女装
『義経記』巻2「鏡の宿吉次が宿に強盗の入る事」 少年時代の義経は鞍馬寺の稚児で、遮那王(しゃなおう)と呼ばれた。彼は16歳の時、鞍馬を出て、金商人(こがねあきうど)吉次に伴なわれ、奥州めざして旅立つ。近江の鏡の宿(しゅく)に宿をとった夜、盗賊団が押し入るが、賊たちは、被衣(かずき)をかぶった色白の義経を、遊女だと思った。義経は太刀を抜き、吉次と力を合わせて、数人の賊を斬り殺した。
『義経記』巻3「弁慶義経に君臣の契約申す事」 御曹司義経は被衣(かづき)をかぶり女房装束を着て、清水寺で通夜していた。彼を追って来た弁慶が、経を読む義経の後ろ姿を男か女かはかりかね、太刀の尻鞘で脇を突いて、「稚児か?女房か?」と問う。義経は「狼藉なるぞ、退(の)き候へ」と言い、義経と弁慶は太刀を抜いて激しく打ち合う→〔決闘〕3。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第13章 アキレウスが9歳になった時、「彼なくしてトロイアは攻略できぬ」と言われた母テティスは、戦場へ行かせないためにアキレウスを女装させ、乙女としてリュコメデスに預けた。しかし、オデュッセウスがこれを見破った。
『スリュムの歌』 トール神の武器である槌を、巨人族の王スリュムが盗む。トールは花嫁姿に変装してスリュムの館へ行く。「燃えるような恐ろしい眼だ」と怪しむ王に、「巨人の国を恋い焦がれて眠れなかったから」と、花嫁の侍女に扮したロキが答えてごまかし、トールは槌を取り戻して、巨人達を殴り殺す。
『南総里見八犬伝』第6輯巻之4第57回 犬坂毛野は少年時代から女田楽の一員となり、父・粟飯原胤度の仇、馬加(まくわり)大記に近づく機会を狙っていた。15歳の年、毛野は美貌の女田楽師旦開野(あさけの)として馬加の館に入り込み、馬加一族を皆殺しにした。
『マハーバーラタ』第4巻「ヴィラータ王の巻」 ユディシュティラ、ビーマ、アルジュナら5兄弟と、彼らの共通の妻ドラウパディーは、正体を隠してヴィラータ王の庇護をうける。王妃の弟キーチャカがドラウパディーに言い寄るので、ドラウパディーは「夜、踊り場で逢いましょう」と答える。ビーマが女装をして暗闇で待ち受け、ドラウパディーだと思って抱こうとするキーチャカを殺す。
★2.貴人の女装。
『春雨物語』「天津処女」 良峯宗貞の好色ぶりを聞いた仁明天皇が、後涼殿の端(はし)の間(ま)の簾のもとに女衣をかぶって潜む。宗貞は「女がいる」と思って衣の袖を引くが返答がないので、「山吹の花色衣ぬしや誰問へど答えず口なしにして」と歌を詠みかける。天皇は衣を脱ぎ、2人は顔を見合せる。驚いて逃げる宗貞を、天皇は召し寄せ、ご機嫌であった。
『平治物語』上「主上六波羅へ行幸の事」 藤原信頼が反乱を起こして内裏を占拠し、二条天皇を一室に幽閉する。二条天皇は女房姿になり、車で内裏を脱出しようとはかる。怪しんだ兵たちが弓筈で車の簾をあげて中を見ると、17歳の二条天皇はまばゆいほどの美女に見え、兵たちはそのまま車を通した。
★3.少年の女装。
『少年探偵団』(江戸川乱歩)「怪少女」~「意外また意外」 大鳥時計店所蔵の「黄金の塔」をいただく、と怪人二十面相が予告する。明智小五郎の命令で小林芳雄少年が女装し、15~16歳のおさげ髪のお手伝い千代となって、大鳥時計店に住み込む。二十面相が老支配人に変装して、「黄金の塔」を金めっきのにせものと取り替えるが、千代(=小林少年)はそれをまたもとに戻し、二十面相は知らずににせものを盗んで行く。
『ハックルベリー・フィンの冒険』(トウェイン)11 「僕(ハックルベリー・フィン)」は女装して1軒の家を訪れ、奥さんから名を聞かれて、最初は「サラ・ウィリアムズ」と名乗るが、次には「メアリー」と言ってしまう。男の子だと見破られたので「ジョージ・ピーターズ」と偽名を使うが、奥さんは「今度はエレグザンダーだなんて言わないでよ。さあ行きなさい。サラ・メアリー・ウィリアムズ・ジョージ・エレグザンダー・ピーターズ」と言って、「僕」を追い出す。
