旋尾線虫症とは? わかりやすく解説

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旋尾線虫症


本種幼虫は、腸管壁への侵入移行のみならず、腹、背、腰部皮膚組織内への移行引き起こす点で軽視できない危険な寄生虫であると考えられるホタルイカ3月から8月漁期で、本症の発生時期例年4月5月集中していることから、この時期発生予防注意を喚起することが必要である。

旋尾線虫症

疫 学
1974 年秋田県大鶴らが、腸閉塞疑い摘出された小腸炎症部から断端発見し旋尾線虫目のある種幼虫による2 例」として報告していたもの最初である。原因食品当初 から生のあるいはエビ考えられていたが、原因不明のままその後15 年間は報告途絶えていた。ホタルイカの生食原因とする旋尾線虫幼虫による皮膚爬行症や腸閉塞患者発生1987 年以後であるが、その要因は、主産地であった富山湾から生きたままのホタルイカ遠隔地発送 することがこの年始まったことである。ホタルイカ元来限られた産地でのみ賞味され、その調理法加熱内臓除去後の生食が主であったと云われている。それが生きたままでの遠隔地発 送実現によって、ホタルイカいわゆる踊り食い」や内臓付き刺身という新し喫食法流 布されて、本症の全国的発生至ったのである。本症は当初皮膚科領域からの新たな皮膚 爬行症の原因として報告数多くなされたが、他方急性腹症腸閉塞)の原因としても注目されるところとなり、1988 年から1994年まで7年間に本原因皮膚爬行32例、腸閉塞20例、眼寄生1例の報告なされた。この1994年に、ホタルイカ内臓付き生食が危険であることが一 般新聞等で大々的報道され生産者加熱あるいは冷凍処理後に出荷したこともあり、翌1995 年には本症の報告激減したしかしながら最近至って食材としてホタルイカ一般化す るとともに体の不活化処理が徹底されず、本症の発生はあとを断たない状況にある。近年ホ タルイカ富山湾だけではなく兵庫福井鳥取京都石川新潟など日本海沿岸各県漁 港でも水揚げがなされ、取り扱い業者増加したことも背景にある。

病原体

病原となる線虫は、終宿主成虫不明であるために旋尾線虫typeX 幼虫写真2)と仮に名付けられているものである。この幼虫ホタルイカスルメイカハタハタスケソウダラアンコウなどの海産魚介類内臓寄生し体長:5 ~10mm 、体幅:0.1mm で、アニサキス幼虫異なり肉眼では認めがたい。1990 年頃から頻発した皮膚爬行症を示す患者から本種幼虫断端病理組織学的に検出されていたが、その原因食材について当初不明であった

旋尾線虫症

しかし、続発した症例のなかにホタルイ カ生食した患者があり、ホタルイカ検査したところ 旋尾線虫typeX 幼虫寄生確認され当時から出 回っていたホタルイカ内臓ごと生食することが本症の原因となっていることが明らかとなった。現在まで の調査によれば、本種幼虫寄生率は2 ~7%で、寄生部位主として内臓部分であると見られている。

臨床症状
旋尾線虫幼虫前眼房内寄生が1例報告されているが、旋尾線虫幼虫移行症腸閉塞を含む急性腹症、あるいは皮膚爬行症などがその症状大部分占めている。
1 )急性腹症型
急性腹症起こすものでは、腸壁肥厚して腸閉塞として手術適応になるものと、麻痺性イレウス症状呈して対症療法軽快するものとがある。ホタルイカ摂食数時間2日後より腹部 膨満感、腹痛出現する腹痛持続時間は2 ~10日で、嘔気嘔吐を伴う事が多い。
2 )皮膚爬行症型
皮膚症状ホタルイカ摂食2 週間前後発症が多い。皮疹大多数腹部より始まり爬行 速度比較速く線状皮疹1 日2 ~7cm 伸長する。数ミリ幅の赤い線状皮疹蛇行して 長く伸び浮腫状にわずかな隆起を伴う部分もある。また、体が真皮比較的浅いところを移 行するためか、水疱をつくることが多い。

