けんびきょう座
名称:けんびきょう座(顕微鏡座)
学名:Microscopium
小分類:南半球
構成する主な星雲、星団、恒星:―
神話の主な登場人物:―
日本で観測できる時期:9月〜10月の約2カ月間
見ごろの季節:秋(20時正中は9月下旬)
18世紀中頃に作られた星座で、そのころ医学用に使われはじめた「顕微鏡」の形を表している、といわれます。しかし実際には、星座の形から顕微鏡を想像することは難しいでしょう。南半球の星座で、秋の南の空低く地平線すれすれに現われます。小さい星座で、しかも構成する星々が5等星以下なので、見つけるのは大変だと思われます。
1.見つけ方のポイント
秋南の空低く現われる星座です。見つけるには9月頃の南の空を眺め、やぎ座の3角形から少し南(下方向)へ目を移していくと、うつぶせになって少し形がくずれたコの字の星の並びが見つかります。それがけんびきょう座ですが、構成する星々が5等星以下と暗いので、見つけるのは難しいでしょう。
2.神話の内容について
18世紀のフランスの天文学者ラカーユが作った星座で、当時医学用に使われはじめた「顕微鏡」の形をかたどったものです。神話とは関係ありません。ラカーユは、17〜18世紀にかけて発明されポピュラーになった器具の名前を星座名として取り入れましたが、星の並びが必ずしも器具の形と合っているとはいえません。けんびきょう座もその形から顕微鏡をイメージするのは、ちょっと無理があります。
3.同じ時期に見える星座について
秋の南の空に見える星座ですので、秋の星座を一緒に見ることができます。9月頃の夜なら、北はやぎ座、東にはみなみのうお座やみずがめ座が見えます。また、南にはつる座やインディアン座が見え、西にはいて座やみなみのかんむり座が一緒に見えるでしょう。
4.主要都市での観測について
日本全国で見えますが、良好に見るにはなるべく南の方へ行ったほうが良いでしょう。
※参考文献:「星座クラブ」沼澤茂美著(誠文堂新光社)、「星のポケットブック」(誠文堂新光社)、「星座天体観測図鑑」藤井旭著(成美堂出版)、「星座・夜空の四季」小学館の学習百科図鑑、「星座博物館・春」、「同・夏」、「同・秋」、「同・冬」、「同・星座旅行」瀬川昌男著(ぎょうせい)、「星空ガイド」沼澤茂美、脇屋奈々代著(ナツメ社)
けんびきょう座
Microscopium | |
---|---|
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属格形 | Microscopii |
略符 | Mic |
発音 | [ˌmaɪkrəˈskɒpiəm]、属格:/ˌmaɪkrəˈskɒpiaɪ/ |
象徴 | 顕微鏡 |
概略位置:赤経 | 20h 27m 35.5s - 21h 28m 10.2s[1] |
概略位置:赤緯 | -27.59° - -45.09°[1] |
広さ | 210平方度[2] (66位) |
主要恒星数 | 5 |
バイエル符号/ フラムスティード番号 を持つ恒星数 | 13 |
系外惑星が確認されている恒星数 | 1 |
3.0等より明るい恒星数 | 0 |
10パーセク以内にある恒星数 | 2 |
最輝星 | γ Mic(4.654等) |
最も近い星 | AX Mic;(12.947光年) |
メシエ天体数 | 無し |
隣接する星座 |
やぎ座 いて座 ぼうえんきょう座(角で接する) インディアン座 つる座 みなみのうお座 |
けんびきょう座(けんびきょうざ、顕微鏡座、Microscopium)は、現代の88星座の1つ。18世紀半ばに考案された新しい星座で、顕微鏡をモチーフとしている。日本では本州以南でほぼ全体を見ることができるが、領域が狭く明るい星もないことから目立たない星座である。
主な天体
恒星
2022年4月現在、国際天文学連合 (IAU) が認証した固有名を持つ恒星は1つもない[3]。
- α星:見かけの明るさ4.890等の5等星[4]。
- γ星:見かけの明るさ4.654等の5等星[5]。けんびきょう座では最も明るく見える[5]。フラムスティード番号では「みなみのうお座1番星 (1 PsA)」[5]。
- ε星:見かけの明るさ4.708等とγ星とほぼ同じ明るさの5等星[6]。フラムスティード番号では「みなみのうお座4番星 (4 PsA)」[5]。
- AU星:りゅう座BY型変光星[7]。周囲にデブリ円盤と太陽系外惑星が発見されている。
- AX星:太陽系から約13 光年の距離にある赤色矮星で、閃光星に分類される爆発変光星[8]。
星団・星雲・銀河
- NGC 6923:渦巻銀河。
- NGC 6925:渦巻銀河。
由来と歴史

けんびきょう座は、18世紀中頃にフランスの天文学者ニコラ・ルイ・ド・ラカーユによって考案された。1756年に刊行された『Histoire de l'Académie royale des sciences』に掲載されたラカーユの星図の中で、フランス語で「le Microscope」という名称が描かれたのが初出である[9][10][11]。のちの1763年にラカーユが刊行した著書『Coelum australe stelliferum』に掲載された第2版の星図では、ラテン語化された「Microscopium」と呼称が変更されている[9][12]。みなみのうお座の西側を切り取って作られたため、みなみのうお座1・2・3・4番星は、けんびきょう座に属している[5][6][13][14]。
1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Microscopium、略称は Mic と正式に定められた[15]。新しい星座のため星座にまつわる神話や伝承はない。
けんびきょう座の一部が、現存しない星座の1つ「軽気球座 (Globus Aerostaticus)」の一部とされたことがあった。1798年に、現在のけんびきょう座・みなみのうお座・やぎ座の境界付近にモンゴルフィエ兄弟の熱気球を記念した星座を設定するようにジェローム・ラランドから提案を受けたヨハン・ボーデは、1801年に刊行した『ウラノグラフィア』の中でこれらの星座の領域を削って軽気球座を設置した。この星図では、現在のけんびきょう座ε星が軽気球座の「a星」とされた[16]。
