内閣府による勧告
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/12 03:21 UTC 版)
「女子柔道強化選手への暴力問題」の記事における「内閣府による勧告」の解説
7月23日には公益法人の認定や監督を行う内閣府の公益認定等委員会が、不祥事が続出した全柔連会長の上村を呼び出して、行政改革担当大臣として公益認定等委員会を担当している稲田朋美が安倍晋三首相名義の勧告書を手渡した。そこでは、全柔連が暴力などの不当行為に依存せず選手を育成する「技術的能力」や、公益法人として事業を適正に行う「経理的基礎」が欠如していると指摘するとともに、8月末までに組織の改善措置を講じて、執行部や理事会の「責任の所在を明らかにし、体制を再構築すること」を求めており、上村ら執行部に対する事実上の辞任勧告とも受け取れる内容となっている。公益認定法に基づく勧告が行われたのは、2008年の新法人制度施行後初めてのこととなった。8月末までに報告が不十分とみなされると改善「命令」となり、それでも効果のない場合は「認定取り消し」に至り、税制優遇措置などを受けられなくなる。公益認定等委員会は「公益法人の自己規律について」という声明まで出して、「公益法人は国民の信頼なくして成り立たない」と強調するとともに、「一般法人法に定められた職務上の義務に違反している疑いがある」として、全柔連執行部(会長、専務理事、事務局長)のみならず、「柔道界では上の人に意見なんて言えない」として言い逃れを続けてきたとされる理事会、監事、評議員会の責任にも言及することとなった。 また、溝口紀子によれば、全柔連の改革への意思が鈍いことや、上村の会長居座りに危機感を抱いて、山口香や北田典子とともに、橋本聖子を始めとした女性アスリート出身の議員に陳情しに行ったものの、彼女たちは全柔連を監督する内閣府にものが言えるような立場ではなかった。そこで、地元静岡選出の衆議院議員で総務大臣政務官でもある片山さつきに直談判すると、ゴールデンウィークに中央合同庁舎でミーティングを持つ機会を得ることになり、事情を詳しく説明した。片山議員は全柔連が提出してきた報告書と現実との間に大きな齟齬が生じていることを認識するに至り、体制の再構築を全柔連に求める勧告書の提出を内閣府へ働きかけることになったという。 これに対して上村は「不名誉で、私の責任。心からおわび申し上げます。」と述べて「辞任時期を前倒しする可能性もある」ことを示唆したものの、その直後、「今すぐにはできない」「柔道を守るため、どっちが正しいか見てもらう。ダメだったら仕方ない。」と、当初の予定通りあくまでも改革を推し進めた上で10月をめどに辞任する方針である意向を明らかにした。一方、全柔連副会長である佐藤宣践は「(現体制は)8月末で終わるものだと思っていた。副会長を含めた執行部は辞める覚悟がある。(会長の発言に)違和感を覚える。」と、10月まで上村が会長を続けた場合は公益認定法人の取り消しもありうるとの認識を示した。同じく副会長の藤田弘明も「報道でしか知らないが、重く受け止めないといけない」と述べると、新しく理事になったばかりの北田も「上村会長は8月末までに辞任すべきであり、これについて色々な理事や評議員と意見交換しましたが、皆同様の意見であった」と語った。さらに評議員の了徳寺は「責任は度重なる自浄作用の機会を踏みつぶし、己の保身のためにその地位にとどまろうとした会長をはじめとする執行部、それを傍観し、放置してきた理事たちにあることは明白。即日辞任されることを要求する。」との見解を示すとともに、このような事態になった以上は30日の臨時評議員会で上層部の解任動議に反対する評議員は1人としておられないものと思うとも述べて、他の評議員を牽制することになった。 7月24日には組織改革の迅速化を促す特別作業チーム「改革促進タスクフォース」が、公益認定等委員会に全柔連執行部、理事会、評議員会などがまともな機能を果たしてこなかったと指摘されたことを受けて、執行部、理事、評議員の解任をも含めた処分を審議する裁定委員会を、今週中にも設置して人選を行うよう上村に進言することになった。 一方、新たに外部理事となった参議院議員の橋本はこの事態を受けて、「上村会長、全柔連理事の全員が総辞職しないと本当に(改革は)始まらない。総辞職ですよ、総辞職が当たり前ですよ。世間一般の常識からしても、スポーツ界の常識としても、遅すぎます。」「本来ならば(1月の暴力問題発覚時の)15人の選手に訴えられた時点で辞めるべきだった」「柔道界だけの問題だけではなく、スポーツ界全体の問題になってることを自覚してほしい」と、執行部や理事の即時辞任を訴えた。また、上村は改革担当大臣の稲田行政から勧告書を受け渡された際には辞めると発言したものの、その後発言をあやふやにしたとの内情も打ち明けた。 また、「暴力の根絶プロジェクト」のセクハラ防止部会部会長を務める北田が「ガイドラインを作るにも、まず実態を知ることが大切です」と、金鷲旗に参加した女子選手を対象にした無記名のアンケート調査を行って、762件の回答があったことを明らかにした。来月のインターハイでも同様の調査を行うという。 加えてこの日には、現体制批判の急先鋒である評議員の了徳寺がマスコミのインタビューに答えた。内閣府から事実上の辞任を要求されながら、改革だけは進めるとして10月まで辞任しないという上村は全くどうしようもないと述べるとともに、上村が前言を取り消して発言を二転三転するのは常套手段となっており、全柔連を私物化している証拠だと非難した。