空間移動
★1a.遠く離れた空間に瞬時に移動する。テレポーテーション。大阪から九州まで行く、という物語がある。
『宇治拾遺物語』巻1-17 修行者が、津の国の古寺に宿をとったところ、夜中に百人ほどの、鬼のような化け物たちがやって来て、堂内に集まった。一つ目の者や、角の生えた者など、皆、恐ろしい姿をしている。彼らは「座る場所が足りないから」と言って、修行者を堂の縁の下に移す。翌朝になって見ると、そこは津の国から数百キロ以上離れた肥前の国であった。
『夜窓鬼談』(石川鴻斎)下巻「滝蔵」 16歳の少年滝蔵は江戸深川の野口家に奉公し、弁財天を信仰していた。ある日滝蔵は、出会った老僧に布で顔を覆われ、10歩ほど歩かされると、鹿児島の武家の屋敷に来ていた。滝蔵は一時期、その家の養子になったが、数ヵ月後、庭にある弁財天の祠に祈り、その場で眠って目覚めると、江戸の野口家に戻っていた。
*江戸から常陸へ空間移動する→〔壺〕2の『仙境異聞』(平田篤胤)上ー1。
★1c.瞬間移動するかもめ。
『かもめのジョナサン』(バック) 長老かもめのチャン(張)がジョナサン(*→〔飛行〕7)に教える。「どんなに高速で飛んでも限りがある。完全なるものは限界を持たぬ。完全なるスピードとは、即、そこにあるということだ」。チャンの姿が消え、一瞬のうちに、15メートルほど離れた所に現れた。ジョナサンは訓練を重ね、「本来の自己は限りなく完全なもので、時間と空間を超えて、いかなる場所にも直ちに到達し得る」と知って、チャンとともに未知の惑星へ瞬間移動した。
★2.身体全体が空間移動したのか、身体から魂が抜け出て遠方へ行ったのか、判別し難いことがある。
『奇談異聞辞典』(柴田宵曲)「金比羅霊験」 江戸の武家屋敷に仕える女房が、「故郷讃岐の母に逢いたい」と、金比羅権現に祈願する。ある夜、女房は行方不明になり、3日後に住居の屋根に立っているのを発見された。女房は「夢中のようにて讃岐へ行き、母に逢って帰って来た」と語った。讃岐からは、「女房が来て母と物語をしたが、やがていづくともなく姿を見失った」と言って来た〔*女房はどこか人目につかぬ所にこもり、魂だけが抜け出て讃岐へ行った可能性がある〕(『譚海』巻11)。
『今昔物語集』巻4-26 大乗仏法の素晴らしさを知った世親菩薩は、これまで大乗を誹謗してきたことを悔い、自分の舌を刀で切り捨てようとする。その時、世親菩薩の兄無着菩薩は、はるか遠方にいながらも、これを見た。無着菩薩は、3由旬(*諸説あるが、数十~百キロメートル前後と考えてよいであろう)離れた世親菩薩の所まで手をさしのばし、舌を切ろうとする手をつかんで、切らせなかった。
★3b.縮地法。
『西遊記』百回本第29~31回 宝象国の王女百花羞は、黄袍怪にさらわれ、3百余里離れた碗子山波月洞に連れて来られる。しかし孫悟空が彼女を救い、縮地法を使って瞬時に宝象国の王宮へ連れ戻す。
*心理的な縮地法→〔道〕5の『ゴボン・シーア』(イギリスの昔話)。
『鉄腕アトム』(手塚治虫)「透明巨人の巻」 花房理学士が物質電送機を完成させ、サカナ、ウサギ、ロボット、そして花房自身を、ウッズ博士の所へ送信する。ウッズ博士は花房に嫉妬し、受信機を壊してしまう。その結果、花房の身体にサカナ、ウサギ、ロボットの分子が混じり合い、彼は異様な姿に化した。花房はもう1度電送機に入り、宇宙空間へ消えて行く〔*1ヵ月後、宇宙探検隊がヒアデス星団を訪れ、サカナとウサギとロボットと人間の混じったような宇宙人に出会った。その宇宙人は日本語を話し、探検隊をもてなした〕。
*手塚治虫は、→〔蝿〕3の『蝿』(ランジュラン)にヒントを得てこの作品を書いた、と述べている。
『電送人間』(福田純) 仁木博士は立体テレビの原理を推し進め、映像ではなく物質そのものを遠方へ送る電送機を開発する。博士の助手だった須藤が、電送機に入って空間移動し、仇敵である4人の男を殺す。軽井沢に住む須藤が自邸の電送機から、東京や甲府の電送機へ移動して殺人を犯し、すぐに自邸へ戻るのであるから、アリバイは完璧だった。しかし仁木博士が軽井沢の電送機を停止させたため、須藤は戻ることができず、死んでしまった。
『コンタクト』(ゼメキス) 女性科学者エリーが、ポッド(=1人乗り空間移動装置)で、26光年彼方のヴェガを目指す。ポッドは準光速で飛ぶはずだったが、ワームホールに入り、一気に銀河系の中心まで行く。彼女はそこで18時間を過ごした後、地球へ帰還した。しかしその間地上では、ポッドの発射失敗から海面落下まで、1秒が経過しただけだった。人々は、「エリーの体験は幻覚ではないか?」と疑った。
『発狂した宇宙』(ブラウン) SF雑誌編集者キースのすぐ傍にロケットが墜落し、その衝撃で彼は、別の宇宙のニューヨークへ飛ばされた。そこは濃霧管制が敷かれ、アルクトゥールス星人と交戦中の、異様な世界だった(*→〔多元宇宙〕3)。キースは、もとの世界へ帰ろうと精神を集中する。彼は無意識のうちに、自分にとってより良い宇宙を選んだ。彼が戻ったニューヨークでは、キースは出版社のオーナーで、美しい恋人が彼を待っていた。
『猿の惑星』(シャフナー) 乗員4人の宇宙船が、地球から約320光年離れた未知の惑星に不時着する。生き残ったテーラー隊長は、高度な知能を持つ猿たちに捕らえられる(*→〔逆さまの世界〕2)。テーラー隊長は脱出し、海岸をさまよううち、砂に半分埋もれた自由の女神像を見いだす。宇宙船は遠い惑星へ行ったのではなく、2千年後の地球へ戻って来ていたのだった→〔異郷の時間〕3。
『惑星ソラリス』(タルコフスキー) 惑星ソラリスを調査すべく派遣された心理学者クリスは、外界(=ソラリス)の研究どころか、内界(=自らの心の奥底)と向き合わねばならぬ状態に追い込まれる(*→〔記憶〕10)。クリスはソラリス調査を断念し、地球へ帰還する。都会から離れ、緑に囲まれた懐かしい我が家には、父や愛犬がクリスを待っていた。その家は島の上にあり、島は、ソラリスの広大な海の上に浮かんでいた。
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