種実類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/09 14:25 UTC 版)
食用として利用される部分はふつう種子内の子葉や胚乳であるが、それを包む堅い殻の由来はさまざまであり、クリやヘーゼルナッツ、ピーナッツ、ヒマワリなどでは果皮全体、アーモンドやピスタチオ、ココナッツなどでは果皮の一部、マツ、トチノキ、ブラジルナッツなどでは種皮である。
種実類やナッツは栄養分に富み、つまみや菓子、パン、和え物などさまざまな形で利用されている。また油の原料として利用される例や、生薬とされる例もある。
定義
日本食品標準成分表2020年版(八訂)では、食用とする種子のうち、穀類あるいは豆類以外の食品群を種実類としている[1]。ただし豆類であるラッカセイ(ピーナッツ)は脂質含量が高いため、便宜的に種実類に分類される[1]。一方で豆類を種実とよんでいる例もある[2]。
一方、ナッツは、食用部が堅い殻に包まれた果実や果実の一部、または種子のことである[3]。ナッツは木に実るものに限ることもあるが[4]、より広義にはラッカセイやヒマワリなど草に実るものも含む[3]。この意味でのナッツは種実類の範囲とほぼ重なるが、種実類のうちゴマやエゴマ、チアシードなど小粒のものはナッツには含まれない[1][3]。さらに広義のナッツは、ダイズやヒヨコマメなどの豆類や、デーツ(ナツメヤシ)などの乾燥果実を含むことがある[3][5]。
英語の nut は、植物学においては堅果(1種子を含み、果皮全体が堅く木化し、裂開しない果実)のみを意味するが[6][7][8][9]、一般用語としては剥がすことができる堅い殻で包まれた果実または種子を意味しており[7]、日本語のナッツとほぼ同様である。
種実類やナッツの食用部は、ふつう種子内の胚や胚乳である。それを包む殻の由来はさまざまであり、果皮全体である場合や、種子を含む内側の果皮のみ、さらに種子自身の皮(種皮)である場合がある[10][11]。
クリ(下図1a)やシイ、ヘーゼルナッツ(下図1b)、ヒシ(下図1c)、ハス、ヒマワリ(下図1d)、ラッカセイ(ピーナッツ; 下図1e)などは果実の皮(果皮)全体が硬化しており、ふつう果実全体の形で流通している。植物学的な区分では、堅果とよばれるものが多いが、ヒマワリは痩果、ラッカセイは豆果である[10]。クリなどでは、鬼皮(堅い皮)が果皮に、渋皮が種皮に相当する[12]。
一部の果実では、果皮の内層である内果皮のみが硬化して種子を包んでいる。このような果実は核果とよばれ、硬化した内果皮が種子を包んだ構造は核とよばれる。例として、アーモンド(下図2a)やピスタチオ(下図2b)、マカダミア(下図2c)、ココヤシ(下図2d)、クルミ(下図2e)などがある[10]。
ブラジルナッツ(下図3a)やトチノキ、マツ(下図3b)、カボチャ(下図3c)、ゴマ(下図3d)は、種皮で囲まれた種子が流通している[10]。銀杏はイチョウの種子であるが、その全体ではなく、多肉質の種皮外層を除いたものである(下図3e)。アサやケシの種子は、発芽防止処理されたものが市販されている[1]。
種実類やナッツは一般的に栄養価が高く、アーモンドや亜麻仁、エゴマ、カシューナッツ、カボチャ(種子)、カヤ、クルミ、ココナッツ、ゴマ、ピスタチオ、ヒマワリ、ブラジルナッツ、ヘーゼルナッツ、ペカン、マカダミア、マツ、ラッカセイでは脂質が多く、ギンナン、クリ、シイ、ハス、ヒシでは炭水化物量が多い[1][13]。
種実類やナッツのいろいろ
日本食品標準成分表2020年版(八訂)では、以下のものが種実類として扱われている[1][14][10]。
名称 | 原料植物 | 分類群 | 殻の由来 |
---|---|---|---|
アーモンド | アーモンド | 被子植物、バラ科 | 内果皮(核果) |
あさ(麻) | アサ | 被子植物、アサ科 | 果皮(痩果) |
あまに(亜麻仁) | アマ | 被子植物、アマ科 | 種皮 |
えごま(荏胡麻) | エゴマ | 被子植物、シソ科 | |
カシューナッツ | カシューナットノキ | 被子植物、ウルシ科 | 内果皮(核果) |
かぼちゃ(南瓜) | カボチャ | 被子植物、ウリ科 | 種皮 |
かや(榧) | カヤ | 裸子植物、イチイ科 | 種皮(仮種皮を除く) |
ぎんなん(銀杏) | イチョウ | 裸子植物、イチョウ科 | 種皮(外層を除く) |
くり類(栗) | クリ属 | 被子植物、ブナ科 | 果皮(堅果) |
くるみ(胡桃) | クルミ属 | 被子植物、クルミ科 | 中・内果皮[15](核果)[注 1] |
けし(芥子) | ケシ | 被子植物、ケシ科 | 種皮 |
ココナッツ | ココヤシ | 被子植物、ヤシ科 | 内果皮(核果) |
ごま(胡麻) | ゴマ | 被子植物、ゴマ科 | 種皮 |
しい(椎) | シイ属 | 被子植物、ブナ科 | 果皮(堅果) |
すいか(西瓜) | スイカ | 被子植物、ウリ科 | 種皮 |
チアシード | チア | 被子植物、シソ科 | |
とち(栃) | トチノキ | 被子植物、ムクロジ科 | 種皮 |
はす(蓮) | ハス | 被子植物、ハス科 | 果皮(堅果[8]または痩果[16]) |
ひし類(菱) | ヒシ属 | 被子植物、ミソハギ科 | 果皮(堅果[17]または核果[18]) |
ピスタチオ | ピスタチオ | 被子植物、ウルシ科 | 内果皮(核果) |
ひまわり(向日葵) | ヒマワリ | 被子植物、キク科 | 果皮(痩果) |
ブラジルナッツ | ブラジルナッツ | 被子植物、サガリバナ科 | 種皮 |
ヘーゼルナッツ | ハシバミ属 | 被子植物、カバノキ科 | 果皮(堅果) |
ペカン[注 2] | ペカン | 被子植物、クルミ科 | 中・内果皮(核果)[注 1] |
マカダミアナッツ | マカダミア | 被子植物、ヤマモガシ科 | 内果皮(核果) |
まつ(松) | マツ属 | 裸子植物、マツ科 | 種皮 |
らっかせい(落花生、ピーナッツ) | ラッカセイ | 被子植物、マメ科 | 果皮(豆果) |
上記の多くはナッツとしても扱われるが、アサ、アマ、エゴマ、ケシ、ゴマ、チアシードはふつうナッツには含まれない[3]。一方、広義のナッツは、以下のものを含むことがある[3][4]。
