リッサウイルス感染症とは? わかりやすく解説

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リッサウイルス感染症


リッサウイルス感染症はラブドウイルス科リッサウイルス属Rhabdoviridae family, Lyssavirus genus)のウイルスにより引き起こされる感染症であるが、ここでは狂犬病ウイルス以外のリッサウイルス(nonrabies lyssaviruses)、いわゆる狂犬病類似ウイルス(rabies-related viruses)をリッサウイルス感染症として述べる。日本ではこれまでにリッサウイルス感染症の発生や、コウモリからリッサウイルス分離され報告はない。ヒトでは、輸入感染症として患者海外渡航歴や、流行地域でのコウモリ等との接触臨床診断の手がかりとなる。

疫 学 1,2)

狂犬病ウイルスを除くリッサウイルスは、アフリカナイジェリア南アフリカカメルーンジンバ ブエ中央アフリカ共和国セネガルエチオピア)、東西ヨーロッパウクライナロシアポーラ ンドハンガリードイツオランダデンマークフランススイス英国4))、オーストラリア大陸生息するオオコウモリ小型コウモリなどから分離されている。
1. リッサウイルス属狂犬病ウイルスを含む)
現在、リッサウイルスには狂犬病 ウイルス含めて7種類遺伝子型genotype)が報告されているが、中央アジア(Kyrgizstan、 TajikistanKrasnodar region)、シベリアIrkutsk)のコウモリから近年分離されリッサウイルスで は新し遺伝子型提唱されており、未分類である(表15,6
表2. 狂犬病ウイルスを除くリッサウイルスによる感染症

ラゴスコウモリウイルス(1956年)、モコラウイルス(1968年)、ドゥベンヘイグウイルス(1970年は いずれアフリカ大陸最初に分離されており、EBLV-1(1968年)およびEBLV-2(1985年)と ABLV(1996年)は、それぞれヨーロッパ大陸オーストラリア大陸分離されている。ラゴスコ ウモリウイルスは数種類アフリカオオコウモリから分離され、モコラウイルスはトガリネズミ (Crocidura shrews )や他の齧歯類自然宿主考えられている。ドゥベンヘイグウイルスは食虫 コウモリ自然宿主考えられている。EBLV-1とEBLV-2は、それぞれコウライクビワコウモリ (Eptesicus serotinus )とヌマホオヒゲコウモリ(Myotis dasycneme )などから分離されており、 ABLVは数種類オーストラリアオオコウモリ食虫コウモリから分離されている。東南アジ ア地域ではリッサウイルス分離して同定し報告はないが、フィリピンタイから中和抗体保 有するコウモリ成績報告されている3,7)

ヒトリッサウイルス感染したコウモリ咬まれることによって発症する(モコラウイルスでは、トガリネズミとの接触原因考えられている)が、ヒトのリッサウイルス感染症は稀である。これまでに9例の患者報告されているが、モコラウイルスに感染した1例を除いていずれも狂犬病同様の症状示して死亡している(表2)。

病原体 1)
リッサウイルスは、ラブドウイルス科リッサウイルス属Rhabdoviridae family, Lyssavirus genus)に分類されるマイナス鎖1本鎖RNAゲノムにもつ、「弾丸」様の形態をとる直径7580 nm全長180~200 nm大きなRNAウイルスである。ウイルスの成熟粒子ゲノムRNA少なくとも5つウイルス蛋白から構成されており、構造的にヌクレオカプシドnucleocapsid)とエンベロープenvelope外被)に区別される
ウイルスは強い神経親和性をもち、その感染と伝播狂犬病ウイルス同様にG蛋白質対す中和抗体抑制される

臨床症状 2)

リッサウイルス感染症は、臨床症状から狂犬病区別することは難しい。臨床症状狂犬病見られるような発熱食欲不振倦怠感感染咬傷)を受けた四肢疼痛掻痒感咽頭痛知覚過敏といった初期症状続いて興奮性亢進嚥下困難発声困難、筋痙縮現れて、恐水症状や精神撹乱などの中枢神経症状見られるうになる症例によっては呼吸器系痙縮呼吸困難不安感おびただしい流涎知覚錯誤などをともなう。病態急性かつ進行性であり、痙攣攻撃的な神経症状はしだい強く持続性となり、四肢弛緩脱力反射減弱増強して最後に昏睡状態となり、呼吸停止とともに死亡する

