家族のあり方
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 02:20 UTC 版)
法務委員会調査室の内田亜也子は、選択的夫婦別姓に対する賛成論と反対論は、伝統的家族モデルの維持に関する議論において大きく対立している、とする。 積極・賛成論消極・反対論家族観 多くの選択的夫婦別姓制度賛成論において、日本の「家族の一体感が損なわれるなどを理由とした」反対論は、時代遅れ、との主張が見られる。山口一男(社会学者・シカゴ大学教授)は、反対論で見られる「選択的別姓が家族を崩壊させる」という主張について、理論的にも離婚率への影響もなく、選択的夫婦別氏制度を導入した国で離婚率が上がったという実証例もないとしている。 琉球新報は社説において、家族の絆が壊れるとの指摘に根拠はなく、事実婚の家族に一体感がないと決めつけるのは失礼と主張。 井戸田博史(歴史学者)は、現在の制度では夫の氏を婚氏とする(夫婦同姓の98%)ことは、夫の「家」に入ることになり、「嫁」と意識されることに結びつき、結婚する女性にとっては、姓の変更が男性への従属を意味するように感じられる、と主張している。 奈良新聞のコラム「国原譜」では、結婚によって女性が夫の「家」に入るという意識は今も根強いが、負の側面がある、としている。 青野慶久(サイボウズ代表取締役社長)は、選択的夫婦別姓が導入されれば、固定したまま長く続いてきてしまった「男女の役割分担観」や「日本の家庭こうあるべき」みたいなのが、いろいろあるようになってよい、と述べる。 師岡カリーマ・エルサムニー(文筆家)は、「日本の強制的な同姓制度で無理やり繋ぎ止められた家族が幸せとは思えない」として、家族の絆を重視するならば導入を検討するべきだ、としている。 夫婦同姓制度とは家父長制度、父権制であり、あるいはそれに準じる意識がDVの原因となっているとの指摘がある(R.E. Dobash,K. Yllo,,松島京)。 水無田気流(社会学者)は、選択的夫婦別姓は、同姓を選択したい夫婦はこれまで通り同姓を選択し得る以上、「家族を壊す」との批判には当たらない、と主張している。選択的夫婦別姓が導入されても恐らく多数派は選択しないと考えられるが、切実に必要とする人たちがいることは事実であり、「他人の生き方」まで拘束したいという意見はおかしいのではないか、形骸化した「理念としての家族像」ではなく生きた現実の家族生活を見るべき、と述べている。 榊原富士子(弁護士)によれば、反対論に民法750条の立法目的が「家族の一体感の醸成」であったなどという主張が見られることがあるが、東京地方裁判所は平成25年の判決において、そのような主張は明確に退け、立法時の資料に忠実に同姓を強制する制度が「婚姻制度に必要不可欠のものであるとも、婚姻の本質に起因するものであるとも説明されていない」と認定している。 稲田朋美(政治家)は、2018年に「高齢者同士の結婚も多い」ことを選択的夫婦別姓を求める理由の一つに挙げている。 橋下徹(政治家・弁護士)は2010年の大阪府議会において、選択的夫婦別姓への反対論として挙げられる「家族のきずな」について、自身も母親と姓が異なるが子どもの立場で悪影響を受けたこともなく、姓と家族のきずなというものを簡単に同一視することは危険だと批判している。 内田亜也子(法務委員会調査室)は、「選択的夫婦別姓は伝統的な家族モデル、親族間関係、家系、慣習(墓、介護問題等)を崩壊させる」といった反対意見がある、としている。百地章(日本会議理事)は、国際規約(10条1項)で国による家族保護が定められている、と主張し、選択的夫婦別姓制度がそれに逆行する、と主張している。また、百地は、現在の夫婦同姓制は「家族を保護」しようとした憲法の精神にふさわしい、などとも主張している。また、百地は、夫婦別姓を導入すると容易に家系をたどれなくなり、「祖先を敬うという日本人の道徳観に悪影響を与える可能性」もある、とも主張している。 八木秀次(日本教育再生機構理事長・新しい歴史教科書をつくる会元会長)は、選択的夫婦別氏を認めると姓は家族の呼称とは呼べなくなり同姓家族にも影響が及ぶため、一国の制度のあり方として国民全員が議論するべき、と主張。 日本会議は、「夫婦同姓制度は『家族』を表すファミリーネームとしての意義がある」と主張し、夫婦同姓・親子同姓の原則を維持すべき」と主張。 