病原診断
診断上、3 ~8月生鮮ホタルイカ内臓ごと摂取した食歴の有無ポイントとなる。皮膚爬行においては皮膚組織採取組織学的検索による断端証明することが確実で、その 形態的特徴から病原幼虫同定が可能である。他方で、急性腹症起こすケースにあってはアニサキス症異なり体が微細であるために、内視鏡による確認摘出不可能である。 腸閉塞疑いにより手術適応になったものについては、皮膚爬行症の場合同様に組織学的検 索により断端証明し形態的特徴から病原幼虫同定するしかしながら腸閉塞症状から対症療法により軽快するものに関して病原診断は困難である。旋尾線虫typeX 幼虫抗原 とする免疫血清学的診断試みられ患者ペア血清での抗体価変動により感染推定が行われている。

治療・予防
治療法としては、皮膚爬行症の場合は虫体の摘出急性腹症場合対症療法が行われている。
予防としては、ホタルイカの「踊り食い」や、内臓付き冷凍のものの刺身絶対に避けることである。これまで知られているホタルイカでの旋尾線虫typeX 幼虫寄生部位内臓であるので、 内臓除去した上で生食危険性少ないと考えられている。
厚生省平成12 年6月21日付けで、生食用ホタルイカ取り扱い販売に関して次の内容不活化処理が実施されるように各都道府県通達した。
1.生食を行う場合には、次の方法によること。
 (a)30 4日間以上、もしくはそれと同等殺虫能力有する条件凍結すること(同等殺虫能力例:-35 中心温度)で15時間以上、または-40 40 分以上)
 (b) 内臓除去すること、又は、製品その旨表示を行うこと。
2. 生食用以外の場合は、加熱処理沸騰水投入後30秒保持もしくは中心温度60上の加熱)を行うこと。

食品衛生法での取り扱い
食中毒疑われる場合は、24 時間以内最寄り保健所届け出る

1999 年12 月28 日食品衛生法施行規則一部改正厚生省令第105 号)が行われ、食中毒事件票の一部改正された。旋尾線虫アニサキスのように食中毒原因物質として例示はされていないが、「食品媒介感染 症疑いの者が発生した場合には、保健所長の一元的指揮のもと、現行の食中毒事件票に明示され病原 体のみを対象とするのではなく食品保健部門一次的原因究明を行うことが効果的である」(公衆衛生審議 会意見平成9 年12 月24 日)という観点から対応する事が求められている。


国立感染症研究所寄生動物部 川中正憲 杉山 広)


旋尾線虫

(旋尾線虫症 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/21 06:12 UTC 版)

旋尾線虫(せんびせんちゅう、Spiruria)は線虫類の寄生虫であり、その生活史も未だ不明なところが多い。

旋尾線虫はType I 〜 XIIIまで分類され、Type Xが問題となる。旋尾線虫のタイプテン (Type X) はホタルイカの消化管のほかハタハタタラスルメイカなどの内臓に寄生する[1]。 生きた虫体は透明で白く、0.8~2mm未満程度の虫で、組織侵入性を持つため幼虫が体内に侵入・移動し組織障害をもたらす幼虫移行症を引き起こす。ホタルイカの約2-7%に寄生していると報告されている[2]

ヒトへの感染(旋尾線虫症)

ヒトがホタルイカを踊り食い刺身として生食することにより旋尾線虫幼虫移行症を発症する。として食べる場合が多いため、感染者は中年男性が最も多く、幼児や女性には少ない。感染部位により腸閉塞型、皮膚跛行疹型、前眼房寄生型に分類される。急性で重篤な症状は腸閉塞型[3]が最も多く、皮膚跛行疹型も特徴の一つである。前眼房寄生型は1例のみ報告がある。その内、腸閉塞型は機械的腸閉塞を引き起こす劇症型、麻痺性腸閉塞を引き起こす緩和型が知られている。腹部症状の機序は未だ明らかではないが、消化管壁の好酸球性蜂窩織炎、異物炎、局所アレルギー変化などが複雑に関係し、最終的に腹痛や麻痺性腸閉塞、閉塞性腸閉塞を引き起こすと考えられる。

