著作隣接権(ちょさくりんせつけん)
実演家、レコード製作者、放送事業者に認められる権利である(著作権法89条)。著作物を実演する場合でも、表現者の個性が表現されることに注目して、録音録画、放送、送信、貸与等をコントロールできる(著作権法91,92条、95条の2)。レコード製作者についても、その独自性よりも、レコードに著作物を固定するという行為を保護するために、複製権(著作権法96条)等が認められる。放送事業者についても、録音録画、複製権等が認められる(著作権法98条)。
これらの権利は、著作者の権利とは全く独立で存在し、かつ著作権者の権利を害するものではない。例えば、著作者Xが創作した著作物を、歌手Aがレコード会社BにてCD化した場合、かかるCDについては著作者Xは著作権によりかかるCDの複製についてコントロールでき、歌手Aおよびレコード会社Bは著作隣接権により、かかるCDの録音等をコントロールできる。
著作隣接権
【英】 neighbouring right 【独】 angrenzendes Recht
著作物を利用することによって生ずる実演,レコード,放送,有線放送について,それぞれ実演家,レコード製作者,放送事業者,有線放送事業者が有する権利の総称(著89条以下)。これらの者は,既存の著作物を利用してこれを一般公衆に伝達するのが通常であり,著作権との関連は大きいが,自ら精神的創作はなさないゆえ著作者ではなく,したがって著作権の主体とはならない。そこでこれらの者の経済的利益の保護を目的として創設されたのが著作隣接権である。著作隣接権の国際的保護については,実演家等保護条約(ローマ条約)がある。
なお,アメリカ合衆国では著作隣接権という概念そのものがなく,同国では,レコードを著作物として,レコード製作者を著作者として保護しており(実演家,放送事業者らは著作権法によっては保護されていない。),これが著作権保護の国際的摩擦を生じる一因となっている。
(注:この情報は2007年11月現在のものです)
著作隣接権
著作隣接権 copyright and related rights
著作隣接権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/13 05:48 UTC 版)
著作隣接権(ちょさくりんせつけん、仏: droits voisins 、英: related rights 、独: Verwandte Schutzrechte )とは、著作物の創作者ではないがその流布に貢献のある者に対して契約に基づかずに与えられる法律上の利益の総体をいう。著作隣接権の保護範囲は、法域ごとにばらつきが大きく、権利の外縁を特定することは困難である[注釈 1]が、実演家(歌手、俳優、声優など)の実演は、立法例の多くで保護の対象となっている。これに対して、本の出版は、言語や美術の著作物の創作と並んで古くから保護の対象とされてきたことから、著作隣接権に含ませない立法例が多い[1]。
著作隣接権の起源
日本において、実演家の実演を保護する必要性が意識され始めたきっかけとしては、桃中軒雲右衛門事件(大審院大正3(1914)年(れ)第233号同年7月4日第三刑事部判決・刑録20輯1360頁)が有名である。
浪曲師である雲右衛門は、歴史上の人物に関する浪曲を録音してレコードを製作し、著作権を私訴原告に譲渡した。被告人らは、このレコードを複製して販売したため、著作権侵害の罪により起訴されるとともに、私訴原告から損害賠償を請求された。大審院は、被告人らの行為は正義の観念に反するが著作権侵害には当たらないと述べ、被告人らを無罪とし、私訴原告の請求を棄却した。大審院は、次のとおり説明する。すなわち、著作権法(被告人らが複製をした当時のもの。)にいう「美術の著作物」には、音楽の著作物が含まれる。音楽の新旋律は、演奏によって作曲することもでき、楽譜の作成は必須ではない。しかし、音楽の著作物というためには、新旋律がいつでもどこでも再演奏できる程度に熟していなければならない。録音は再演奏ではなく、単なる複製である。問題となった雲右衛門の浪曲は、新旋律を含むが、楽譜が作成されたという証拠がなく、雲右衛門が再演奏可能であるという証拠もないので、音楽の著作物と認めることができない。著作物でない音楽を複製しても、著作権侵害には当たらない。
大審院も自認するとおり、この結論に違和感を持つ学者や有識者は多かった[2]。この事件がきっかけとなって大正9(1920年)に著作権法が改正され、「演奏歌唱」が著作物として例示されるとともに、音を機械的に複製する機器に他人の著作物を「写調」する者は偽作者とみなされることになった。
規定
各の国では著作隣接権を以下にて規定されている。
- 日本では著作権法第4章(89条 - 104条)に規定。
- フランスでは知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律第1部第2編(211の1条 - 217の3条)に規定。
- ドイツでは1965年9月9日の著作権及び著作隣接権に関する法律第2章(70条 - 87e条)に規定。
他方、アメリカの著作権法が収録された合衆国法典第17編には「著作隣接権」と銘打った一節はない[3]。国際条約としては、実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(略称:実演家等保護条約、ローマ条約など)と許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約(略称:レコード保護条約など)とが重要である。
脚注
注釈
出典
- ^ 関堂幸輔「第8講 出版権・著作隣接権」
- ^ 大谷卓史、「桃中軒雲右衛門事件」『情報管理』 2013年 56巻 8号 p.552-555, doi:10.1241/johokanri.56.552
- ^ 「アメリカには映像実演家の著作隣接権がない」って?
