日中・日韓の政治的対立
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/31 03:47 UTC 版)
「東アジア共同体」の記事における「日中・日韓の政治的対立」の解説
日本は米国と約150年の交流を持ち、太平洋戦争など一時的に関係が悪化した時期はあったものの、幾多の厳しい試練の時を乗り越えながら概ね良好な関係を保ってきた。一方で、中国・韓国とは10世紀以上の交流があるにもかかわらず、現在においてもその関係は決して芳しいとは言えない状況にある。 中国について言えば、戦後も中国が大国化するまでは日中間には太い人脈があり、両国の首脳が何ら支障なく会談できるような機会があった。ところが日中国交回復30周年に当たる2002年に両国首脳の相互訪問が実現しなかった事や、2004年3月の尖閣諸島上陸問題、同年5月の東シナ海における海底油田の開発問題、2005年4月の中国各地での反日デモに象徴されるように、領土係争や歴史認識に基づく反日感情は根強いものがある。 また、韓国についても2002年のサッカー・ワールドカップの共同開催や韓国国内における日本文化の開放など、反日感情に改善の兆しが見られ、また2003年に就任した盧武鉉大統領も当初は「いつまでも過去の足枷に囚われているわけにはいかない」、「過去を直視し、不幸な過去を教訓に、新たな未来に向け進むべき」としていたが、竹島問題や日本海呼称問題などに関する国内世論を背景に反日路線へと転換しており、2005年6月や2006年10月の日韓首脳会談では過去の歴史に対して反省を求めることを重点課題として、これからの日韓関係や東アジア共同体など21世紀において日本と韓国が歩むべき道ついて、際立った議論の進展は無かった。 中国・韓国はこれらの「政治的対立」の根底には歴史認識問題や教科書、靖国参拝といった問題があると主張しており、この問題を巡っては、中国や韓国は未だに日本に対し感情的な溝を持ち、それが相互信頼や共同体意識の構築を阻害している現状がある。両国政府は日本を歴史を理由に敵視する教育や日本文化に対する規制をおこない、反日感情が浸透している。こと天安門事件以後の中国においては愛国教育が盛んに行われるようになり若い世代ほど反日感情は根強い。また、2010年代以降は日本国内でも中国・韓国人の排除を目的とした市民運動やデモ行進(俗に言うヘイトスピーチ)も活発化しており、両国間の対立は年を追うごとに悪化している。 日本でも、とりわけ中国の軍事力や経済力に対し脅威を抱き、敵視する空気がある。バブル崩壊後から長期的に経済停滞をしている自国に比べ、20年以上も高成長を続ける中国はやがて日本を追い抜き、日本に悪感情を持った非民主的な軍事超大国が隣に誕生するという悪夢への抵抗感によるものである(中国脅威論)。しかしながら、中国のWTO加盟による貿易自由化の促進や内需の拡大により日本では自動車や電子部品の輸出額が増加し、2005年の日本の対中輸出はWTO加盟前の2000年に比べて約170%増加した事や、中国では沿海部を中心に4億人規模の巨大市場が存在し日本企業にとっては大きなビジネスチャンスとなっている事は事実であり、1997年に発表された世界銀行のレポート『2020年の中国』によれば、中国のWTO加盟による世界各国の年間受益に関して、日本は中国に次ぐ2番目の受益国になるものと予測されている。また、国内に不安定要因を多数抱える中国は、安定した持続的発展のために、日本をはじめとする世界各国の協力を現在でも必要としている。事実、地域間格差 を是正するための策である西部大開発は日本のODAの対象となっている。もし中国政府が社会問題の解決・処理を誤れば、日本企業にとって痛手となるだけでなく、日本や東アジアの安定にも深刻な影響を与える事が懸念されており、東アジアの安定・発展には中国の台頭が必要不可欠なものとする見方が強い。 外務省では日中間における相互不信について、両国では現在、“共通の経済的利益”はあっても、民主主義や市場主義、人権尊重など“共通の価値観”を持たない事を原因として挙げている。ジャーナリスト(国際問題評論家)の古森義久も、東アジア諸国、とりわけ東アジアの国々では“1.自由と民主主義という共通の価値観を有していない。2.共産主義国家である中国や北朝鮮では、今も事実上の一党独裁制が続いている。また逆に、この構想は、価値観を共有する台湾を排除している。3.韓国は民主化しているが、北朝鮮や中国に接近し、日本や米国と対立するなど、民族主義を価値観として優先しがちである。4.日本は民主化しているが、“日米同盟”の名の下に中国や韓国などの東アジアの利益よりも米国の利益を優先しがちである。”とし批判している(価値観外交)。 EU統合の際にその進展の原動力となったのは、二度の大戦の歴史を超え協力関係を構築したフランスとドイツであった。国民性や思考方法の相違から融和が困難とされた両国であるが、中長期的な視野に立った上で互いに国益を優先し、フランスの政治力とドイツの経済力を用いて欧州の発展と安定に貢献してきたのである。日本と中韓、また中国と韓国は、それぞれ歴史認識の隔たりが大きく、この点が"二つの全体主義(ナチズムと共産主義)との闘い"という共通の歴史観を持っているヨーロッパ諸国とは異なる。共通の価値観を持たず、政治的環境もフランス・ドイツと大きく異なる日中・日韓において、真剣に関係の改善に取り組む事は容易ではない。その過程では両国とも国内世論と相手国の双方への配慮が不可欠であり、現実に課題は山積している。 これに対してOECD事務次長などを歴任した谷口誠の主張は、「日米間の交流の歴史は150年そこそこであるのに対し、日中間には2000年を越える交流の歴史がある。日本の文化、言語、思想、生活習慣、食べ物、日常のマナーなど、現在の日本人の生活一般を見れば、日本人はまぎれもなくアジア人である。アジアの一員たる日本人が、『東アジア共同体』を構築しようとするとき、『日米間の共通の価値観』を、あたかも『アジア的価値観』より優れたものであるかのように押し付けたところで、中国のみならず他のアジア諸国にも受け入れられず、日本は孤立するであろう。日本はアジアの多様性を生かし、『アジア的価値観』を基盤とした『東アジア共同体』の構築を目指すべきである。それはEUよりもゆるやかで寛容な、アジアの土壌にあったものになるであろう」となっている。
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