『ムーンライト・シャドウ』(吉本ばなな) 高校生の柊(ひいらぎ)は、恋人ゆみこを交通事故で亡くしてから、彼女の形見のセーラー服を着て、登校するようになった。柊の親も、ゆみこの親も、泣いてとめたが、柊はとりあわなかった。2ヵ月ほど過ぎたある朝、柊の夢にゆみこが現れ、彼の部屋のクロゼットからセーラー服を持ち去った。目覚めると、セーラー服はなくなっていた。以後、柊は男姿に戻った。
*逆に、恋しい男の形見の服を着る→〔男装〕7の『井筒』(能)。
★5.女装の男に求婚する。
『お熱いのがお好き』(ワイルダー) ミュージシャンのジェリーはギャング団に追われ、相棒のジョーとともに、女装して逃げる。ところが金持ちの老人オスグッド3世が、ジェリーに一目惚れし、求婚する。困ったジェリーは、「私は本物の金髪じゃないし、煙草も吸うし、子供も産めないの」と言って断る。オスグッド3世は「それでも構わない」と言う。ジェリーはかつらを取って叫ぶ。「おれは男だ!」。オスグッド3世は少しも動ぜず、「誰でも欠点はある」。
★6.男児を女装で育てると健康に成長する、との俗信があった。
『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』(河竹黙阿弥)「割下水伝吉内」 八百屋久兵衛の家では、なかなか子供にめぐまれなかった(生まれてもすぐ死んでしまった)。ようやく男児が生まれたので、無事成長を願って女姿で育て、名前も「お七」とつけた。しかし「お七」は5歳の時に誘拐され、後に「お嬢吉三」と呼ばれる盗賊になった。
『南総里見八犬伝』第2輯巻之3第16回~巻之4第17回 犬塚番作・手束夫婦は結婚後14~15年のうちに男児3人が生まれたが、1人も育たなかった。夫婦は子のないのを悲しみ、滝の川の弁才天に祈って、あらたに男児をもうけた。無事成長を願って男児は「信乃」と名づけられ、11歳まで女装で育てられた(*信乃は後に「孝」の珠を得、八犬士の1人として活躍した)。
*女児を男の子として育て、無事成長を願うということもある→〔男装〕3cの『富士額男女繁山(ふじびたいつくばのしげやま)』(河竹黙阿弥)。
『雪之丞変化』(市川崑) 雪之丞は商家の息子だったが、悪人・土部三斎(どべさんさい)の陰謀で、父母は無実の罪に問われて自殺した。雪之丞は歌舞伎の女形となり、役者修行をしつつ、父母の仇討ちの機会をうかがう。土部三斎の娘・波路が雪之丞の舞台を見て、彼の美貌に一目惚れする。雪之丞はそれを利用して、土部三斎に近づく。雪之丞の計略で土部三斎の手下が仲間割れし、その巻き添えで波路は死んでしまう。土部三斎は娘の死を悲しみ、雪之丞と対決する気力も失せて、毒をあおる。
『頼朝の死』(真山青果) 将軍・源頼朝が、御所の少女・小周防(こずほう)を恋慕する。頼朝は、妻・尼御台(=北条政子)の目をはばかって、被衣(かずき)をかぶり女姿に変装して、深夜、御所の土塀を乗り越え、小周防のもとを訪れようとする。警護の武士・畠山重保が3度誰何(すいか)しても答えなかったので、重保はそれが頼朝とは知らず、「曲者である」として斬りつける。頼朝は深手を負って、まもなく死んだ。
*女装した皇帝を、臣下がそれと知らず刺し殺す→〔両性具有〕1dの『陽物神譚』(澁澤龍彦)。
『続玄怪録』5「冥土の大工」 大工の蔡栄は幼い頃から、つねに自分の食事の一部を土地神に供えて拝み、その功徳で死を免れることができた。蔡栄が病気になった時、冥府の役人が現れて、「すぐに化粧をして、女の着物を着よ」と命じ、「誰か来たら、『蔡栄は不在で、どこへ行ったかわかりません』と言え」と教えた。まもなく冥府の将軍がやって来たが、蔡栄を見つけることができず、「別の大工を代わりに冥府へ連れて行こう」と言って、帰って行った。
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