続けて、30日の評議員会で上村を始めとした執行部及び理事を解任に追い込めなければ、柔道界も終わりだと語った。他方、解任された場合、全柔連の新会長には山下泰裕しかいないとしながらも、解任を受けた理事が新会長になるのは国民の納得が得られないので、一定期間の禊が必要となるとも話した。また、新理事になったばかりの谷亮子は、国会議員の職務をきちんと果たしているのか疑問であるとした上で、選手時代には強化委員長だった吉村和郎の言動に右往左往していた場面を何度も見てきているので、現執行部に意見を言えるはずもなく、上村体制を擁護するために連れて来られた存在だと思われるので理事に相応しいとは言えず、辞任すべきだとの見解を示した。 別のインタビューでは、上村は全ての問題の謂わば首謀者であり、全柔連はもはや犯罪集団のような組織と化していると発言した。にもかかわらず、このような事態になってもなお会長の座に居座り続けていられるのは、講道館柔道の創始者である嘉納家の後ろ盾によるものだとも指摘した。2009年まで全柔連及び講道館に君臨してきた嘉納行光にひどく気に入られてその後継者となり、何かと庇護されてきた上村が会長解任されたとあっては、講道館が受けるダメージが大きいからこそ、嘉納自ら根回しを行うなどして現状維持を図ってきたという。続けて、各都道府県の代表者である全柔連の評議員は、ほとんど7段や8段の高齢者であり、10段は無理としても8段や9段に昇段することを人生のゴールと定めている側面があるものの、その昇段を認定するのは講道館館長でもある上村の専権事項になるので、評議員として反抗的な態度は取りづらいとの言も付け加えた。さらに、上村ら役員は講道館より手厚い給与を支払われているが、外部の人間が役員になって給与明細が明らかになることを嘉納と上村は恐れている可能性もあるとした上で、上村は全柔連会長のみならず講道館館長の座からも退くべきだとの考えを示した。上村が辞任した後は、世界の柔道界から尊崇の対象となっている現存の10段位である安部一郎、醍醐敏郎、大沢慶己のいずれかに一時的な館長になってもらった上で、然るべき新館長が引き継げばよいのではないかとの提案も行った。 7月25日に全柔連会長の上村は、「(期限とされた)8月末までに何とかしなければいけない」と述べて、従来より繰り返し発言してきた10月をめどにした辞任を、8月末までに前倒しする可能性があることを示唆するとともに、「(勧告に)徹底抗戦なんてことはない。真摯に受け止めている。今の路線に乗っている改革のスピードを速めていく。」と発言した。 7月26日には全柔連理事で広報委員長の宇野博昌が、「内閣府の勧告を受け、今さら(辞任が)10月メドという話もないし辞めるなら理事も辞める。それが会長の真意です。」と述べて、臨時評議員会が開かれる30日に上村が全柔連会長及び理事を辞職する意向であることを明らかにした。副会長の藤田弘明と佐藤宣践、専務理事である小野沢弘史の執行部も全員退くことになるという。副会長の佐藤は「執行部っていうのは会長、副会長(2人)、専務理事、事務局長の5人。揃って(辞任)ですよ。それでなければ国民も柔道の人たちも納得しない。執行部は一蓮托生。」「雨降って、地固まるチャンス。雨が降らなかったらこんな改革できなかったよ。山口香は柔道界のジャンヌ・ダルクだよ。私は感謝している。」、小野沢専務理事も「会長が退く時は私も同じ。勧告を重く受け止める。」とそれぞれ語った。また、臨時評議員会は人事に関する議題になるので、通常とは異なりマスコミには非公開となる見込みとなった。 7月27日には全柔連の男子強化委員会が開かれた際に、委員長の斉藤仁は内閣府から勧告を受けたことに関して、「大問題だ。機能していなかったとされた理事会の一員として責任を感じる。」と話すと、男子代表の監督・井上康生も「一柔道家として本当に情けなく、恥ずかしい。信頼を取り戻すのは並大抵ではないですが、一日も早い問題解決を心から願っています。」と語った。また井上は、今年から試験的に導入されて世界選手権後に正式採用されると見られる、帯から下を掴むと即反則負けになる新ルールに関して、「あれで勝負が決まっていいのか。他競技での一発レッドカードと脚取りは同じなのか。発祥国として柔道の発展を考えるのがわれわれの使命です。」と述べて、全柔連としてIJFのアスリート委員会などで異議申し立てを行っていく考えがあることを明らかにした。 またこの日には、全柔連強化委員でもある山口香が倉敷市において「強さは優しさ? 柔道から学んだこと」と題した講演を行った。そこでは、体罰は今の時代に合わないと述べるとともに、全柔連には女性の役員や指導者が少ないので、女性を登用していくことでみんなに優しい柔道界につながるとの認識を示した。 7月29日には評議員の了徳寺が、30日の評議員会で執行部と理事を即時解任できなければ公益法人の認定が取り消される可能性があるので、事の重大性を認識しているならば解任決議に同意するよう求める文書を全評議員に送付したことがあきらかになった。さらに、自らも千葉県柔道連盟会長の座を辞任するという。
※この「内閣府による勧告」の解説は、「女子柔道強化選手への暴力問題」の解説の一部です。
「内閣府による勧告」を含む「女子柔道強化選手への暴力問題」の記事については、「女子柔道強化選手への暴力問題」の概要を参照ください。
- 内閣府による勧告のページへのリンク