性的暴行事件とは? わかりやすく解説

性犯罪

(性的暴行事件 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/28 19:13 UTC 版)

性犯罪(せいはんざい)とは、不同意性交等罪不同意わいせつ罪など性的自由を侵害する犯罪や、公然わいせつ罪わいせつ物頒布等の罪などの総称である。

概説

他人の自由を奪う性犯罪としては、暴行又は脅迫により行われる性犯罪である不同意性交等罪が代表的なものである。参考として警察庁の資料によると、暴力的性犯罪という分類もみられる[1]。また社会の風俗を乱す性犯罪として、公然わいせつ罪わいせつ物頒布罪などがある。

2017年の刑法改正により、性交等には性交・肛門性交・口腔性交ほか、膣や肛門に陰茎以外の体の一部または物を挿入する行為も含まれるようになり、被害者が女性に限定されなくなり、現行法では非親告罪に変更されている。しかし、男性の被害者は羞恥や声を上げづらいことからその5割が周囲に相談していない調査結果もある[2][3]
なお、13歳未満の者に対するわいせつ・性交等、または、13歳以上16歳未満の者に対して、その者と5歳以上の年齢が上の者がするわいせつ・性交等は、基本的に不同意わいせつ罪(刑法176条3項)・不同意性交等罪(同法177条3項)に該当する。

分類

暴力的性犯罪

その他の性犯罪(刑法犯)

その他の性犯罪(特別法、条例違反)

性犯罪には該当しないが法に抵触する行為

統計

性犯罪は幅広い犯罪を包括する概念であるが、その中でも特に代表的かつ重要な犯罪である不同意性交等罪不同意わいせつ罪の認知件数は、警察庁が発表する犯罪統計によると以下の通りである[5]

いずれの犯罪においても、被疑者の99%以上が男性であり、逆に被害者の97%程度が女性である。

不同意性交等
不同意わいせつ
不同意性交等および不同意わいせつの認知件数
年度 不同意性交等 不同意わいせつ
認知件数 被疑者 被害者 認知件数 被疑者 被害者
2021年 1,388 1,244 7 58 1,330 4,283 2,887 16 172 4,111
2020年 1,332 1,173 4 72 1,260 4,154 2,742 18 159 3,995
2019年 1,405 1,172 6 50 1,355 4,900 2,910 16 139 4,761
2018年 1,307 1,084 4 56 1,251 5,340 2,915 8 188 5,152
2017年 1,109 906 4 15 1,094 5,809 2,828 9 199 5,610
2016年 989 871 4 0 989 6,188 2,790 9 247 5,941

性犯罪をめぐる現代的な問題点

立証の困難性

  • 性的同意年齢に満たない16歳未満の子供が被害者である場合は合意の有無に関係なく犯罪であるとされる(そもそも法的に有効な合意は取りえない)。しかし、被害児童に対する知識不足や証言の信憑性に対する疑いから、明確な物的証拠(例えば被疑者の体液が残留していたり犯罪行為をビデオなどに記録した物が押収されるなど)がないと、犯罪行為の有無自体の立証が難しいケースが多い。そもそも被害児童に自分が犯罪の被害者になったという認識自体がない場合が多く、犯罪行為自体がなかなか発覚しにくいという問題がある。これについては早期の性教育を行うことで、子供に自身が性的搾取から保護されるべき権利主体であることを認識させようとする動きがある一方、子供が性知識を持つことに難色を示す意見もある。

「第二の被害」

法廷や取り調べで被害者がフラッシュバックを起こしたり、証言・陳述の内容が不同意性交(レイプ)や性的被害の再現であったりする場合の被害者の精神的苦痛は、第二の性的被害(セカンドレイプ、セカンドハラスメント)と呼ばれて問題視されている。刑事訴訟では伝聞証拠禁止の原則があるために、被告人及び弁護側が被害者である証人の調書に同意しなければ、一部の例外を除き原則として被害者は証言を証拠として認められるには法廷に出廷して証言する必要がる。ある。