著作隣接権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 04:14 UTC 版)
著作者によって制作された楽曲(著作物)は、著作者である作詞家・作曲家が著作権を有している。しかし、楽曲を演奏する実演家や、それを録音するレコード製作者、楽曲を放送する放送事業者・有線放送事業者も、著作者ではないものの著作物に密接に関わる活動を業としており、1970年の現行著作権法制定に伴い、これらの利用者による実演、レコード、放送または有線放送にも著作権に準じた一定の権利(著作隣接権、英: neighboring right)が認められることになった。著作隣接権は実演家の権利(著作権法90条 - 95条)、レコード製作者の権利(同96条 - 97条)、放送事業者の権利(同98条 - 100条)、有線放送事業者の権利(同100条)からなり、人格権と財産権が含まれる。保護期間は実演日(実演)または最初の固定日(レコード)から70年間(放送、有線放送は放送等から50年間)。著作権と異なり楽曲(著作物)そのものの権利ではないため、演奏権や翻案権(編曲権)は認められていない。また映画の著作物においては、二次利用の際の著作隣接権の適用が制限される(映画の著作物#著作隣接権との関係も参照)。
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著作隣接権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/10 07:42 UTC 版)
「著作権法 (フランス)」の記事における「著作隣接権」の解説
一般的に著作隣接権とは、著作物を社会に伝達する者の権利である。直接著作物を創作はしていないものの、準創作的に寄与しているため、権利保護されている。具体的にフランスにおける著作隣接権者とは、歌手・俳優・朗読者といった実演家や(L212条-1)、レコード製作者(L213条-1)、映画など視聴覚著作物の製作者(L215条-1)、および放送事業者(L216条-1)の計4者が著作権法上で定義されている。 実演家には著作者本人と同様、尊重権が認められており、相続は可能だが、譲渡は不可能であり、時効はない(L212条-2)。また、財産権としては、複製権や頒布権が実演家にも認められており、たとえばレコード製作者が歌手や演奏者に無断で音楽CDなどを販売できないことから、書面での契約を必要とする(L212条-3)。同様に、映画製作者が俳優に無断で映画の配給やDVD販売を行うことはできず、やはり書面契約が必要となる(L212条-4)。これらは、実演家の報酬を保護する労働法典(フランス語版)第762-1条および第762-2条の規定とも密接に関連している(L212条-3)。 実演家や映画製作者への報酬支払については、著作権管理団体が徴収・分配業務を代行すると規定されている(L214条-5)。具体的には、対実演家の窓口としてADAMI(フランス語版)とSPEDIDAM(フランス語版)の2団体が、また対映画製作者の窓口としてはSCPP(フランス語版)とSPPF(フランス語版)の2団体がフランスには存在する。これらの規定は、1961年採択・1964年発効のローマ条約(実演家等保護条約)に準拠している。 一方、レコード製作者、視聴覚著作物の製作者、および放送事業者の3者には、財産権として複製権や頒布権以外に貸与権(第三者が無断で作品をレンタル貸出できない権利)が認められている(L213条-1、L215条-1およびL216条-1)。 歴史的に著作隣接権を見てみると、フランスでは著作者本人よりも著作隣接権者に特権を与える形で発達してきた(#歴史節で後述)。しかし現代の著作権法では、著作隣接権が著作者本人の権利を害してはならないと明記されており(L211条-1)、保護の優先度が逆転している。 では、どこまでが著作者本人の権利(仏: droits d'auteur)で、どこからが著作隣接権(仏: droits voisins)なのか。社会が技術的に発展するに伴い、この棲み分けに問題が生じた。たとえば、写真は創作者の創造性というよりは、機械による創作品だとみなせるかもしれない。また映画は著作者個人の創作物ではなく、企業・団体の創作物とみなせる。これらを伝統的な droits d'auteur で同様に保護すべきなのか検討した結果、フランスをはじめとする大陸法諸国では、写真も映画も著作物として認めて著作者本人の権利で保護する一方、実演家やレコード製作者、放送事業者は著作隣接権で保護する棲み分けとした。これは、英米法圏の米国著作権法とは異なり、米国ではレコード製作者は共同著作者として著作者本人の権利で保護されている。ただし1990年代に採択されたTRIPS協定やWIPO実演・レコード条約により、著作隣接権者の保護水準が高まったことから、このような棲み分け論の意義は大きく後退しているとの指摘もある。
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著作隣接権
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「Nokia Tune」の記事における「著作隣接権」の解説
Nokia tune の音源そのものは、ノキアが作成したものなので、ノキアによる著作隣接権が1994年に発生し、日本では50年後の2044年の終わりまで存在する。それまでは自由に使うことはできない。
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著作隣接権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 04:28 UTC 版)
「著作隣接権」も参照 著作隣接権とは、「著作物を公衆に伝達する役割を果たす行為に対して与えられる独占的な財産権」のことを指す。具体的には、実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者に認められる権利のことを指す。なお、著作隣接権は、著作者の権利に影響を及ぼす物として解釈してはならない。
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