純文学シリーズ
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1979年冬には業界最大手の自販機本専門出版社・アリス出版の看板雑誌『少女アリス』の川本耕次編集長(三流劇画ブーム・ロリコンブームの仕掛け人)から吾妻のもとに「ロリコン(美少女)ものを描いてください。純文学みたいなやつ」という依頼があり、商業誌初のロリコン漫画「純文学シリーズ」を1980年1月頃から1980年9月まで連載する(1981年7月に奇想天外社から『陽射し』として単行本化された)。 この連作は吾妻が得意とするギャグやSFを離れ、叙情的に描かれた美少女のエロティシズムを明確なテーマとしており、後のロリコン漫画〜美少女コミックに直結する最重要作品群とみなされている。大塚英志は著書において、 これは戦後まんが史における恐らくは最初の確信犯的な「ロリコンまんが」です。もちろんそれ以前にいくつか手塚的記号絵に近い作風でエロを描いた作品はなかったわけではありません。けれどもこの連作は手塚的記号絵の正当な後継者による、しかも作品としても高い水準のものでした。吾妻ひでおはいきなりこの連作で「ロリコンまんが」の到達点ともいえる水準を示しているのであり、それ以降の今日に至るまでの二十年間に描かれたこの種のまんがは吾妻ひでおの縮小再生産でしかありません。 — 大塚英志+ササキバラ・ゴウ『教養としての〈まんが・アニメ〉』講談社〈講談社現代新書〉2001年、93頁 と評価している。 また大塚はメジャー少年誌で活動していた吾妻が突如としてアリス出版の自販機本にロリコン漫画を発表したことを「漫画の世界で表と裏の境界を低くする動きの始まりであった」と評価している。そのため大塚は吾妻のことを 「まんが界の中にあった少年週刊誌を頂点とするヒエラルキーを最初に崩した一人」 「ぼくが師事したみなもと太郎の時代には、少年誌出身のまんが家がエロ雑誌に書くことは凋落を意味したが、わずか数年の後の吾妻ひでおの時代にはむしろそれは快挙となる」 「メジャー少年まんが誌のまんが家が自販機本というエロ本の中でも最底辺であるメディアに現役のまま登場するというのはあり得ないことでした。もちろんこういった壁はばかげたものでしかありません。そして吾妻ひでおはこの壁を最初に乗り越え無化していったまんが家だったのです」 と日本の漫画史におけるエポックメイキングな存在として位置づけている。 なお大塚が言うように、メジャー少年誌・少女誌で活動するプロの漫画家が、同人誌のみならず「最底辺のエロメディア」と呼ばれた自販機本に成人向け漫画を発表することは当時としても前代未聞のことであった(吾妻によれば、古巣の秋田書店から警告を受けていたが無視したという。このような経緯から吾妻ひでおは商業誌・同人誌ともにロリコン漫画の開拓者とみなされている。 『純文学シリーズ』は、吾妻ひでおが1980年1月頃から1980年9月まで自販機本『少女アリス』(アリス出版)に連載した一連の成人向け漫画作品の通称。いわゆるロリコン漫画のルーツとされる記念碑的作品群であり、おおこしたかのぶは「ロリコン漫画を文学的表現にまで高めた作品」「それはペダンチックなロリコンファンの趣向に合致し、ロリコンであることの後ろめたさへの免罪符の役割を果たした」と評している。 発表の場が自販機本になったのは、吾妻が海外SF小説を元ネタにしたマニアックなパロディ漫画『どーでもいんなーすぺーす』を連載していたニューウェーブ漫画雑誌『Peke』(みのり書房)の担当編集者であった川本耕次が自販機本出版専門のアリス出版に移籍したからで、自販機本に発表することに何らかの意図や目的があった訳ではないが、当時はメジャー少年誌出身の漫画家が成人向けの自販機本に、それも写真・文芸中心の非漫画誌『少女アリス』に執筆することは、それだけで「事件」であった。連載はアリス出版の分裂にともなう川本の退職(同社から派生した群雄社に移籍)とともに打ち切りとなるが、翌年7月の『少女アリス』廃刊にともない、吾妻は全8頁からなる短編『海から来た機械』を終刊号に寄稿している。 単行本はアリス出版から発行されず、1981年7月に奇想天外社から『陽射し』のタイトルで表題作含む「純文学シリーズ」8作品のほか『マンガ奇想天外 SFマンガ大全集』No.4(1981年1月)に掲載された「帰り道」と描き下ろしのイラスト集「妄想画廊」を加えて、漫画単行本としては大変珍しいB5判ハードカバーの装幀で単行本化された。 