再犯について

再犯率

一般に、再犯率とは罪を犯した者のうち再度罪を犯した者の割合であるが、報道などで再犯率について言及される場合「再犯率」と記されていても再犯者率(検挙された者のうち過去にも検挙されたことのある者の割合)など異なる統計の数値が使われていることがあり注意を要する。また、再犯率は、罪を犯した者の定義、調査対象者の属性、調査年数、調査対象者の服役期間、対象の再犯が全ての犯罪か同種の犯罪のみかなどで数値が変わってくるため見る際や比較をする際にはどういう定義・調査による数値かを確認する必要がある[6]

毎年公表される統計で再犯状況を知る一助となるものに再入率があり、これは刑事施設を出所した者のうち一定期間内に新たに罪を犯し再度入所した者の割合である。全再入率の他に一部の罪名別の再入率の統計もあり、2011年に刑事施設を出所した者の2015年末までの再入率を前回入所した際の罪名別に見ると、高い方から順に覚醒剤取締法違反が49.4%、窃盗が45.7%、傷害暴行が36.1%、詐欺が29.8%、不同意性交(強姦)不同意わいせつが24.1%、強盗が19.6%、放火が19.0%、殺人が10.3%であった[7]。また、前回入所した時と同一罪名で再入所した者のみの割合で見ると高い方から順に覚醒剤取締法違反が39.3%、窃盗が34.3%、詐欺が15.3%、傷害・暴行が7.2%、不同意性交・不同意わいせつが4.6%、放火が2.8%、強盗が2.5%、殺人が0.2%であった[7]

痴漢盗撮については、不同意性交(強姦)や不同意わいせつと比べて再犯率が高いことが法務総合研究所により報告されている[8]。その調査によると、実刑となった者や出所している者の割合、出所した者の服役期間に違いがあり「平均再犯可能期間」が異なるため単純比較はできないが、裁判確定から5年経過時点での性犯罪再犯率は、痴漢犯が36.7%、盗撮犯が28.6%でこれは単独不同意性交犯の0.9%や強制わいせつ犯の8.1%と比べて高く、全再犯率でも痴漢犯が44.7%、盗撮犯が36.4%、単独不同意性交犯が3.6%、不同意わいせつ犯が16.0%と同様の傾向であった[9]

性犯罪者の再犯率は一般的な犯罪の再犯率よりも低いという意見もある[10][11]アメリカ合衆国司法省によれば、3年後の再犯率は5%、15年後の再犯率は24%と報告されている[10]カナダ公安省によれば、5年および10年の再犯の推定値は、再犯基準として有罪判決のみを使用した研究では17%および21%と報告されている[11]

子供に対する性犯罪

子供に対する性犯罪は、性犯罪の中でも再犯率が高いことで知られている。例えば、1999年中に刑事施設を出所した性犯罪者を対象にした調査では、被害者に13歳未満の者が含まれる者の2004年12月31日時点での性犯罪再犯率は22.2%、全再犯率は50.5%でこれは被害者に13歳未満の者が含まれない者の性犯罪再犯率9.4%、全再犯率38.0%に比べて高い数値であった[12]。ただし、別の調査によれば裁判確定から5年経過時点での性犯罪再犯率は、執行猶予者については被害者に13歳未満の者が含まれる者が12.2%、含まれない者が10.4%、出所受刑者については被害者に13歳未満の者が含まれる者が10.6%、含まれない者が18.2%であり、どちらについても「13歳未満の被害者の有無と性犯罪再犯率に明確な関連は認められなかった」と分析されている[13]

対応

被害者支援

周囲の者による支援(援助資源の確立)が重要である[14]心的外傷後ストレス障害 (PTSD) の症状がみられる場合は、適切な治療・心理的ケアを行う(「PTSD#治療」を参照)[15]

また、被害者が「なぜ自分は逃げられなかったのか」という自責感を持つ場合、よく傾聴したうえで、自分を責める必要はないということを温かく伝えていくことも大切である[14]

加害者治療

再犯防止に向けて加害者の治療も重要であり、薬物療法(特にホルモン療法)と認知行動療法の併用が効果を示した事例もある[16]

また、性犯罪の再犯への対策のため、法務省は性犯罪者処遇プログラムを2006年より実施している[17][18]。法務省としては、「処遇プログラムの継続的実施と実施者の育成」や「効果的な処遇に資する実証研究の推進」を行っていくことが必要としている[8]

