流行性耳下腺炎とは? わかりやすく解説

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流行性耳下腺炎

別名:ムンプス,おたふくかぜ

流行性耳下腺炎(mumps)は2~3週間潜伏期平均18日前後)を経て発症し片側あるいは両側の唾液腺腫脹特徴とするウイルス感染症であり、通常1~2 週間軽快する。最も多い合併症髄膜炎であり、その他髄膜脳炎睾丸炎、卵巣炎、難聴膵炎などを認め場合がある。

疫 学
流行性耳下腺炎は、5世紀ヒポクラテスがThasus島で、耳の近く両側あるいは片側の腫脹する病気流行したのを記載したのが最初であり、耳周辺痛みを伴うこと、睾丸腫脹することも記載されている 1)。ムンプスという名前の由来不明であるが、ひどい耳下腺炎起こした患者ぼそぼそ話す(mumbling speechことによるではないか、と報告されている 1)。
その後1886 年にHirsh がこの病気世界中広く存在することを報告し 2)、1934年JohnsonとGoodpasture が、この疾患原因微生物フィルター通過するウイルスであると報告した 1)。
流行性耳下腺炎は我が国でも毎年地域的な流行がみられており、1989 年流行までは3~4年周期増減見られていたが、同年MMR ワクチン導入により、1991年にはサーベイランス始まって以来の低い流行状況となったその後緩やかに患者報告数が増加し1993年MMRワクチン中止されたこともあって、1994年以降再び3~4 年周期での患者増加見られるようになっている感染症法施行以降1999年4月2000年12月感染症発生動向調査から見ると、全国約3,000定点医療機関から、毎週1,100~4,800程度報告があった。2000年末より、最近10年間の当該週に比べて定点当たり報告数がかなり多い状態が続き2001年全国定点からの患者報告総数254,711人となり過去10年間で最多であった。しかし、2002 年には182,635
人(暫定データ)となり、減少がみられた。
報告患者年齢4歳以下の占め割合4547%であり、0歳少なく年齢とともに増加し4歳が最も多い。続いて5歳3歳の順に多く、3~6歳で約60%を占めている 2)。

病原体
本疾患の原因であるムンプスウイルスパラミクソウイルス科ウイルスで、表面エンベロープかぶったマイナスセンスの1本鎖RNA ウイルスである。大きさ100 ~600nm で、主に6つ構造タンパク有している。エンベロープには2つ糖タンパクhemagglutinin‐neuraminidase glycoprotein、およびfusion glycoprotein )を有し、この2 つタンパク対す抗体感染から宿主防御すると言われている。

臨床症状
本症の臨床経過は、基本的に軽症考えられている。2~3週間潜伏期平均18 日前後)を経て唾液腺腫脹圧痛嚥下痛、発熱主症状として発症し通常1 ~2週間軽快する。
唾液腺腫脹両側、あるいは片側の耳下腺みられることがほとんどであるが、顎下腺舌下腺にも起こることがあり、通常48時間以内ピーク認める。接触、あるいは飛沫感染伝搬するが、その感染力はかなり強い。ただし、感染して症状現れない不顕性感染もかなりみられ、3035%とされている。鑑別要するものとして、他のウイルスコクサッキーウイルスパラインフルエンザウイルスなどによる耳下腺炎、(特発性反復性耳下腺炎などがある。反復性耳下腺炎耳下腺腫脹何度も繰り返すもので、軽度自発痛があるが発熱伴わないことがほとんどで、1~2 週間自然に軽快する。流行性耳下腺炎に何度も罹患するという訴えがある際には、この可能性考えるべきである。
合併症としての無菌性髄膜炎軽症考えられてはいるものの、症状明らかな例の10%出現する推定されており 4)、Bang らはムンプス患者62%に髄液細胞数増多がみられ、そのうち28%に中枢神経症状伴っていたと報告している 5)。思春期以降では、男性で約2030%に睾丸炎 4)、女性では約7%に卵巣炎を合併するとされている。また、20,000 例に1例程度難聴合併すると言われており、頻度少ないが、永続的な障害となるので重要な合併症のひとつである。その他、稀ではあるが膵炎重篤合併症一つである。

