働かざる者食うべからず。とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > デジタル大辞泉 > 働かざる者食うべからず。の意味・解説 

働(はたら)かざる者(もの)食(く)うべからず

読み方:はたらかざるものくうべからず

怠けて働こうとしない人は、食べてならない徒食いましめる言葉


働かざる者食うべからず

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/09 23:26 UTC 版)

働かざる者食うべからず」(はたらかざるものくうべからず、英語: He who does not work, neither shall he eat.)とは、労働に関する慣用句である。

働こうとしない怠惰な人間は食べることを許されない。食べるためにはまじめに働かなければならないということ。

歴史や価値観によって対象となる立場の人間は、下記の通り異なっている。

聖書

新約聖書の『テサロニケの信徒への手紙二』3章10節には「働こうとしない者は、食べることもしてはならない」という一節がある。

εἴ τις οὐ θέλει ἐργάζεσθαι μηδὲ ἐσθιέτω
(働こうとしない者は、食べることもしてはならない)

これが「働かざる者食うべからず」という表現で広く知られることとなった。ここで書かれている「働こうとしない者」とは、「働けるのに働こうとしない者」であり、病気や障害、あるいは非自発的失業により「働きたくても働けない人」のことではないとされている[1]

ソビエト連邦

ソビエト社会主義共和国連邦(現在のロシア連邦)およびソビエト連邦共産党(前身はボリシェヴィキ、現在はロシア連邦共産党)の初代指導者ウラジーミル・レーニンは、1917年12月に執筆[2]した論文「競争をどう組織するか?」の中で、「『働かざるものは食うべからず』――これが社会主義の実践的戒律である」と述べた。レーニンがこの言葉を使った際には、労働者を酷使し「不労所得で荒稼ぎする資本家達」を戒める意味合いがあった。

1918年制定のロシア社会主義連邦ソヴェト共和国憲法(いわゆる「レーニン憲法」)の第18条では、次のように書かれている。

Российская Социалистическая Федеративная Советская Республика признает труд обязанностью всех граждан Республики и провозглашает лозунг<<Не трудящийся, да не ест!>>
(ロシア社会主義連邦ソヴェト共和国は、労働を共和国のすべての市民の義務であるとみとめ、『はたらかないものは、くうことができない』というスローガンをかかげる。)[3]

その後、1936年制定のソビエト社会主義共和国連邦憲法スターリン憲法)第12条にも記載された。

Труд в СССР является обязанностью и делом чести каждого способного к труду гражданина по принципу: «кто не работает, тот не ест». В СССР осуществляется принцип социализма: «от каждого по его способности, каждому — по его труду».
(ソビエト社会主義共和国連邦においては、労働は、『働かざる者は食うべからず』の原則によって、労働能力のあるすべての市民の義務であり、名誉である。ソビエト社会主義共和国連邦においては、『各人からはその能力に応じて──各人にはその労働に応じて』という社会主義の原則が行われる。)[4]

  

  1977年制定のブレジネフ憲法ではこの言葉はなくなった。

Статья 14. Источником роста общественного богатства, благосостояния народа и каждого советского человека является свободный от эксплуатации труд советских людей. В соответствии с принципом социализма «От каждого — по способностям, каждому — по труду»
(第14条 社会的富の拡大と人々およびすべてのソビエト人の幸福の源は、搾取のないソビエト人民の労働である。『それぞれからは自分の能力に応じて、それぞれへは自分の仕事に応じて』という社会主義の原則に従う)

日本

日本では聖書やソ連の考え方とは異なっていた。井手英策日本国憲法への「勤労の義務第27条)」挿入の際のいきさつを分析すると、強者の富裕層の勤労でなく弱者の貧困層の勤労が念頭にあったといってよいだろう、としており(松本烝治委員長の憲法問題調査委員会)、これには近世以来の日本社会の価値観が影響していると考察している[5]

脚注

  1. ^ 松永晋一 『テサロニケ人への手紙』 日本基督教団出版局、1995年、249頁。ISBN 4818402001
  2. ^ 印刷物として初めて世に出たのはレーニンの没後5年、1929年1月20日発行の同党の機関紙「プラウダ」第17号
  3. ^ 岩波文庫人権宣言集p.283
  4. ^ 岩波文庫人権宣言集p.292
  5. ^ 井手 2018, p. 13-16.