主な性犯罪事件

以下のカテゴリーを参照

性犯罪を主題とした作品

強姦についてはCategory:強姦を題材とした作品を参照。

映画

脚注

注釈

  1. ^ 女性器切除(FGM)クリトリスなどの女性器を切り取る慣習である。多くの国で禁止されており、例えば米国のニューヨーク刑法では重大な性犯罪であるとみなされている[4]

出典

  1. ^ 子ども対象・暴力的性犯罪の再犯防止対策について
  2. ^ 男性の性被害 声上げづらく…理解してくれない周囲 「訴えは恥ずかしい」意識”. 読売新聞 (2023年6月8日). 2025年2月17日閲覧。
  3. ^ 性犯罪関係の法改正等 Q&A”. 法務省 (2023年). 2025年2月17日閲覧。
  4. ^ Female Genital Mutilation: New York Penal Code § 130.85”. New York Criminal Lawyer Barry C. Weiss P.C.. 2022年10月20日閲覧。
  5. ^ 犯罪統計”. 警察庁. 2022年10月20日閲覧。
  6. ^ 平成28年版 犯罪白書 第5編/第1章/第1節/コラム”. 法務省. 2023年4月30日閲覧。
  7. ^ a b 平成28年版 犯罪白書 第5編/第1章/第3節/2”. 法務省. 2023年4月30日閲覧。
  8. ^ a b 平成27年版 犯罪白書”. 法務省. 2022年6月24日閲覧。
  9. ^ 平成27年版 犯罪白書 第6編/第4章/第4節/2”. 法務省. 2023年4月30日閲覧。
  10. ^ a b Chapter 5: Adult Sex Offender Recidivism”. Office of Sex Offender Sentencing, Monitoring, Apprehending, Registering, and Tracking. 2022年3月19日閲覧。
  11. ^ a b Sex Offender Recidivism: A Simple Question”. Public Safety Canada. 2022年3月19日閲覧。
  12. ^ 平成18年版 犯罪白書 第6編/第4章/第2節/2”. 法務省. 2023年4月30日閲覧。
  13. ^ 平成27年版 犯罪白書 第6編/第4章/第4節/3”. 法務省. 2023年4月30日閲覧。
  14. ^ a b 藤代 富広 (2010). 性犯罪被害と支援のあり方 日本心理臨床学会(監修)日本心理臨床学会支援活動プロジェクト委員会(編)危機への心理支援学――91のキーワードでわかる緊急事態における心理社会的アプローチ―― (pp. 93-94) 遠見書房
  15. ^ 小西 聖子 (2010). 性犯罪被害と支援のあり方2 日本心理臨床学会(監修)日本心理臨床学会支援活動プロジェクト委員会(編)危機への心理支援学――91のキーワードでわかる緊急事態における心理社会的アプローチ―― (pp. 95-96) 遠見書房
  16. ^ 玉村 あき子・福井 裕輝 (2017). “性犯罪加害者の再犯防止 : 社会内治療の有効性と今後の課題”. 臨床精神医学 46 (9): 1101-1116. 
  17. ^ 平成17年12月14日法務省矯正局・保護局性犯罪者処遇プログラムの実施について (PDF)[リンク切れ]
  18. ^ 「矯正施設における性犯罪者処遇プログラムの具体的内容」(法務省矯正局) (PDF)

関連項目

外部リンク


性的暴行事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/18 15:19 UTC 版)

ビル・コスビー」の記事における「性的暴行事件」の解説

コスビーは、2004年1月における自宅での女性へ摂取させての性的暴行疑いで、検察から起訴された。弁護側は、合意の上としている。2017年6月17日陪審団が53時間評議経て評決に至ることができなかったため、裁判官評決不一致による審理無効宣言した。この裁判以外でも、50人以上の女性性的に暴行されたと訴えているが、ほとんどの事案については時効成立しているため、立件されたのはこの自宅での暴行疑惑のみとなった2018年4月26日コスビー有罪宣告された。2018年9月25日ペンシルベニア州刑務所での3年から10年懲役刑宣告された。その後モンゴメリー郡にある州立刑務所収容施設において服役した2021年6月30日ペンシルベニア州最高裁判所公正な審理が行われなかったとして有罪評決破棄し釈放認めた。そのため同日釈放された。

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