多剤耐性緑膿菌とは?

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多剤耐性緑膿菌

緑膿菌における多剤耐性獲得歴史変遷
多剤耐性緑膿菌(multipledrug‐resistant Pseudomonas aeruginosa)という用語は、既に1970 年代論文等に登場している1)が、当時は、緑膿菌に有効であった、ゲンタマイシンカナマイシン などを含む複数抗菌薬に対しR‐プラスミド依存性耐性獲得した漠然と指していた。1980 年代後半になると、緑膿菌を含むグラム陰性桿菌広く効果期待できるフルオロキノロン(=ニューキノロン)、広域β‐ラクタムアミノ配糖体などに耐性獲得したに対しこの語が当てられるようになった 2)。
最近では、緑膿菌に対し強い抗菌活性期待できるシプロフロキサシンレボフロキサシン などのフルオロキノロンイミペネムなどのカルバペネムアミカシンなどの抗緑膿菌アミノ配糖 体の三系統抗菌薬耐性獲得したを「多剤耐性緑膿菌」とする場合が多いようである。


緑膿菌における薬剤耐性獲得状況
院内感染対策サーベイランス事業JANIS)」の結果によればフルオロキノロンカルバペネ ム感受性喪失(S以外と判定)した国内での分離状況は、2000年血液分離場合各々20%程度達しており、さらにアミカシンなどのアミノ配糖体感受性喪失(S以外)したと判 定されるは5%前後に及んでいる 3), 4)。
米国CDCの「Division of Healthcare Quality Promotion(旧Hospital Infections Program)」でも、1989 年頃よりカルバペネムフルオロキノロン耐性獲得した緑膿菌動向監視されており、最近Intensive Care Antimicrobial Resistance Epidemiology(ICARE)の報告では、イミペネム耐性は、 1997年時点15%弱、オフロキサシンあるいはシプロフロキサシン耐性16%程度達してい る 5)。また、米国内の別の調査(The Surveillance Net work Database USAでも、2000年にはイミペ ネム耐性15%弱と横這い傾向であるが、シプロフロキサシン耐性30%弱に達しておりそ の動向警戒されている 6)。


「多剤耐性緑膿菌」の現状
感染症法では、フルオロキノロンカルバペネムアミノ配糖体の三系統抗菌薬耐性獲 得した、新型「多剤耐性緑膿菌」を「薬剤耐性緑膿菌感染症として4類の定点把握疾患指定している(註:2003年11月施行感染症法一部改正により、5類感染症定点把握疾患変更)。その理由は、従来より各種抗菌薬耐性を示す傾向が強い緑膿菌において、最後 の「切り札」的な存在であるこの三系統抗菌薬耐性獲得した「多剤耐性」の出現は、医 療にとって大きな障害となる事が懸念されたためである。現在、そのような分離率は、国内では1~数%程度推定されているが、施設によりその状況大きく異なっており、詳細不明であ る。感染症法に基づく2001年の「薬剤耐性緑膿菌感染症」の報告件数は、1定点施設で月あたり約0.1件で、MRSA感染症VRE感染症比べ低い値となっているが、年間報告件数618件に達し毎月平均50前後恒常的報告されている。カルバペネムなどに耐性獲得し た緑膿菌は、血液疾患悪性腫瘍の手術後骨髄移植を含む臓器移植後などの患者さんから 分離される事例も多い 7)。したがって、敗血症腹膜炎などを起こし場合化学療法抵抗治療難渋する事が懸念されており、患者予後死亡率悪化させる主要な要因一つとし て警戒されている。事実最近新潟県神奈川県病院での感染死亡事例報道されており、 一般にも「多剤耐性緑膿菌」について関心が高まりつつある。

緑膿菌における多剤耐性獲得分子機構
緑膿菌多剤耐性獲得する機構として、以下の7つの機構が挙げられる。
1)内因性の耐性機構
特定の抗菌薬使い続ける事により、細菌が本来持っている内在性の遺伝子変化し、耐性獲得する例を以下に示す。
1. DNAジャイレーストポイソメラーゼなどの標的蛋白変異フルオロキノロン耐性
2. D2ポリン減少など細菌外膜変化イミペネム耐性
3. 薬剤能動排出ポンプ機能亢進フルオロキノロン耐性、その他の薬剤耐性消毒薬抵抗性
4. AmpCβ‐ラクタマーゼなど分解酵素過剰産生広域セファロスポリン耐性
5. 細胞表層多糖体であるアルギン酸莢膜多糖などを主成分とするバイオフィルム産生増加
2)獲得性の耐性機構
細菌が、他の耐性菌から伝達性のR‐プラスミドを介して耐性遺伝子外来性に新たに獲得する事により耐性化する例を以下に示す。
1. IMP‐型メタロ‐β‐ラクタマーゼ産生広域セフェム耐性カルバペネム耐性
2. アミノグリコシドアセチル化酵素などの薬剤修飾不活化酵素産生アミカシンアミノ配糖 体耐性など)


これまで我が国では、緑膿菌などのグラム陰性桿菌感染症に対してイミペネムなどのカルバ ペネム使用されて来たが、細胞外膜D2ポリン減少によると思われるイミペネム耐性IPMMIC値が32μg/ml程度まで)は、前述した如く既に2割前後に達している。それに加えさら に、特にプラスミド依存性IMP‐型やVIM‐型メタロ‐β‐ラクタマーゼ産生能力獲得した一部においてはIPMなどのMIC値が維持可能な血中濃度はるかに上回る128μg/mlを超える ものがあり 8)、最近海外でも院内感染原因となる耐性菌としてその動向警戒されつつある 9),10)。