その後、同年7月26日に紀伊國屋書店新宿本店で行われた『陽差し』の刊行記念サイン会には多数のファンが集まり、時間内でサインが終わらず、会場を倉庫に変えて夜まで続行する事態となった。 自販機本『少女アリス』掲載作品 作品名作品を収録している単行本初出発表年月担当編集者発行所ゴタゴタブラザース「我ら、少女を愛す」 人間失格(1980年 奇想天外社)ワンダー・AZUMA HIDEO・ランド2(2016年 復刊ドットコム) プレイコミック1974年少女アリス Vol.71980年1月号(再録) 1974年 川本耕次 アリス出版 午後の淫荒 陽射し(1981年 奇想天外社)十月の空(1984年 双葉社)夜の魚(1992年 太田出版)COMIC新現実 Vol.3(2005年 角川書店)夜の帳の中で(2006年 チクマ秀版社)陽射し -reissue-(2018年 復刊ドットコム) 増刊少女アリス 1980年1月? 水仙 陽射し(1981年)十月の空(1984年)夜の魚(1992年)夜の帳の中で(2006年)陽射し -reissue-(2018年) 少女アリス Vol.81980年3月号 1980年2月 さまよえる魂 陽射し(1981年)十月の空(1984年)夜の魚(1992年)夜の帳の中で(2006年) 少女アリス Vol.91980年4月号 1980年3月 不思議ななんきん豆 陽射し(1981年)十月の空(1984年)夜の魚(1992年)夜の帳の中で(2006年)陽射し -reissue-(2018年) 少女アリス Vol.111980年6月号 1980年5月6日 夜のざわめき 陽射し(1981年)十月の空(1984年)夜の帳の中で(2006年)さまよえる成年のための吾妻ひでお(2013年 河出書房新社)陽射し -reissue-(2018年) 少女アリス Vol.121980年7月号 1980年6月 陽射し 陽射し(1981年)十月の空(1984年)夜の魚(1992年)夜の帳の中で(2006年)さまよえる成年のための吾妻ひでお(2013年)陽射し -reissue-(2018年) 少女アリス Vol.131980年8月号 1980年7月 水底 陽射し(1981年)十月の空(1984年)夜の魚(1992年)夜の帳の中で(2006年)陽射し -reissue-(2018年) 少女アリス Vol.141980年9月号 1980年8月 夕顔 陽射し(1981年)十月の空(1984年)夜の帳の中で(2006年)陽射し -reissue-(2018年) 少女アリス Vol.151980年10月号 1980年9月 海から来た機械 海から来た機械(1982年 奇想天外社)十月の空(1984年)夜の魚(1992年)コミックスクライマックス エッチ編(1995年 竹書房)夜の帳の中で(2006年)陽射し -reissue-(2018年) 少女アリス Vol.251981年8月号 1981年7月 草間緑 妄想画廊 陽射し(1981年)夜の帳の中で(2006年)陽射し -reissue-(2018年) 単行本『陽射し』用描き下ろし 1981年7月 千頭俊吉 奇想天外社 耽美雑誌『JUNE』掲載作品 作品名作品を収録している単行本初出九月怪談 海から来た機械(1982年)十月の空(1984年)夜の帳の中で(2006年) 1981年10月号 愛玩儀式 海から来た機械(1982年)十月の空(1984年)吾妻ひでお童話集(1996年 筑摩書房)さまよえる成年のための吾妻ひでお(2013年) 1982年1月号 ラブ・ミー・テンダー 十月の空(1984年)吾妻ひでお童話集(1996年) 1982年5月号 ストレンジ・フルーツ 十月の空(1984年)吾妻ひでお童話集(1996年)陽射し -reissue-(2018年) 1982年9月号 ジャアクダブラー 十月の空(1984年)贋作ひでお八犬伝(1985年) 1983年1月号 MAIDO ONAJIMI ミニティー夜夢(1984年 双葉社) 1983年5月号 野獣の檻 1983年9月号 ガデム 十月の空(1984年)吾妻ひでお童話集(1996年)陽射し -reissue-(2018年) 1984年1月号 横穴式 十月の空(1984年)夜の魚(1992年)吾妻ひでお童話集(1996年) 1984年5月号 ひでお童話集 ひでお童話集(1984年 双葉社)吾妻ひでお童話集(1996年) 1984年9月号 KOTATU 贋作ひでお八犬伝(1985年) 1985年3月号
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