病原診断
ウイルス分離することが本疾患の最も直接的な診断方法であり、唾液からは症状出現7日前から出現9日頃まで 1)、髄液中からは症状出現後5~7日くらいまで分離が可能であるが、少なくとも第5病日までに検体採取することが望ましい。
しかしながらウイルス分離には時間要するため、一般的には血清学診断が行われる。
これには種々の方法があるが、EIA 法にて急性期IgM 抗体検出するか、ペア血清IgG 抗体価の有意な上昇にて診断される。しかし、再感染時にIgM 抗体検出されることがあり、初感染と再感染鑑別にはIgG 抗体のavidity の測定有用報告されている 6)。また最近では、RT‐PCR 法にてウイルス遺伝子検出することが可能となり、これによりワクチン株野生株との鑑別も可能である。

治療・予防
流行性耳下腺炎およびその合併症治療基本的に対症療法であり、発熱などに対して鎮痛解熱剤投与行い髄膜炎合併に対して安静に努め脱水などがみられる症例では輸液適応となる。
効果的に予防するにはワクチン唯一の方法である。有効性については、接種後の罹患調査にて、接種者での罹患は1 ~3%程度であったとする報告がある。接種後の抗体価測定した報告では、多少違いがあるが、概ね90%前後有効なレベル抗体獲得するとされている。
ワクチン副反応としては、接種2週間前後軽度耳下腺腫脹微熱みられることが数%ある。重要なものとして無菌性髄膜炎があるが、約1,000~2,000人に一人頻度である。また、以前にはゼラチンアレルギーのある小児には注意が必要であったが、各ワクチンメーカーの努力により、ムンプスワクチンからゼラチン除かれるか、あるいは低アレルゲンゼラチン用いられるようになり、ゼラチンアレルギーに対して安全に接種が行われるようになってきた。
患者接触した場合予防策として緊急にワクチン接種を行うのは、あまり有効ではない。患者との接触当日に緊急ワクチン接種行っても、症状軽快認められても発症予防することは困難であると言われている。有効な抗ウイルス剤開発されていない現状においては集団生活に入る前にワクチン予防しておくことが、現在取り得る最も有効な感染予防法である。

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
流行性耳下腺炎は5類感染症定点把握疾患定められており、全国約3,000カ所の小児科定点より毎週報告なされている。報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下の2つ基準満たすもの
1. 片側ないし両側の耳下腺の突然の腫脹と、2日上の持続
2. 他に耳下腺腫脹原因がないこと
上記基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、病原体診断血清学診断によって当該疾患診断されたもの

学校保健法での取り扱い
流行性耳下腺炎は第二種伝染病属する。登校基準以下の通りである。
耳下腺腫脹がある間はウイルスの排泄が多いので、腫脹消失するまで出席停止とする。

文献
1)Cherry J.D.Mumps virus.In:Textbook of pediatric infectious diseasesed by Ralph D. Feigin, James D. Cherry, 1998; pp2075‐2083, W.B.Saunders Company, USA.
2)国立感染症研究所厚生労働省健康局結核感染症課:流行性耳下腺炎(おたふくかぜ19932002年病原微生物検出情報月報)IASR.24 :103104, 2003
3)Hirsch A.Handbook of Historical and Geographical Pathology. Translated by Charles Creighton.London,1886
4)Katz SL, Gershon AA, Hotez PJ:Mumps.Krugman's Infectious Diseases of Children,10th ed. 1998, pp280‐ 289 MosbyYear Book,Inc.
5)Bang HO, Bang J. Involvement of the central nervous system in mumps. Bull Hyg 19:503,1944
6)Gut JP, Lablache C, Behr S, Kirn A. Symptomatic mumps virus reinfections.J Med Virol. 45:1723,1995

国立感染症研究所感染症情報センター 多屋馨子)

  





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