高橋史朗(親学推進協会会長・日本会議政策委員)は、選択的夫婦別氏が家族の絆を崩壊させるとして反対。 神道政治連盟のメディア神政連Web Newsによれば、森隆夫(教育学者・親学推進協会特別委員)は、夫婦が別姓になれば、家族のきずなが弱まる、親と異なる姓がトラウマを招く、親子別姓がいじめに発展する、孤独感が増す危険性がある、と主張している。 加藤彰彦(明治大学教授)は、「正論」誌上で、選択的夫婦別姓制度は、親族関係を調整する慣習法の破壊であり、祖父母という子育ての重要なサポート源を失わせ、出生率を低下させる可能性が高い、などと主張している。 選択的夫婦別姓に反対する日本政策研究センターの機関誌「明日への選択」によれば、石原輝(弁護士)は、反対する理由として、最小単位の社会集団は夫婦であるべき、と主張している(1995年)。 清湖口敏(産経新聞記者)は、姓に固執して結婚をあきらめる女性(または男性)がいるとしたら、その程度のもので「別れたらよい」などとしている。 宗教法人の新生佛教教団を母体とする宗教紙の日本時事評論は、選択的夫婦別姓は「離婚奨励」「結婚制度否定」だと主張し、「家族崩壊」につながり「薬物依存症」を増やし犯罪も誘発し社会荒廃を招く、などと主張している。 子に関する議論 木村草太(憲法学者)は、民法の同姓規定が、別姓希望カップルやその子どもを法律婚から排除し、家族の一体感にも子どもの利益にもマイナスの影響を与えている、としている。 山口一男(社会学者・シカゴ大学教授)は、反対論でよく見られる「両親が別姓だと子どもがいじめにあう」といった意見について、そのようないじめは「他者の自由への不寛容による心理コスト」が原因であり、そのために同姓を強制するのは本末転倒であり、禁止するべきなのはいじめや差別行為の方だと指摘している。 本田和子(児童学者)は、子供への悪影響は不寛容な社会の風潮が原因であり、意識革命によって画一志向を払拭すべきだと主張している。 内田亜也子(法務委員会調査室)は、選択的夫婦別氏制が法制度化され社会に周知されれば偏見に基づく「いじめ」等もなくなるとの意見がある、としている。 大塚玲子(ジャーナリスト)は、実際に事実婚夫婦の子供にインタビューを行い、その家族は仲が良かったこと、(反対論でよく言われるような)子供がかわいそう、といったことはなかったこと、子供としても選択的夫婦別姓の早期導入を望んでいることを紹介した上で、社会全体が「多様な価値観」を認めるようになれば楽になる人や、力を発揮できる人が増えていく、としている。 秦郁彦(現代史家)は、選択的夫婦別姓の問題は親子別姓となる点であり、子の姓を決める名案が存在せず、しわ寄せは子どもにいく、と主張している。阿比留瑠比(産経新聞記者)は、選択的夫婦別姓では、別姓を選択した夫婦に子供が生まれた場合、子供は必ず片方の親と別姓になり、夫婦のあり方や親の自由だけの問題ではなく子供の人権にも影響を及ぼす、と主張している。 八木秀次(日本教育再生機構理事長・新しい歴史教科書をつくる会元会長)は、選択的夫婦別姓制度の導入により、夫婦の間に生まれた子供の姓(氏)を夫と妻のどちらの姓にするのか、どの時点で決めるのか、複数生まれた場合はどうするのか、などの問題が生じてくる、と主張している。 百地章(日本会議理事)は、選択的夫婦別氏制度導入については、親子別姓をもたらし、「親子の一体感の希薄化や子供の不安感などが生じ、成育に支障を来す」と家族の崩壊につながる、と主張している。 山口意友(玉川大学教授)は、2007年の著書で、選択的夫婦別姓においては、夫婦間で子供を自身の姓にしたいとの争いが起きるなどと主張している。山口は、子供に成年後自ら改姓する選択権を与えるとしたとしてもその選択をさせるのは残酷、などと主張している。 同性婚との関係 鈴木賢(法学者)は、同性婚について、同性カップルへの法的保障を考えれば同性同士の法律婚も認めていくべき、とし、その上で、実際に同性間での婚姻を認めるとなった場合には、婚姻時にそのどちらかが姓を変えることはおかしいとの声が上がると考えられるため、その場合には異性間の婚姻においても夫婦同姓の規定の改定は避けては通れない、としている。
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