電子辞書 電子辞書の概要

電子辞書

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/26 09:08 UTC 版)

概要

カシオ製の電子辞書 (XD-Z6500)

電子辞書という語が指し示す範囲は広範にわたる。具体的には、専用の液晶画面とキーボードを搭載した携帯型の電子辞書専用機(IC電子辞書)、インターネット上の辞書検索サイトに代表されるオンライン辞書、パソコンやスマートフォン・タブレットなどの汎用OSを搭載したコンピュータにインストールして利用する辞書アプリ、パソコンなどの光ディスクドライブで読み込んで利用するCD-ROM辞書(DVD-ROM辞書)、電子書籍端末に付属する辞書機能などがある。さらに、かな漢字変換システムに組み込まれた語義表示機能などもこれに含められ得る。日本で一般に「電子辞書」といえば、最初に挙げた携帯型の電子辞書専用機(狭義の電子辞書)を指す[2]。一方、欧米では「電子辞書」といえば、CD-ROMやDVD-ROMの辞書を指すことが一般的であるとされる[3]

特徴

紙媒体では表現することが不可能だった音声や動画などのデータも収録・再生できる、辞書・事典のマルチメディア化が電子辞書の一つの特色といえる[4]

紙の辞書と比較した場合の電子辞書の長所としては、

  • 書籍にして数百冊分の大量の情報を小さな記憶媒体に集約できるため、収納・保存に場所を取らず、持ち運びも容易である[5]。また、オンライン辞書の場合、辞書データはネットワーク上に保持されるため、辞書データを収めるための記憶容量は無限に近い[6]
  • 項目数の多い辞書でも、分厚い紙の辞書に比べて、高速な検索ができる[6][7]
  • 前方一致検索・後方一致検索・部分一致検索・完全一致検索・全文検索など、多様な検索方法が用意されている場合がある[6][8]。特に、共通規格で記録された辞書ファイルに対しては、一括で検索をかけることができる(これは俗に「串刺し検索」と呼ばれる)[9]
  • 関連項目などの別項目へも、ハイパーリンクの要領で、項目間、さらには辞書間を簡単に移動できる(いわゆる「ジャンプ機能」)[6]

などがある。

反対に短所としては、

  • どのような機器で閲覧するにしても、本質的に画面の大きさの制約からは逃れられないため、紙媒体の辞書と比べて、一度に視野に入れられる文字量が圧倒的に少なく、スクロールすると前の情報が画面の外に隠れてしまう[10](広辞苑第五版の書籍版、CD-ROM版、電子辞書版の3つを比較したところ、紙媒体の表示面積は、CD-ROM版の約9.3倍、電子辞書版の約36倍だったとする2007年の調査結果がある[11])。
  • 前記の制約があるため、基本的に複数の辞書の情報を並べて見比べることには向いていない[8]
  • パソコンなど使用環境によっては、文字コードの差異から、外字などが適切に処理されない場合がある[12]
  • 紙媒体の辞書では慣習的に概ね巻頭に記される、凡例の掲載場所とそれを開く操作方法に決まりがない[13]など、辞書の形式が多様な分、電子辞書としての典型が一定しない。

などがある。

規格・形式

市販されている電子辞書・百科事典ソフトウェアは数多あるが、電子化された辞書データのファイル形式やディレクトリ構造など、そのフォーマット(形式や規格)については、複数のメーカーが共同で策定した共通規格 (EBやEPWINGなど) のほか、メーカーごとの独自規格で作成されたソフトウェア製品も相当数存在する[14]

主な電子辞書ソフトウェアのファイルフォーマットには、

などがある。電子ブックを除けば、多くがMicrosoft Windowsなどのパソコン向けの規格である。また、規格が策定されていても、その仕様が非公開となる場合も少なくない。これは、著作権保護の観点のほかに、ベンダーロックインを狙ったものであるとも考えられる。


