自然災害の解釈と原発避難者の法適用についての論争
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「被災者生活再建支援法」の記事における「自然災害の解釈と原発避難者の法適用についての論争」の解説
被災者生活再建支援法の支給対象は家屋被害を受けた世帯のみならず、自然災害による長期避難世帯も支給対象としているが、福島第一原子力発電事故の長期避難者への適用は認められておらず、「自然災害」の解釈を巡って国(内閣府)福島県、浪江町、日弁連等の間で論争となっている。 そもそもは、2011年4月3日に福島県知事が菅直人内閣総理大臣に対し「東日本大震災に係る緊急要望」として被災者生活再建支援法を、原子力災害も対象に含めることを要望し、4月4日に浪江町議会が総務省及び海江田万里経済産業大臣に被災者生活再建支援制度の原子力災害事項の追加もしくは新たな生活支援のための制度構築を面会要望し、4月13日に参議院災害対策特別委員会で公明党山本博司議員が原発事故避難者も適用するよう質問し、6月1日に、みどりの未来が支援法22条2号ハに該当するので支給対象に加えるべきと提言し、7月25日の参議院予算委員会で、みんなの党川田龍平議員が「長期避難世帯認定が福島県でないことを指摘し、原子力災害の長期避難者に支援金を出すよう主張」し、8月19日に日弁連が「東日本大震災復興構想会議の提言に対する意見書」として複合災害の被害者である原発事故被害者を支援法による支援とするよう提言した。 さらに2012年5月18日に自由民主党の衆議院議員秋葉賢也は「福島第一原子力発電所事故による被災者への被災者生活支援制度適用に関する質問主意書」により、「福島原子力発電所事故による避難により長期にわたり住宅が居住不能な場合には、被災者生活再建支援制度を弾力的に運用して支援金を支給することにより、かかる被災者の生活の再建を支援すべき」「弾力的運用が困難な場合には、被災者生活再建支援法の改正により、かかる被災者の生活の再建を支援すべき」と考え、政府の見解を質問したが、時の野田佳彦総理大臣は「原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)第三条第一項本文の規定により東京電力がその損害を賠償する責めに任ずることとなる。」を回答するなど、民主党政権は原発事故避難者への支援金の支給をことごとく退けた。 なお、原発事故の避難者にも、同制度を適用すべきとした秋葉賢也は、自民党が与党になると復興副大臣となっている。 日本弁護士連合会では、平成24年7月5日に公開された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)の報告書において、本件原発事故の「直接的原因は、地震及び地震に誘発された津波という自然現象である」と結論付けられていることから、本原発事故が、地震・津波に起因していることは疑いなく、本件原発事故と自然災害との間に因果関係があることは明らかであることから、自然災害に起因する災害について支援の対象としている被災者生活再建支援法を原発事故避難者にも適用するよう会長声明で求めている。日本弁護士連合会の会長声明は、法律の解釈にしたがって人権の侵害になるとされている場合に出されるものである。(日弁連HP参照) 福島県議会では、同法制度が県の自治事務であり、県内外に多くの原発避難者を抱えているにもかかわらず、これまで「自然災害の解釈と原発避難者の法適用についての論争」がされず県政のチェック機能を果たしていない。平成23年度6月議会(7月1日定例会)で、日本共産党神山悦子議員の「避難住民の携帯電話通話料の負担も小さくありません。災害救助法を適用するなどして被災者の負担軽減を図るよう求めますが、県の考えを伺います。」という質疑に、 荒竹宏之生活環境部長が「避難者の携帯電話通話料の負担軽減につきましては、被災者の生活全般の支援のため、被災者生活再建支援法による支給金額の大幅な拡充や原子力災害被災者に対する同法による救済等を国に強く要請しているところであります。」と論点が外れた応答がされたのみであり、平成25年6月議会まで被災当事県でありながらまったく議論されていない。