名称 | 原料植物 | 分類群 | 流通部位 |
---|---|---|---|
えんどう(豌豆) | エンドウ | 被子植物、マメ科 | 豆果の種子 |
そらまめ(空豆) | ソラマメ | 被子植物、マメ科 | 豆果の種子 |
大豆 | ダイズ | 被子植物、マメ科 | 豆果の種子 |
ひよこまめ(雛豆) | ヒヨコマメ | 被子植物、マメ科 | 豆果の種子 |
ジャイアントコーン、ミニコーン | トウモロコシ | 被子植物、イネ科 | 穎果 |
デーツ | ナツメヤシ | 被子植物、ヤシ科 | 果実を乾燥させたもの |
なつめ(酸棗仁) | ナツメ | 被子植物、クロウメモドキ科 | 果実を乾燥させたもの |
くこ[要出典] | クコ | 被子植物、ナス科 | 果実を乾燥させたもの |
レーズン[要出典] | ブドウ | 被子植物、ブドウ科 | 果実を乾燥させたもの |
プルーン[要出典] | セイヨウスモモ | 被子植物、バラ科 | 果実を乾燥させたもの |
さんざし(山査子)[要出典] | サンザシ | 被子植物、バラ科 | 果実を乾燥させたもの |
注釈
出典
- ^ a b c d e f “日本食品標準成分表2020年版(八訂)”. 文部科学省. 2022年5月19日閲覧。
- ^ “豆類(種実) Pulses”. 農林水産省. 2022年5月20日閲覧。
- ^ a b c d e f ナッツ. コトバンクより2022年5月20日閲覧。
- ^ a b “ナッツ類 Tree nuts”. 農林水産省. 2022年5月20日閲覧。
- ^ ケン・アルバーラ著 田口未和訳 (2016). ナッツの歴史. 原書房. pp. 13–14. ISBN 978-4562053261
- ^ Stuppy, W. (2004). Glossary of Seed and Fruit Morphological Terms. Seed Conservation Department, Royal Botanic Gardens, Kew, Wakehurst Place. pp. 1–24
- ^ a b “nut”. Merriam-Webster Dictionary. 2022年5月6日閲覧。
- ^ a b 清水建美 (2001). 図説 植物用語事典. 八坂書房. pp. 96–108. ISBN 978-4896944792
- ^ 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “堅果”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 415. ISBN 978-4000803144
- ^ a b c d e f Armstrong, W.P.. “Fruits Called Nuts”. Wayne's Word. 2022年5月6日閲覧。
- ^ 和泉秀彦・三宅義明・舘和彦 (編著). 栄養科学ファウンデーションシリーズ 5 食品学. 朝倉書店. p. 84. ISBN 978-4-254-61655-2
- ^ 斎藤新一郎 (2000). 木と動物の森づくり. 八坂書房. p. 18. ISBN 978-4896944600
- ^ 新版 食材図典 生鮮食材篇: FOOD’S FOOD. 小学館. (2003). p. 302. ISBN 978-4095260846
- ^ “食本成分データベース”. 文部科学省. 2022年5月19日閲覧。
- ^ 斎藤新一郎 (2000). 木と動物の森づくり. 八坂書房. p. 30. ISBN 978-4896944600
- ^ 邑田仁 (2017). “ハス科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 2. 平凡社. p. 214. ISBN 978-4582535396
- ^ 米倉浩司 (2016). “ヒシ属”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 3. 平凡社. pp. 260. ISBN 978-4582535334
- ^ 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 (2012). “ヒシの仲間”. 草木の種子と果実. 誠文堂新光社. p. 129. ISBN 978-4-416-71219-1
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- ^ 「栗の文化史 日本人と栗の寄り添う姿」p154-155 有岡利幸 雄山閣 2017年2月25日初版発行
- ^ a b 「オセアニアを知る事典」平凡社 p112 1990年8月21日初版第1刷
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- ^ 「新訂版 食用油脂入門」(食品知識ミニブックスシリーズ) p83 日本食糧新聞社 平成16年10月29日発行
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- ^ 「人類史の中の定住革命」p125 西田正規 講談社学術文庫 2007年3月10日第1刷
- ^ 「人類史の中の定住革命」p185 西田正規 講談社学術文庫 2007年3月10日第1刷
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- ^ 「世界の食用植物文化図鑑」p238 バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント著 山本紀夫監訳 柊風舎 2010年1月20日第1刷
- ^ 「世界の食用植物文化図鑑」p245 バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント著 山本紀夫監訳 柊風舎 2010年1月20日第1刷
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