少年の情報漏洩騒動
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「神戸連続児童殺傷事件」の記事における「少年の情報漏洩騒動」の解説
少年法第61条では、「家庭裁判所の審判に付された少年犯の氏名、年齢、住所、容貌などが明らかとなる記事や写真を、新聞および出版物に掲載してはならない」と規定されている。だが「審判に付される前」を狙って、新潮社がAの顔写真を掲載した週刊誌を出版した。 写真週刊誌『FOCUS』(編集長:田島一昌)は、1997年7月9日号(同年7月2日発売)で「『14歳酒鬼薔薇聖斗』の学校と殺人動機」と題した巻頭の4ページ特集を組んだが、同記事中でAの正面からの顔写真を掲載した。その事実が判明すると、直ちに大半の大手業者は販売を自粛決定したが、新潮社は回収せず販売を強行、一部の書店で販売された(即刻完売)。さらに、翌7月3日に発売された『週刊新潮』(1997年7月10日号)にも、目隠し入りのAの顔写真が掲載された。7月4日、法務省(東京法務局)は新潮社に対し、『FOCUS』および『週刊新潮』の回収を勧告した。これは、メディアによる人権侵犯に関連して、発行媒体の回収にまで踏み込んだ指導をした史上初の事例だったが、新潮社側は拒否。『FOCUS』発売直後、ウェブサイトで犯人の顔写真が数多く流布された。 また、審判終了後、『文藝春秋』(1998年3月号)に、検事供述調書が掲載される事が判明。一部で販売自粛、各地の公立図書館で閲覧停止措置となる。後の法務省の調査で、供述調書は革マル派が神戸市の病院に侵入してコピーしてフロッピーディスクに保存していたことが判明し、塩田明男が逮捕された(神戸事件をめぐる革マル派事件)。 立花隆は、これを雑誌に掲載するか否かについて当時の編集長平尾隆弘から緊急に相談を受け、2時間で7枚に及ぶ調書を精読、「どんなことがあっても掲載すべき」との判断を下す。少年法61条に抵触するか否かについては、この法令が報道することを禁じているのは、あくまで、本人のアイデンティティを推知できるような要素であって、それ以上ではない-従って、この調書を載せること自体は少年法61条に抵触することは全くないと判断。掲載を推薦し『文藝春秋』(1998年3月特別号)に掲載された。立花隆自身バッシングが起こることは確実と予想してのことであった。立花は『FOCUS』にAの顔写真が掲載されたことについては、別の理由から反対している。 その後も『FOCUS』には、Aの犯行記録ノートや神戸市教育委員会の指導要録など、本来なら外部に流出するはずのない資料が次々と掲載された。 なお、ワイドショーでAの家を映した際、表札が見えたという証言がある。 図書館不買による制裁論 1997年7月3日、札幌市教育委員会図書館全館長会議は、神戸事件の少年の個人情報を記載した『FOCUS』『週刊新潮』の2誌を当分の間登録せず、札幌市中央図書館長の保管とし、利用者に対する閲覧禁止と貸出し禁止を決定。同年10月20日、札幌市議会第一部決算特別委員会で、中央図書館長が「(反社会的な行為を行った出版社に対する)資料購入の停止などの制裁は非常に困難」との認識を述べたことについて、市議の小田信孝(公明党)は、以下のように図書館不買による制裁の必要を述べた。 憲法に保障されているように,言論の自由というものを守らなければならないと,これは私は鉄則としてわかっております。しかし,そこで,何度も何度も人権無視をするような,人権じゅうりんを繰り返すような週刊誌に対して,これは何もしないで,そのまま放っておいてもいいのかということから見ると,私はこれは黙っておられないなと。何らかの規制なり,何らかのペナルティーが今後必要かなと,そういうふうにも考えるものですから,この問題を取り上げたわけでございます。私は,週刊新潮及び新潮社が敗訴した裁判を調べました。昭和54年2月26日から始まりまして,平成8年12月まで,実に10件敗訴しております。私も,これは本当にしょうがないなというふうに感じるのですけれども,判決の内容を見ますと,非常に慰謝料が安いのですよ。要するに,10万円の慰謝料とか,100万円の慰謝料とか,200万円の慰謝料,こういう判決になっていますから,出版社にとっては,これぐらいの経費は最初から見込んでいるのかもしれませんね。しかし,平成に入ってからもう6件も敗訴しているのです。これは,確信犯じゃないですか。書きたいように書く,やりたいように宣伝する,売れればいい,こういう姿勢で書いているのです。ですから,これは,やっぱり市民の側からも,こういう週刊誌は許せないなという気持ちが出てくるのではないでしょうか。私もそういう気持ちになります。そこで,今,こういう事例を申し上げましたけれども,図書館がこういう週刊誌を買うということは,商業主義に味方していることになりませんか。私は,不買運動をしてしかるべきだと思うのですよ。 — 小田信孝、1997年10月20日 札幌市議会第一部決算特別委員会 書店側などの対応・反応 問題となった『FOCUS』に関しては、JRグループ各社の駅構内に展開するキヨスクの運営会社や、地下鉄互助会(営団地下鉄の駅構内の売店を経営)、小田急商事や、航空各社(日本航空・全日本空輸・日本エアシステム)の全空港売店、セブン-イレブン・ジャパン、ローソン、紀伊國屋書店、青山ブックセンターなどが、「少年の人権侵害」「反社会的な行為」などを理由に、販売を中止した。また、7月2日から3日にかけ、地元の神戸市や同市の教育委員会、神戸弁護士会などは新潮社に対し、2誌の発売中止を申し入れ、日本新聞労働組合連合も抗議声明を出した。 また、田原総一朗(ジャーナリスト)、久田恵(ノンフィクション作家)らは『FOCUS』の報道を批判。灰谷健次郎(作家)は7月9日号の発売直後から新潮社に抗議し、次号には同誌を批判した寄稿文「『フォーカス』が犯した罪について」が掲載された。灰谷はその後も、同誌担当重役や出版担当重役らと話し合ったが、歩み寄りには至らず、同誌の報道に抗議し、16日にはそれまで同社から出版していた『太陽の子』『兎の眼』など約30作品(文庫本および単行本)の版権をすべて引き揚げることを発表した。 一方、一部の書店で『FOCUS』や『週刊新潮』のコピーが店長の判断により、有料で販売され、本店から中止命令を下された店もあることも報じられた。また、新潟県三条市を中心とした地域で発行される地方紙『三條新聞』(三条新聞社)1997年7月15日付の紙面には、燕市内の一部地域で、問題の『FOCUS』の見開き2ページのコピーが、回覧板に挟まれて回されていたことを伝える記事とともに、回覧されていた顔写真入りのコピーがそのまま掲載された。三条新聞社側は翌16日付の紙面一面で、「編集部と制作部間の連絡ミスによるもの」「コピーをそのまま掲載し、社会に多大なご迷惑をかけた」とする「おわびとお知らせ」を山崎勇社長名で掲載したが、新潟地方法務局は18日付で同社に対し、人権を著しく侵害したとして再発防止を「説示」した。
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