(福島県HP参照) 2013年4月10日に浪江町長は根本匠復興大臣に対し「東日本大震災に起因する原発事故による長期避難世帯を被災者生活再建支援法の長期避難世帯と認めるよう求める要望書」を提出し、同じく佐藤雄平福島県知事に対し「東日本大震災に起因する原発事故による長期避難世帯を被災者生活再建支援法の長期避難世帯と認め速やかに支援金の支給を求める要望書」を提出した。これに呼応して、4月26日に山岸憲司日本弁護士連合会会長は「被災者生活再建支援法の福島第一原子力発電所事故の長期避難者への適用を求める会長声明」を行なった。 浪江町では、(1)自然災害に起因する今回の原子力発電所の事故を支給対象とせねば支援法が死に法となる。(2)法解釈は現場を知る福島県が被災者に寄り添い、柔軟に運用する義務がある。(3)東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律の趣旨を踏まえ被災者生活再建支援法を適用すべき。(4)長期避難世帯の認定は、被災自治体や社会福祉士会、弁護士会などの専門家の意見を参考にすべき。(5)復興予算をまず被災者の生活再建資金に使うべき。(6)被災者生活再建支援法は、平成7年の阪神大震災の教訓を受け誕生し、様々な災害を乗り越え改良を積み重ねてきた法律であるとし、被災地は、その精神を受け継ぎ、次につなげる義務がある。などと主張している。(浪江町HP参照) 2013年5月20日、福島県弁護士会会長小池達哉氏は会長声明で「本件原発事故による避難者は、避難生活の長期化により、生活資金が枯渇しつつある。福島復興再生支援特別措置法及びいわゆる原発事故子ども・被災者支援法による生活再建施策も早急に進められるべきは当然として、本件原発事故による長期避難者が置かれた現状に鑑みれば、支援法を弾力的に運用して早期に支援金を支給することにより復興を後押しすることも検討されるべきである。」と会長声明をしている。(福島県弁護士会HP参照) 2013年5月27日、富岡町議会は根本匠復興大臣等に直接「復興に関する要望書」を手渡した。その中で本制度の見直しについて申請期間の延長、原発事故の長期避難者を含めること、帰還に対する経費や心の負担等への新支援制度を確立することを要望している。(富岡町HP参照) 全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協、会長:河瀬一治敦賀市長)では、被災地の復興についての要望事項のひとつとして、「国は、国策である原子力発電が甚大な原子力災害を招いたことを強く認識し、長期避難を強いられている被災者の生活再建のため、被災者生活再建支援法が定める長期避難世帯に対する支援と同等の支援制度を創設するなど、国の責任による救済措置を講ずること。」と新法創設を掲げている。(全原協HP参照) 国は、これまでの前政権からの整理として、地震・津波によるといわれる天災、自然災害による被災者に対しては災害救助法、災害弔慰金の支給等に関する法律、被災者生活再建支援法で対応し、今回の原子力災害の賠償は原子力損害賠償法で対応されてきた経過があるが、国の責任を放棄するのでなく、東京電力がこの賠償金が速やかに支払われるよう全面的にバックアップをするとしている。 内閣府は、有識者を交えて検討したが、対象を広げると福島県だけで最大約900億円かかるなど、財源不足も背景にあり、「原発事故は、自然災害との因果関係が薄い人災だから、東電が住民の損害を償うべきだ」との理由から、対象拡大を見送った経過があるとしている。(『毎日新聞』2013年5月1日朝刊社会面参照)また、当初、東電による賠償金の仮払金100万円は、原発避難者が対象外である被災者生活再建支援法の基礎支援金を参考に決められた経過がある。 2013年6月12日、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会の能見善久会長は、双相地域6市町村の現地調査を行い、帰還困難地域は住民が戻る見込みが立たないとして、財物賠償のほかに避難者の生活再建に必要な金額の差を埋める必要性に言及し、移住費用の賠償を追加検討する考えを示した。
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