中国
けんびきょう座の星は、二十八宿の北方玄武七宿の第二宿「牛宿」の星官に配されていた[17]。みなみのうお座3番星がやぎ座の3星とともに天子の田を意味する星官「天田」を成していた[17]。また不明の1星が星官「九坎」に配されていた[17]。
呼称と方言
明治期より「顕微鏡」という訳名が使われており、明治末期以降数度行われた星座の訳名見直しでも他の呼び名が採用されることはなかった[18][19][20]。漢字の読みは一貫して「けんびきやう」または「けんびきょう」とされ、戦後の1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[21]とした際に Microscopium の日本語の学名は「けんびきょう」と正式に定められた[20]。これ以降は「けんびきょう」という学名が継続して用いられている。
1931年に天文同好会の編集により新光社から刊行された『天文年鑑』の第4号では「むしめがね(顯微鏡)」という呼称で紹介され[22]、以降の号でもこの呼称が使われている[23]。これについて天文年鑑の編集に携わっていた山本一清は、東亜天文学会の会誌『天界』1934年8月号の「天文用語に關する私見と主張 (3)」という記事の中で耳に聞いただけでは解りかねる日本語や,漢語萬能時代の夢よりさめて,純粹な日本語(耳で聞いただけで解る日本語)を採用するといふ意味の撤底に於いて,一般に賛成して頂けるものだと思ふ.
[24]としており、自らが妥当と考える星座名の一覧でも「むしめがね(顯微鏡)」という邦訳を充てていた[25]。
出典
- ^ a b “The Constellations”. 国際天文学連合. 2023年1月7日閲覧。
- ^ “星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
- ^ “IAU Catalog of Star Names”. 国際天文学連合. 2023年1月7日閲覧。
- ^ "alp Mic". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月20日閲覧。
- ^ a b c d e "gam Mic". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月20日閲覧。
- ^ a b "eps Mic". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月20日閲覧。
- ^ "AU Mic". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月20日閲覧。
- ^ "AX Mic". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月20日閲覧。
- ^ a b Ridpath, Ian. “Star Tales - Microscopium”. 2022年11月20日閲覧。
- ^ Ridpath, Ian. “Lacaille’s southern planisphere of 1756”. Star Tales. 2023年1月7日閲覧。
- ^ “Histoire de l'Académie royale des sciences” (フランス語). Gallica. 2023年1月7日閲覧。
- ^ “Coelum australe stelliferum / N. L. de Lacaille”. e-rara. 2023年1月7日閲覧。
- ^ "2 PsA". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月20日閲覧。
- ^ "3 PsA". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月20日閲覧。
- ^ Ridpath, Ian. “The IAU list of the 88 constellations and their abbreviations”. Star Tales. 2023年1月5日閲覧。
- ^ Ridpath, Ian. “Star Tales - Globus Aerostaticus”. 2022年11月20日閲覧。
- ^ a b c 大崎正次「中国の星座・星名の同定一覧表」『中国の星座の歴史』雄山閣出版、1987年5月5日、294-341頁。ISBN 4-639-00647-0。
- ^ 「星座名」『天文月報』第2巻第11号、1910年2月、11頁、ISSN 0374-2466。
- ^ 学術研究会議 編「星座名」『天文術語集』1944年1月。doi:10.11501/1124236 。
- ^ a b 「星座名」『天文月報』第45巻第10号、1952年10月、13頁、ISSN 0374-2466。
- ^ 『文部省学術用語集天文学編(増訂版)』(第1刷)日本学術振興会、1994年11月15日、316頁。ISBN 4-8181-9404-2。
- ^ 天文同好会 編『天文年鑑』4号、新光社、1931年3月30日、3-6頁。doi:10.11501/1138410 。
- ^ 天文同好会 編『天文年鑑』10号、恒星社、1937年3月22日、4-9頁。doi:10.11501/1114748 。
- ^ 山本一清「天文用語に關する私見と主張 (3)」『天界』第14巻第161号、東亜天文学会、1934年8月、406-411頁、doi:10.11501/3219882、ISSN 0287-6906。
- ^ 山本一清「天文用語に關する私見と主張 (4)」『天界』第14巻第162号、東亜天文学会、1934年9月、447-451頁、doi:10.11501/3219883、ISSN 0287-6906。
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