参考文献

  • 『用例でわかる故事ことわざ辞典』学研辞典編集部、2005年。 ISBN 978-4053017994
  • 井手英策『幸福の増税論-財政はだれのために』岩波書店、2018年。

関連項目


働かざる者食うべからず

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/03 21:49 UTC 版)

テサロニケの信徒への手紙二」の記事における「働かざる者食うべからず」の解説

3章10節には「働こうとしない者は、食べこともしてはならない」(口語訳)という一節があり、これは後のキリスト教徒職業観・労働観広く影響したのであるとともに、「働かざる者食うべからず」という表現広く知られるとなった。 ここで書かれている働こうとしない者」つまり「怠惰な」者とは、あくまでも「正当で有用な仕事携わって働く意志をもたず、働くことを拒み、それを日常態度としている」者と解される。つまり、病気障害によって働きたくても働けない人や非自発的失業者を切り捨てるような文言ではない。 この格言のような句は、実際にパウロの他の書簡出てこないのは勿論のこと旧約新約の他の箇所にも見られないまた、ギリシア・ローマ古典にも見出されない。そこで、その起源推測するしかないが、大きく分けるヘレニズム起源説ヘブライズム起源説分かれる。これについては、ヘレニズム文化において肉体労働重視されることがなく、また主人に対して奴隷使い方勧告した言葉元になっていると見ようとしても、この句には使役の意味合い含まれていない(つまり働かせる側でなく働きうる当人述べられている)ことなどから、創世記箴言示されている労働観とも結びつくヘブライズム起源説方に分がある見られている。 この句はあくまでも1世紀当時浮ついたテサロニケ教会人々即した勧告であって、全時代的普遍的な労働黄金律示したものと解釈されるべきではない。しかし、古代から中世にかけての聖職者の生活には、この句が強く影響した古代教父たちも労働重要性説く際にこの句を引いており、アレクサンドリアのアタナシオスカイサリアのバシレイオスヒッポのアウグスティヌスらの著書そうしたくだりを見出すことが出来る。さらにはベネディクト会標語祈りかつ働け」もまた、この句にもとづくものであるが、当時積極的に評価されたのは修道院での労働である。 もっとも、宗教改革が起こると、ジャン・カルヴァン逆に修道士司祭他人の汗によって養われているとして、この句の注解聖職者対す批判展開したまた、宗教改革期に、世俗的な職業労働積極的な評価対象に入るようになったその中でピューリタンリチャード・バクスター英語版)は、全キリスト者与えられた神からの義務として職業労働位置づける際に「働こうとしない者は」云々を神からの命令として引き合い出し市民的労働観形成寄与した。 この句を労働価値説基づいて「働かざる者食うべからず」と改変したのが、ソ連およびソ連共産党前身ボリシェヴィキ)の初代指導者ウラジーミル・レーニンである。彼は、同党の機関紙プラウダ第17号1929年1月20日発行)の論文競争をどう組織するか?」で、「働かざるものは食うべからず」は社会主義実践的戒律であると述べた。この論文ユリウス暦1917年12月25日から28日1918年1月7日から10日)に執筆されていたものであり、この概念ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国1918年憲法初め定式化された。その第18条条文には「はたらかないものは、くうことができない」と明記されている。さらにはソ連1936年憲法スターリン憲法第12条にもこの表現があり、同様の規定第二次世界大戦後東ヨーロッパ共産主義諸国憲法に見出すことが出来た。ことに、ルーマニア人民共和国憲法1952年)の第15条には、「はたらかないものは、くうことができない」の文言がある。 日本国憲法勤労の義務は、マッカーサー草案内閣草案勤労権利しか盛り込まれていなかった条項に、衆議院での審議の際に日本社会党提案によって加筆されたものである。この社会党提案スターリン憲法の「働かざる者食うべからず」からの影響があったとも言われている。また、かつては憲法学者の宮澤俊義のように、日本国憲法勤労の義務を、不労所得排除まではいかずともその制約認めうる規定として、共産主義諸国の「働かざる者食うべからず」の原則と繋がるものと解釈する者もいた。 ベーシックインカム議論なども持ち上がっている21世紀日本では、「働かざる者食うべからず」という言葉労働神聖視するものとして槍玉上がることもしばしばであるが、むしろ本来の「働こうとしない者は、食べこともしてはならない」の句に立ち返った上でその本の意味正確に受け止め直し社会生かしていく方途模索すべきことも提案されている。

※この「働かざる者食うべからず」の解説は、「テサロニケの信徒への手紙二」の解説の一部です。
「働かざる者食うべからず」を含む「テサロニケの信徒への手紙二」の記事については、「テサロニケの信徒への手紙二」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「働かざる者食うべからず。」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ

「働かざる者食うべからず」の例文・使い方・用例・文例

  • 働かざる者食うべからず.
Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「働かざる者食うべからず。」の関連用語

働かざる者食うべからず。のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



働かざる者食うべからず。のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの働かざる者食うべからず (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaのテサロニケの信徒への手紙二 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS