グリーンインフラの動き
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/06 16:58 UTC 版)
「グリーンインフラ」の記事における「グリーンインフラの動き」の解説
グリーンインフラは、広範な生態系サービスを提供するために策定・管理された、多様な環境的要素を伴う自然および半自然区域の戦略的・計画的ネットワークと定義でき、また都市部におけるみどりの空間(水域生態系を対象とするならば青の空間)や沿岸域を含むその他の陸域、海域の物理的を内包する概念である。 みどりのネットワークは、人々と自然の双方に有益であり、生活の質を改善し、グリーン経済を支え、社会的なつながりを強めることに貢献するほか、生物多様性の保全に寄与し、水質や大気の浄化、レクリエーション機会の提供、気候変動の緩和や適応などで、主要な生態系サービスを守ることにもつながる。そのほか、災害のレジリエンスやリスク管理の改善に寄与していく。 グリーンインフラは自然の多様な機能を活用したインフラ・土地利用であり、二つの意味で革新的な概念である。一つは、環境のプラスの価値に光を当てること、もう一つは協働によるイノベーションの創出、20世紀以降、環境問題の対策は、基本的に環境負荷の削減というマイナスの改善であった。しかしグリーンインフラは、環境の持つプラスの価値により社会課題の解決を狙うものであり、環境へのアプローチを大きく変えている。 社会課題を挙げれば、環境問題だけでなく、経済成長の鈍化、資源・エネルギーの枯渇、人口減少・高齢化、災害リスクの高まりなど、枚挙にいとまがない。しかし近年、多くの社会課題の解決に向けて、多様な学問や主体の協働によるイノベーションが進んでいる。グリーンインフラも、まさに分野横断的、統合的なアプローチであり、環境価値を軸とした協働によるイノベーションを生み出すための概念と言える。 国内では従来「グリーンインフラ」とは称さないものの、国土交通行政分野において社会資本整備事業や土地利用による、防災、地域復興などの取り組みが既に実施されていた。日本では多様な分野の実務家、専門家らが一緒になり、主に三菱UFJリサーチ&コンサルティングの音頭で2014年4月にグリーンインフラ研究会を立ち上げ、新たな概念であるグリーンインフラの可能性について数多くの議論を重ねていた。 国土交通省によると平成27年度に閣議決定された国土形成計画において、国内でのグリーンインフラの取り組みを強化するとし、これにより「国土の適切な管理」「安全・安心で持続可能な国土」などといった課題の解決に一歩を踏み出した。また同年9月に閣議決定された第4次社会資本整備重点計画では「生活の質の向上」「人口減少・高齢化等に対応した持続可能な地域社会の形成」への対応も期待される。 2020年は官民連携でのグリーンインフラの取り組みが進み、社会に広く浸透することとなった。国土交通省は20年3月に「グリーンインフラ官民プラットフォーム」を建設し、官民が連携し、情報発信・収集、資金調達・技術手法の研究を進める場として活用されている。また、グリーンインフラに関する優れた取り組みに送られる「グリーンインフラ大賞」も設立され、さらなる取り組みの活性化が期待される。様々な都市で快適な街づくりの実現に向けグリーンインフラの取り組みが進んでいる。 近年増加しつつある異常気象について、防災をしつつも自然環境や生態系のことを考えた国土づくり、地域づくりができるグリーンインフラはその普及が期待されている。2019年に起こった台風19号による豪雨災害時では、かつてより整備されていた渡瀬遊水池が、その下流にある利根川の氾濫を防いだとして注目を浴びた。このように貯水機能のある緑地を「グリーンインフラ」で整備することによって、浸水被害を減らし、従来主流であったコンクリートを使用するダムや堤防などの「グレーインフラ」の役割を補うことにつながる。 滋賀県では琵琶湖氾濫地域での水害リスクを可視化することで、いち早く流域治水に着手してきた。2006年に流域治水製作室を設置したのが始まりで、その後様々な防災・減災対策を進めてきた。基本方針では、氾濫原減災対策の一つとして水害リスクが高いとされる地域での土地利用や建築の規制などを盛り込んでいる。従来の洪水を安全に流下させる堤防や治水ダムなどの手段に加え、「ためる・とどめる・そなえる」といったその土地の自然環境を活用したグリーンインフラ的手段が取られる方針である。 また、グリーンインフラは元ある自然を有効活用するため維持費が最小限に抑えられ、コスト削減も大いに期待できるため、今後さらに推進されていく。地方自治体における具体的な対策としては、街路樹の下をアスファルトから雨水の浸透しやすい石の層にする、などがあげられる。また一般住宅においても、雨水が溜まりやすい池を作る、駐車場の路面から水が染み込むようにする、など身近における様々な対策も推進されている。 また、自然環境を活かして持続可能で魅力のある国土づくりを進めるグリーンインフラは、2015年に国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)における目標達成にも資するものと注目されている。緑地や湿地を整備し保全していくため、二酸化炭素を効果的に吸収し地球温暖化防止にもつながるとされる。また、グリーンインフラは元ある自然を有効活用するため維持費が最小限に抑えられ、コスト削減も大いに期待できるため、今後さらに推進されていく。 一方で欧州委員会(EC)は2013年に「欧州内の都市並びに地方におけるグリーンインフラの発展を推進すること」を目的としたグリーンインフラ戦略を採択した。これは、国連生物多様性条約に基づく「愛知ターゲット」や「2020年までの欧州連合(EU)における生物多様性戦略」特に後者で2020年までにグリーンインフラを導入し、さらに劣化した生態系の少なくとも15%を回復することで、生態系およびその生態系サービスを維持または向上させる目標を達成する上での重要なステップであるといえる。 欧州や日本で頻繁に発生する恐れのある洪水や土砂崩れ、雪崩、山火事などによる被害は、グリーンインフラ (例えば、機能的な氾濫原や川辺林の整備、森林保護など)によって低減できることが多くまた、自然の持つ創造力や防御力、供給力、適応力を利用する費用対効果の高い手法ともいえる。そのためグリーンインフラは、都市部および地方における土地・空間利用計画に生態学的知見や持続可能性を組み込む際、より論理的な意思決定手法を提供できる。 EUの自然保護ネットワークである「Naturo 2000」は、EUの全加盟国(28カ国)における2万7000カ所以上の保護区によって構成されている。こうした保護区ネットワークは、EUの自然保護に関する法制度に基づいて策定されており、EU国土の18%以上、海域の6%以上を占めている。 Nature2000は、欧州のグリーンインフラの中核であり、非常に多くの自然文化遺産を支えており、こうした欧州の文化・自然的遺産を保全・回復持続的に利用することが、グリーンインフラのさらなる発展の鍵となる。 欧州の地理的構成要素(山脈、河川、森林、野生動物の移動経路など)の多くは国境をまたいでおり、EUにおいて共有される自然や文化遺産、アイデンティティーの一部となっている。そのため、こうした構成要素の管理には、協調的かつ統合的な行動と、全欧州的なビジョンが必要で、こうした統合的な取り組みは、グリーンインフラのための欧州横断ネットワーク (TENG) と言われており、その発展は欧州における象徴的な生態系のレジリエンスや持続力を確保する上で重要な役割を果たし、社会的な利益にも貢献する。 ECは現在、EU理事会および各地域の会やEU委員会から寄せられているTENGに関する要望を考慮しつつグリーンインフラに関する調査を進めている。
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