陰陽師が用いた道具・呪法など
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「陰陽師」の記事における「陰陽師が用いた道具・呪法など」の解説
九字(くじ) 陰陽道で用いられたとされる呪文の一種。一般には「臨兵闘者皆陣列在前」の九字を言い、結印したり四縦五横に切る所作を伴う。現在のところ「九字」の初見は葛洪『抱朴子』「登渉篇」とされるが、同書では末尾が「在前」ではなく「前行」となっており、入山時に唱える「六甲秘祝」として呪のみが載る。なお、四縦五横に切る所作自体は道教経典等にも見え古くから存在しているが、結印の所作は見えない。 陰陽道における九字では、古いものでは鎌倉時代の陰陽道の反閇儀礼を伝える文献に四縦五横に切りながら「青龍、白虎、朱雀、玄武、空陳、南寿、北斗、三体、玉女」を唱えるものがある。現存する文献では身固や反閇の際に用いられた可能性も示唆されている。 喼急如律令 元来は、中国漢代の公文書の末尾に書かれた決り文句で「急いで律令(法律)の如く行え」の意であるが、転じて「早々に退散せよ」の意で悪鬼を払う呪文とされた。なお、密教や修験道においても「喼急如律令」の呪は用いられる。 六壬式盤(りくじんしきばん・りくじんちょくばん) 六壬によって吉凶を判断するための道具で、栻とも呼ばれる。地を表す「輿(よ)」と呼ばれる方形の台座(地盤)と、天を表す「堪(かん)」と呼ばれる円形の天盤で作られ、輿には、二十八宿、十干、十二支、四隅の八卦が記載され、堪には十二月将等が記載されている。堪の十二月将を輿の十二支に合わせることで、簡易な計算を行ったのと同じ効果が得られる。式盤を正しく作成するためには、輿には雷に撃たれた棗の木、堪には楓(ふう)にできるコブである楓人を使用する。 渾天儀(こんてんぎ) 天文上の変異を知るために天文観測に用いた道具で、指標となる星の運行の組み合わせや配置を観測した。特に本来はあってはならない箒星(ほうきぼし。彗星のこと)が現れると大災や天変地異が起こるとされた。 呪符・霊符 陰陽師が用いたとされる、種々の紋様や呪文を記載した護符。俗に「セーマン(晴明桔梗・晴明紋・五芒星・ペンタフラマ・ペンタゴン)」や「ドーマン(九字格子)」と呼ばれる図形を記すものも多い。他にも「鎮宅七十二霊符」や「×」・「篭目」・「渦巻」・「六芒星」や、「急急如律令」の呪文を文字で書きつけたものなど数多くの呪符がある。 日本における護符の歴史は未だ解明されていない部分が多く、古くは藤原京跡などから「急々如律令」の呪句を書き付けた呪符木簡等が出土しており、奈良時代にはすでに活用されていたとも伝わっている。古い資料はほとんど残っておらず、不明な点が多い。 太上神仙鎮宅霊符 「太上秘法鎮宅霊符」「鎮宅七十二道霊符」等とも呼ばれる72種の護符。現在の所、道蔵の『太上秘法鎮宅霊符』が原典とされ、中世初期に伝来したものと考えられている。陰陽道に限らず仏教、神道などの間でも広く受容された。この霊符を司る神を鎮宅霊符神というが、元来は道教の玄天上帝(真武大帝)であると考えられている。玄天上帝は玄武を人格神化したものであり、北斗北辰信仰の客体であった。それ故日本へ伝来すると妙見菩薩や天之御中主神等と習合し、星辰信仰に影響を与えている。 近世には72種を一枚に刷った「鎮宅霊符」が各地の妙見宮や霊符社から出され、軸装して祭られていた。なお、土御門神道の祭神は現在泰山府君、鎮宅霊符神、安倍晴明が主神である。楠木正成や加藤清正なども鎮宅霊符神の熱心な信者であったと伝えられている。 鎮宅霊符神を祭る主な社寺は関西圏に多い。 群馬県:少林山鳳臺院達磨寺 福井県:天社土御門神道本庁 京都府:曙寺(黄檗禅宗瑞芝山閑臥庵)、革堂 靈麀山行願寺鎮宅霊符神堂、青蓮山不動堂明王院(松原不動寺)等 大阪府:星田妙見宮(小松神社)、大阪天満宮霊符社、堀越神社 太上神仙鎮宅七十二霊符尊神、高津山報恩院、鎮宅霊符神社(東大阪市東山町)、密華山妙法寺(今里)等 奈良県:鎮宅霊符神社(陰陽町)、信貴山成福院等 熊本県:霊符神社(八代神社末社) 人形(ひとかた、ひとがた) 形代(かたしろ、かたじろ)、撫物(なでもの)とも言い、紙や木材・草葉・藁などで人の形に作られ、それにより患部等を撫でることによって自分の穢れをこれに移しつけて祓うのに使われるもので、流し雛の風習はこれを元としている。一方で人形に相手の名前等を記し、その人形を傷つけるなどして、相手に事故死や病死などの重大な災いをひき起こす呪いとして用いたり、男女二体の人形を一つにし祈祷することで恋愛成就を祈るなど、様々な祈祷儀礼に広く見られる。丑の刻参りの藁人形が有名。 式神(しきがみ) 陰陽師が使役したとされる使役神を言う。「識神」「しきのかみ」「式(しき)」とも。「式神」の解釈は密教の護法童子に似たものであるとか、精霊を使役するものであるとか諸説存在する。陰陽師にとって占具である式盤は最も身近な存在であり、天盤と地盤は合して宇宙そのものを表す。それ故強大な呪力を持つとの信仰が少なくとも密教側の史資料には散見され、「都表如意輪法」等のように、陰陽道の式盤によく似たものを作成し、一種の呪具と見做し祈祷することで種々の利益を得るとする信仰があった。そうした資料の中には「式神」を呼び出す旨が記されるものもある。 身固(みがた)め 陰陽道の護身作法の一種。 禹歩(うほ) 足で大地を踏みしめて呪文を唱えながら千鳥足様に前進して歩く呪法を指す。基本は北斗七星の柄杓方を象ってジグザグに歩くものであるが、九宮八卦の九星配置を象って歩くやり方や、片足を引きずりながら歩いて地面に図形を描くといったものもある。名前の通り、中国の禹が治水のために中国全土を踏破した結果、遂には足を引きずりながら歩くようになったという伝説にちなんだものである。魔を祓い地を鎮め福を招くことを狙いとしており、ドーマンの九字と同様、葛洪『抱朴子』には薬草を取りに山へ踏み入る際に踏むべき歩みとして記されていることが起源である。奇門遁甲における方術部門(法奇門)では、術を成功させるために行われていた。 反閇(へんぱい) 道中の除災を目的として出立時に門の前で行う呪法。自分自身のために行うこともあるが、多くは天皇や摂関家への奉仕として行われた。反閇では最初に玉女を呼び出して目的を申し述べる。呼び出すときには禹歩を踏む。最後は6歩歩いて振り返らず出発する。 五行占霊(ごぎょうせんれい) 陰陽五行思想を下敷きにした木・火・土・金・水の五気にあやかって行われる、占術系の呪術儀法。 泰山府君祭・刀禁呪・浄心呪・浄身呪・浄天地呪 いずれも元来は道教の祭祀。
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