症例

日本での最初の報告は 1974年秋田県で2例があり、原因不明のまま15年間発症報告は途絶えていたが、1987年に報告され1994年までに皮膚爬行症や腸閉塞患者の発生報告は50数例になる。これは、1987年富山湾からの生きたホタルイカの発送が始まったことが全国的な発症の要因となった。1994年に内臓付き刺身の危険性が新聞等で報じられ、加熱または冷凍後の出荷が広まったことから1995年以降全国での発症の報告は激減した[4] が、漁期に富山、福井、石川などで報告される。

臨床症状

急性腹症型[5]
摂食後、数時間〜2日後より腹部膨満感、腹痛。2〜10日の腹痛と嘔吐を伴う。
皮膚爬行症型[6]
摂食後、2週間前後の発症。皮疹の大多数は腹部より始まり、数mm幅の赤い線状の皮疹が1日2〜7cm 蛇行し伸びる。旋尾線虫体が真皮の浅いところを移行するため、水疱をつくることも多い。

前眼房内寄生が報告されている[7]

予防

  • 踊り食いや、未冷凍の刺身を絶対に避ける。
  • 生食の場合は、下記条件下での冷凍処理が行われたもの、或いは内臓を除去したもの。
  • -30℃で4日間以上または-40℃で40分以上の冷凍。

診断と治療

その診断は、1.ホタルイカの生食歴、2.IgE好酸球の増加、3.旋尾線虫抗体価の測定、などによって行われる。1が最も重要であるが、疾患の認知度が低く細菌性腸炎やアニサキス症と誤診されている例も少なくないと考えられる。3の旋尾線虫抗体価の測定は唯一の血清学的診断方法であるが、実験室レベルの検査であり、結果がでるまで時間がかかるため有効性は低い。

治療は皮膚跛行疹型では摘出或いはイベルメクチンが用いられる[8]

腸閉塞型では、基本的には保存的療法のみで1-2週間で治癒するが、劇症型の場合では、閉塞症状が強く、やむを得ず手術により腸管の摘出が行われた報告もある。

脚注

  1. ^ 富山県感染症情報センター - ホタルイカの生食による旋尾線虫感染症
  2. ^ 旋尾線虫 -ホタルイカから寄生虫- 愛知県衛生研究所
  3. ^ 守田万寿夫, 中村浩, 浦出雅昭, 廣沢久史「ホタルイカ生食が原因と思われる腸閉塞様症状を呈した症例の検討」『日本消化器病学会雑誌』第92巻第1号、日本消化器病学会、1995年、26-31頁、CRID 1390001206397209216doi:10.11405/nisshoshi1964.92.26ISSN 0446-6586 
  4. ^ 感染症の話 2001年第14週 旋尾線虫症国立感染症研究所
  5. ^ 青山庄, 樋上義伸, 高橋洋一, 吉光裕, 草島義徳, 広野禎介, 高柳尹立, 赤尾信明, 近藤力王至「旋尾線虫幼虫type Xの関与が強く示唆されたホタルイカ生食による急性腹症10例の臨床的検討」『日本消化器病学会雑誌』第93巻第5号、日本消化器病学会、1996年、312-321頁、CRID 1390001206396099712doi:10.11405/nisshoshi1964.93.312ISSN 0446-6586 
  6. ^ 岡崎愛子, 飯田孝志, 村松勉, 白井利彦, 西山利正, 高橋優三, 荒木恒治「症例報告 旋尾線虫目の幼虫による皮膚爬行疹の1例」『臨床皮膚科』第47巻第12号、株式会社医学書院、1993年11月、1105-1107頁、CRID 1390846634819301632doi:10.11477/mf.1412901053ISSN 0021-4973 
  7. ^ 原崇彰, 渡辺朗, 常岡寛「眼内移行がみられた旋尾線虫の1例」『眼科』第50巻第8号、東京 : 金原出版、2008年8月、1071-1074頁、CRID 1523951029526964992ISSN 00164488 
  8. ^ 大森香央, 土肥凌, 金子健彦, 信崎幹夫, 赤尾信明「症例報告 イベルメクチンが奏効したcreeping diseaseの1例」『臨床皮膚科』第62巻第12号、医学書院、2008年11月、940-942頁、CRID 1390846634822960512doi:10.11477/mf.1412102147ISSN 00214973 

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