ヒト標準的な潜伏期間狂犬病同様に20日から90日であり、咬傷部位や数によって期間は異なると考えられるオーストラリア1998年にABLVの感染死亡した37才の女性では潜伏期長くコウモリによる咬傷をうけてから27カ月後に発症している。感染したコウモリにおける潜伏期間明らかでないまた、リッサウイルス感染して発症したヒトは、発症後5日から5週間死亡している(1カ月前後が多い)。モコラウイルスに感染したナイジェリア少女は、急性の発熱痙攣起こした後に短期間回復している。ラゴスコウモリウイルスによるヒト感染例はまだ報告がない。

病原診断 2)
臨床症状からリッサウイルス感染症と狂犬病鑑別することは不可能である。検査狂犬病ウイルス同様の方法行なわれる。現在、ウイルスの実験室内検査としては抗原検出遺伝子検出が可能である。狂犬病検査用いられている市販検査抗体は、狂犬病ウイルスを含むリッサウイルス遺伝子型1~7の全て反応する。したがって狂犬病とリッサウイルス感染症の区別は、分離されウイルスの遺伝子型決めることにより可能となる。

抗原検出患者角膜塗抹標本頸部皮下毛根部の神経組織唾液腺などの生検材料行なわれるが、ホルマリン固定材料でもウイルス抗原検出は可能である。遺伝子検出唾液髄液などの生検材料や、剖検によって得られた脳組織から抽出されウイルスのRNA利用してRT-PCR法によって行なわれるウイルスの分離は乳のみマウスマウス神経芽腫細胞への接種試験によって可能である。近年では、遺伝子型特異的なプライマー用いてリッサウイルス遺伝子型別を行なう方法開発されている。


治療・予防 2)
患者への対応は基本的に狂犬病のそれに準じる

発症予防目的としたリッサウイルス感染症のためのワクチン免疫グロブリンは、現在のところない。従って、ヨーロッパオーストラリアでは、感染リスクグループ対す発症予防感染疑われ場合に行う曝露後のワクチン接種には、狂犬病ワクチン使用推奨されている。

狂犬病ワクチンはABLV感染に対して発症予防が可能であり、ラゴスコウモリ、ドゥベンヘイグ、EBLV-1およびEBLV-2ウイルスに対しても、部分的な交差反応による予防効果見られる。モコラウイルスの感染に対しては、現在使用されているワクチンとの交差反応見られないため、予防効果はないと考えられている。

リッサウイルス感染症のリスクグループは、ウイルス検査たずさわる専門家研究者コウモリ専門家コウモリ取り扱う研究者コウモリ展示施設野生動物保護関係者など、感染源となる野生動物との接触頻度の多い職種考えられる

リッサウイルス感染症は狂犬病同様に患者対す特異的治療法が無いため、患者対す精神的支援が必要である。

感染症法における取り扱い
リッサウイルス感染症は四類感染症定められており、診断した医師直ち最寄り保健所届け出る

文献
リッサウイルス総説
1. Rupprecht CE, Dietzschold B, Koprowski H(ed.): Lyssaviruses. Springer-Verlag Berlin Heidelberg. 1994.
2. Jackson AC, Wunner WH(ed.): Rabies. Academic Press, An Elsevier Science Imprint. San Diego, CA, USA. 2002.
リッサウイルス疫学
3. Arguin PM, Murray-Lillibridge K, Miranda MEG, Smith JS, Calaor AB, Rupprecht CE: Serologic evidence of Lyssavirus infections among bats, the Philippines. EID 2002 8(3):258-262.
4. Fooks AR, Brookes SM, Johnson N, McElhinney LM, Hutson, AM: European bat lyssaviruses: an emerging zoonosis. Epidemiol Infect 2003 131(3):1029-39.
5. Kuzmin IV, Orciari LA, Arai YT, Smith JS, Hanlon CA, Kameoka Y, Rupprecht CE: Bat lyssaviruses(Aravan and Khujand)from Central Asia : phylogenetic relationships according to N, P and G gene sequences. Virus Res 2003 97(2):65-79
6. Kuzmin IV, Hughes GJ, Botvinkin AD, Orciari LA, Rupprecht CE: Phylogenetic relationships of Irkut and West Caucasian bat viruses within the Lyssavirus genus and suggested quantitative criteria based on the N gene sequence for lyssavirus genotype definition. Virus Res 2005 111(1):28-43.
7. Lumlertdacha B, Boongird K, Wanghongsa S, Wacharapluesadee S, Chanhome L, Khawplod P,Hemachudha T, Kuzmin I, Rupprecht CE: Survey for bat Lyssaviruses, Thailand. EID 2005 11(2):2328-236.





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