  1. ^ 電子辞書 - ebookpedia”. 日本電子出版協会 (JEPA) (2015年7月27日). 2017年11月26日閲覧。
  2. ^ a b 茂木俊伸 2011, p. 57
  3. ^ 関山健治 2007, p. 241
  4. ^ 茂木俊伸 2011, pp. 58, 65–66
  5. ^ 茂木俊伸 2011, p. 62
  6. ^ a b c d 日本電子出版協会レファレンス委員会 2016, §1.1
  7. ^ 茂木俊伸 2011, pp. 67–69
  8. ^ a b 茂木俊伸 2011, pp. 71–73
  9. ^ 茂木俊伸 2011, pp. 72, 76
  10. ^ 茂木俊伸 2011, pp. 62–64
  11. ^ 山口昌也 2007, pp. 20–24
  12. ^ a b 茂木俊伸 2011, pp. 74–75
  13. ^ 茂木俊伸 2011, pp. 66–67
  14. ^ EPWINGと電子ブック”. 2017年11月26日閲覧。
  15. ^ LeXML - ebookpedia”. 日本電子出版協会. 2017年11月28日閲覧。
  16. ^ a b c d e f g 長谷川秀記 2016, pp. 588–591
  17. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 日本電子出版協会レファレンス委員会 2016, §1.2
  18. ^ 会社案内”. 三修社. 2017年11月24日閲覧。
  19. ^ EPWING 今までに発表した製品 - 販売終了のお知らせ”. 富士通. 2017年11月25日閲覧。[リンク切れ]
  20. ^ "電子ブック". 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2022年6月25日閲覧
  21. ^ a b c d e f 長谷川秀記 2016, p. 591
  22. ^ MBS - 電子辞書の歴史について”. MBS モバイルシステム部会. 2022年6月24日閲覧。
  23. ^ 阿部圭子 2007, p. 5下
  24. ^ 横山晶一 2007, p. 43下
  25. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 電子辞書の歴史について”. 一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会モバイルシステム部会. 2022年6月24日閲覧。
  26. ^ a b 【新製品紹介】“手軽に持ち歩く辞書”の原点”. シャープ広報部 (2012年1月11日). 2022年6月24日閲覧。
  27. ^ 鷹野凌 (2013年9月12日). “懐かしの読書端末や電子辞書が大集合! 当時の関係者が思い出話&苦労話”. Impress Watch. https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/615194.html 2017年11月26日閲覧。 
  28. ^ 中山玲子 (2020年1月10日). “電子辞書で新製品のシャープ、国産1号機メーカーの意地”. 日経ビジネス. https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/011001015/ 2022年6月25日閲覧。 
  29. ^ a b 渡邊宏 (2004年11月15日). “ただ今、急成長中――カシオが語る、これからの電子辞書のあり方”. ITmedia. https://www.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0411/15/news013.html 2022年6月24日閲覧。 
  30. ^ 日本電子出版協会レファレンス委員会 2016.
  31. ^ 製品のあゆみ | CASIO”. 2022年6月24日閲覧。
  32. ^ a b [開発最前線]電子辞書 ロングセラーの軌跡 -- セイコーインスツルメンツ. ネイチャーインタフェイス. (2001-12-28). pp. 48-51. ISBN 4-901581-05-8. http://www.natureinterface.com/j/ni06/P48-51/ 2017年11月25日閲覧。. [リンク切れ]
  33. ^ 新商品 電子辞書で初めてジョグダイヤルを搭載して、快適な操作性を追求 国語・英和・和英・漢字辞書をまるごと収録したIC電子辞書 発売”. ソニー (2000年9月19日). 2022年6月24日閲覧。
  34. ^ 小林哲雄 (2016年7月25日). “カシオの電子辞書「EX-word」、20周年記念プレスイベントで語られた歴史”. マイナビ. https://news.mynavi.jp/article/20160725-a017/ 2022年6月24日閲覧。 
  35. ^ a b 日本電子出版協会レファレンス委員会 2016, §B 付録2
  36. ^ “シャープ、100種類のコンテンツを収録した電子辞書『PW-A8400』を発売――電子辞書のブランドを“Papyrus”に”. ASCII.jp. (2005年8月9日). https://ascii.jp/elem/000/000/349/349238/index.html 2022年6月24日閲覧。 
  37. ^ カラー電子辞書“Brain(ブレーン)”<PW-AC880/AC830>を発売”. シャープ (2008年7月28日). 2022年6月24日閲覧。
  38. ^ タッチ操作のカラー電子辞書「DAYFILER(デイファイラー)」を発売”. セイコーインスツル (2012年11月27日). 2017年11月26日閲覧。
  39. ^ 岡田有花 (2006年7月27日). “ソニー、電子辞書から撤退”. ITmedia. https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0607/27/news087.html 2022年6月24日閲覧。 
  40. ^ 電子辞書ビジネスからの撤退について”. セイコーインスツル株式会社 (2014年10月7日). 2022年6月24日閲覧。
  41. ^ 大学生向け・高校生向けの電子辞書アプリとコンテンツのダウンロード販売を開始”. セイコーソリューションズ (2016年4月5日). 2022年6月24日閲覧。
  42. ^ 電子辞書 | BCN AWARD・BCN IT ジュニア賞”. BCN AWARD. 2022年6月25日閲覧。
  43. ^ 辞書を「押す」時代到来、普及進む電子辞書、売れ筋ランキング”. BCN (2005年11月8日). 2017年11月26日閲覧。
  44. ^ 電子辞書の年別出荷実績推移” (PDF) (2018年2月27日). 2018年7月6日閲覧。
  45. ^ “ネットで何でも検索できる時代 電子辞書は生き残れるのか”. J-CASTニュース. (2014年10月18日). https://www.j-cast.com/2014/10/18218505.html?p=all 2022年6月24日閲覧。 
  46. ^ スマホに押された電子辞書11年ぶり出荷増 小学校 英語教科化で[リンク切れ] - NHK
  47. ^ a b 日本電子出版協会レファレンス委員会 2016, §A.2
  48. ^ a b LDOCE6 Longman Dictionary of Contemporary English 6th Edition”. Pearson. 2017年11月29日閲覧。[リンク切れ]
  49. ^ a b c d e f g h 長谷川秀記 2016, pp. 591–592
  50. ^ iTunes プレビュー App Store > 辞書/辞典/その他”. Apple. 2017年11月29日閲覧。
  51. ^ Google Play アプリ > 書籍&参考書”. Google. 2017年11月29日閲覧。
  52. ^ Microsoft Store Windowsアプリ > 書籍”. Microsoft. 2017年11月29日閲覧。
  53. ^ Mac App Store プレビュー Mac App Store > 辞書/辞典/その他”. Apple. 2017年11月29日閲覧。






固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「電子辞書」の関連用語

電子辞書のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



電子辞書のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの電子辞書 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS