てない。僕は夢のない世の中が一番怖いと思っています」と述べている。桑田の反戦を訴える姿勢は祖母や父の影響によるものであり、特に父からは満州からの引揚者だったこともあって、満州での話や「品格とは真逆の、人間が究極の状態に追い込まれた時の様子」などの話をよく聞かされていたことを述べている。 社会風刺の面では牧伸二の漫談やハナ肇とクレイジー・キャッツが出演していた『おとなの漫画』が好きだった旨を、反戦の面ではビートルズやボブ・ディランをきっかけに戦争や平和を意識したこと語っている。渋谷陽一は、桑田がこうしたテーマで制作した楽曲を「自分の言葉のメッセージで社会を変えよう、政治に物申すっていうのではなくて、桑田佳祐も清志郎も、歌にした動機はひとつ、歌いたいからだったと思うんですよね」と評しており、桑田もこの主張に賛同している。 2015年のインタビューで「メインストリームで風刺やプロテストソングを歌うアーティストが少ない現代で寂しさや使命感、もしくは矜持のような感情を抱くことはありますか?」と質問をされ、桑田は「全くありません。そこは人それぞれですから。若い頃は恋愛や遊びに大半の時間を割くし、何より今の若い人と僕らでは生活環境も情報量もまったく違うでしょうから」「(自身に特定の主義主張や思想が無いことや、エロティックな楽曲を多数制作していることを述べた上で)つまり僕も俗物なんですよ」「ましてやシンガーソングライターの矜持なんかじゃない」「強いて言えば“衝動”でしょうか。作品としての歌って、本来は衝動的な叫びみたいなものじゃないですか」と答えている。 タイアップ先への気配り CMソングや映画主題歌などの場合はタイアップのコンセプトや内容に合わせて制作することもあり、桑田が楽曲より先にそういったイメージを言葉にしてメンバーやスタッフに伝えるケースも存在している。これについて桑田は「ぜーんぜん関係ない曲が『タイアップ決まりました』って言われても、あんまり楽しくないからね」と語っている。 渋谷陽一は「いや、そこがまたすごい。そして、やっぱり正しい、ポップミュージシャンとして」、岸谷五朗は「桑田さんが台本をもらって曲を書くと、ものすごいものができる」、寺脇康文は「心を震わせるって、こういうことだね。桑田さんの曲って、心を震わせたり、踊らせたりーー耳で聴くっていうより、心に聴かせるという感じ。桑田さん自身がそういう人間だからなんだろうな」とこのような桑田の姿勢を高く評価している。 メンバー、スタッフ、ファンへの感謝 「旅姿六人衆」「この青い空、みどり 〜BLUE IN GREEN〜」「I AM YOUR SINGER」など楽曲の中にはメンバー、スタッフ、ファンへの感謝が込められているものも存在している。
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