多剤耐性緑膿菌の監視対策
このような事態背景に、1999年4月より施行された「感染症法」では、4類疾患感染症病原 体中に前述の三系統抗菌薬広範耐性獲得したを「薬剤耐性緑膿菌」として指定し、その動向把握するため、定点施設感染症例が発生した場合には報告求めている(註:2003年11月施行感染症法一部改正により、5類感染症定点把握疾患変更)。毎月平均50前後恒常的報告されており、臨床現場無視できない状況となっている事が示 唆される。一方平成12年度より開始された厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業JANIS)」では、臨床分離緑膿菌における薬剤耐性獲得状況やそれによる感染症実態動 向把握されようとしている。

多剤耐性緑膿菌
多剤耐性緑膿菌

さいごに
既にグラム陽性球菌である黄色ブドウ球菌腸球菌肺炎球菌から各々MRSAVREPRSP などが出現し、世界的蔓延しつつあり大きな問題となっている。そのような中で、今後緑膿菌アシネトバクターなどのブドウ糖発酵菌のみならずセラチアエンテロバクターシトロバク ター肺炎桿菌大腸菌などの腸内細菌科属すグラム陰性桿菌における多剤耐性化の進行現実的驚異となっている。そのため、この種の多剤耐性動向について、各医療施設で 十分に監視を行うとともに、それらを増加させないための監視抗菌薬使用方法について、よ り一層配慮注意が必要となっている。


感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
薬剤耐性緑膿菌感染症は5類感染症定点把握疾患定められており、全国500カ所の基幹定点より毎月報告がなされている。報告のための基準以下の通りになっている
診断した医師判断により、症状所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断がなされたもの
病原体検出
(1)血液腹水胸水髄液など、通常無菌的であるべき臨床検体から分離された場合敗血症心内膜炎腹膜炎胸膜炎髄膜炎骨髄炎など)で、以下の検査室での判断基準満たすもの
(2)喀痰、膿、尿、便など無菌的ではない検体からの分離では、感染症起因判定された 場合肺炎などの呼吸器感染症肝・胆道系感染症創傷感染症腎盂腎炎複雑性尿路 感染症扁桃炎細菌中耳炎副鼻腔炎皮膚軟部組織感染症など)で、以下の検査室での判断基準満たすもの
検査室での判断基準
 以下の3つの条件全て満たした場合
 ・イミペネムMIC, ≧16μg/ml
 または、イミペネム感受性ディスクKB)の阻止円直径が13mm以下
 ・アミカシンMIC, ≧32μg/ml
 または、アミカシン感受性ディスクKB)の阻止円直径が14mm以下
 ・シプロフロキサシンMIC, ≧4μg/ml
 または、シプロフロキサシン感受性ディスクKB)の阻止円直径が15mm以下


参考文献
1)Suzuki S, Miyoshi Y, Nakaya R, 1978, R plasmids among Gram‐negative bacteria with multiple drug resistance isolated in a general hospital, Microbiol. Immunol. 22235‐247.
2)Sanders CC, Sanders WE Jr, Goering RV, and Werner V, 1984, Selection of multiple antibiotic resistance by quinolones, beta‐lactams, and aminoglycosides with special reference to cross‐resistance between unrelated drug classes, Antimicrob. Agents Chemother.26 :797‐ 801.
3) 院内感染対策サーベイランスJANIS)<http://idsc.nih.go.jp/index‐j.html>
4) Kurokawa H, Yagi T, Shibata N, Shibayama K, and Arakawa Y,1999, Lancet 354 (9182 ):955.
5) Fridkin SK, and Gaynes RP.1999, Antimicrobial resistance in intensive care units. Clin. Chest. Med.20:30316
6 ) Livermore DM, Multiple mechanisms of antimicrobial resistance in Pseudomonas aeruginosa:our worst nightmare? Clin Infect Dis.2002 Mar 1 ;34 (5 ):634‐40.
7) Hirakata Y, Izumikawa K, Yamaguchi T, Takemura H, Tanaka H, Yoshida R, Matsuda J, Nakano M, Tomono K, Maesaki S, Kaku M, Yamada Y, Kamihira S, and Kohno S, 1998, Rapid detection and evaluation of clinical characteristics of emerging multipledrug‐resistant gramnegative rods carrying the metallo‐beta‐lactamase gene blaIMP. Antimicrob. Agents Chemother. 422006‐2011.
8) Senda K, Arakawa Y, Nakashima K, Ito H, Ichiyama S, Shimokata K, Kato N, and Ohta M, 1996, Multifocal outbreaks of metallo‐beta‐lactamase‐producing Pseudomonas aeruginosa resistant to broadspectrum beta‐lactams, including carbapenems, Antimicrob. Agents Chemother. 40349‐353.
9) Gibb AP, Tribuddharat C, Moore RA, Louie TJ, Krulicki W, Livermore DM, Palepou MF, and Woodford N, 2002, Nosocomial outbreak of carbapenem‐resistant Pseudomonas aeruginosa with a new blaIMPallele, blaIMP‐7), Antimicrob.Agents Chemother. 46255‐ 258.
10Cornaglia G, Mazzariol A, Lauretti L, Rossolini GM, Fontana R, 2000, Hospital outbreak of carbapenem‐resistant Pseudomonas aeruginosa producing VIM‐1, a novel transferable metallo‐beta‐lactamase, Clin.Infect. Dis.31 :1119‐1125.


国立感染症研究所細菌第二部 荒川宜親)




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