電子辞書
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CD-ROM辞書
開発時の歴史的背景としては、まず1980年にソニーとフィリップスが共同で策定した規格、CD-DA(音楽CD)用に開発された記憶媒体であるコンパクトディスク (CD) [16]を、コンピュータの外部記憶媒体として利用するCD-ROMの仕様(イエローブック)が1983年に提案されたことがあった[17]。CD-ROMは、一枚当たりの容量が約600MBという、当時としては非常に大きな記憶容量を持ち、音楽CDと同じ生産ラインが使えるために安価に量産が可能であるという2つの利点があった。さらに、致命的な欠点とされていた「書き換え不可能」という特性を逆に利用して、データ集や出版物、それも大きな記憶容量を十分に生かせる、辞書や百科事典の記憶媒体として期待されていた[16][17]。
そして、1985年に日本で最初のCD-ROM辞書『最新科学技術用語辞典』が三修社から発売された[16][17][18]。その翌年の1986年に、当時の富士通のワープロ専用機OASYS向けの『広辞苑第三版CD-ROM版』の試作が発表され、翌々年の1987年に発売された[16][17]。この『広辞苑第三版CD-ROM版』は、富士通・ソニー・岩波書店・大日本印刷により共同開発され[16]、WING規約と呼ばれたその辞書形式は他社にも無料で提供された[17]。その結果、1988年の三省堂『模範六法昭和62年版CD-ROM版』と自由国民社『現代用語の基礎知識CD-ROM版』の発売に続いて、多くの辞書がこの形式で制作され、発売された[16][17]。
その後、WING規約はEPWINGと名称を変え、出版社、印刷会社、ソフトウェアメーカー、ハードウェアメーカーが集まって1991年に設立された団体「EPWINGコンソーシアム」による普及活動もあって、EPWINGは日本のパソコンで動作する電子辞書形式のデファクトスタンダードとなり、1997年には「日本語電子出版検索データ構造」 (JIS X 4081) という名称でJIS規格化された[16][17]。しかしEPWING形式の電子辞書は2012年10月30日をもって販売を終了し、以降は後継規格であるONESWINGに移行している[19]。
WING規約から派生したもう一つの電子辞書フォーマットに、ソニー独自の電子ブック (EB)がある[17]。富士通主導でEPWINGコンソーシアムが設立されたのと同じ年に、ソニーが中心となって、同様の団体である「電子ブックコミッティー」が組織され、電子ブックの普及活動が展開された[17]。電子ブックは通常のCD-ROMとは違い、8cm CD-ROMをキャディーと呼ばれるケースに入れて、専用のハードウェア「電子ブックプレーヤー」で利用する形態をとる[17]。最初の電子ブックプレーヤーは1990年にソニーから発売された「DATA Discman DD-1」で、後に三洋電機、松下電器産業からもプレーヤーが発売された[17]。当初は、キャディーを取り外した状態のCD-ROMを直接パソコンなどで利用することは禁止されていたが、1994年に解禁され、フリーウェアの辞書検索ソフト(電子ブックビューアー)の登場も手伝って、パソコン用の電子辞書としても普及した[17]。電子ブックプレーヤーの販売は2000年に終了した[20]。
以上述べたように、日本のCD-ROM辞書の標準形式はEPWINGと電子ブックであったが、そのどちらでもない独自規格のCD-ROM辞書も各社から開発・販売された[17]。中でも代表的なのは、平凡社の『世界大百科事典』(1992年)、マイクロソフト社の『Microsoft Bookshelf』(1997年)、小学館の『スーパー・ニッポニカ』(1998年)である[17]。
また、音声や画像を含む電子百科事典などでは、データ量の増大に伴い、より記憶容量の大きなDVD-ROMやUSBメモリを記録・頒布媒体とするものも登場した[2]。2010年現在では、これら外部記憶媒体から直接データを読み出すのではなく、機器に内蔵された記憶装置にインストールして使うことが主流であるため[12]、実際の利用形態の点では、後述する辞書アプリとの区別は曖昧になりつつある。
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