『資本論』草稿とは? わかりやすく解説

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『資本論』草稿

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/06 02:52 UTC 版)

資本論」の記事における「『資本論』草稿」の解説

エンゲルスらの編集方針長らく最も権威あるものとして扱われ、現在でも『資本論というときには、マルクスが完全に責任をもった1部とともにこのエンゲルス編集2部3部をふくめた全3部を指すことが多い。しかし、その後マルクス書いた『資本論』草稿の研究進みエンゲルス編集成果踏まえつつも、現在残されている草稿全体からよりマルクス正確な資本論構想浮かび上がってきた。 『資本論』の草稿とその準備労作考えられるものを以下の7つ大別して記述する1. 『経済学批判要綱』とその他の諸草稿1857年 - 1858年) まず『要綱』の草稿最初に書かれている。『経済学批判要綱』と『経済学批判』とは関係性があるが基本的に別の草稿著作であり、紛らわしいため『要綱』のことをドイツ語読みでグルントリッセ』 ("Grundrisse") と呼ぶのが一般的である。これらは1857年10月から翌1858年5月にかけて執筆された7冊のノートである。 これに先行して書かれた「バスティアケアリ」(1857年7月)および「序説」( "Einleitung" 、1857年8月 - 9月)とを総称して1857年 / 1858年の諸草稿」と呼ぶ。これらが通常経済学批判要綱』と呼ばれる草稿に当たる。マルクスはこの草稿最初に書き上げる中で、全6部から成る経済学批判体系構想していった。日本語版では大月書店から刊行された『経済学批判要綱』全5巻相当し、また『資本論草稿集』全9巻中の第1巻・第2巻収録され部分に当たる。 2. 『経済学批判』第1部原初稿1858年 - 1859年) これがいわゆる経済学批判』として刊行されマルクスの著作原初稿。 これは上記のように全6編として構想されたものの第1部に当たり、「序文」、「第1章 商品」、「第2章 貨幣または単純流通からなる著作である。なお、この中の「序文」 ("Vorwort") と、『要綱』の中の「序説」 ("Einleitung") は別ののである。「唯物史観の公式」として知られる上部構造経済的土台」の概念マルクスの全著作中で出てくるのは、ここのみである。 『経済学批判』は『要綱』の中の「貨幣に関する章」をもとに作成した原初稿 (Urtext) をさらに改稿して成立している。マルクスは全6部の構想のうち、第1部としてこの『経済学批判』を書いた。当然続く作品第2部以降として構想されていたが、この計画後年破棄され書名を『資本(論)』 ("Das Kapital") に変更し、全3巻4部構成改めた3. 『経済学批判』草稿1861年 - 1863年紛らわしいので前2者と区別するため「1861年 - 1863年草稿」と呼ばれる1861年8月から1863年7月にかけてマルクス23冊のノートを書く。マルクスは『経済学批判第1部続きとしてこれを「第3章 資本一般」から書き始めたが、途中でその方針は変更されるマルクス1862年12月28日手紙の中で、すでに書いたものを推敲清書して資本論 - 経済学批判』として刊行する旨を書いているので、この頃マルクスの“経済学批判・全6部”という構想が“資本論・全4部構想変化していったことがわかる。 この「1861年 - 1863年草稿」は新MEGA編集者によって「第2の『資本論草案」と呼ばれており、大月書店から出ている『資本論草稿集』では第4巻から第9巻相当するまた、この「1861年 - 1863年草稿23冊のノート中には剰余価値に関する諸学説」の草稿含まれている。エンゲルスはこれを『資本論第4部として構想されていた「剰余価値学説史」の本体になるものと判断したが、それを編集することはもはや自分には不可能であると考えたため、この仕事ベルンシュタインカウツキー委ね悪筆有名なマルクス独特の筆致読み方特訓した。後にベルンシュタインは『マルクス=エンゲルス往復書簡集』を編集刊行カウツキーは『資本論』の第4部となるはずだった『剰余価値学説史』を独自の一つ著作として編集刊行する4. 「1863年 - 1865年経済学草稿」 上記1861年 - 1863年草稿」を書き上げた後、マルクス清書をするため、1863年8月から『資本論第1巻第1部の「資本生産過程」の原稿書き始める。その後1865年末までには第3部の全7篇までの草稿をほぼ書き上げることになる。 この「1863年 - 1865年経済学草稿」では『資本論』全4部構想定まり、「第1部 資本生産過程」「第2部 資本流通過程」「第3部過程の諸形象化」の理論的な3部の後に第4部として学説史叙述がまとめられることが確定する。したがってこの時期に『資本論』の理論的な3つの部分書き上げられたと考えられている。この部分いわゆる資本論初稿であり、この「1863年 - 1865年経済学草稿」は新MEGA編集者によって「第3の『資本論草案」と呼ばれている。 5. 「1865年 - 1867年の経済学諸草稿」 1867年4月12日マイスナー書店渡された『資本論第1部印刷原稿は、同年8月に『資本論第1部初版として出版される第1部執筆出版執心していたマルクスだが、この時期に彼は第2部第3部への補足必要性感じていた。そのため、この時期書かれ第2部第3部補足のための諸草稿存在している。これに関してエンゲルスマルクス死後に『資本論第2部第3部出版の際に部分的に利用している。もちろんこの中には実際にエンゲルス版『資本論』に採用されずに埋もれたままの草稿存在する。これは新MEGAの第II部第4巻第4分冊収録され予定である(2007年現在未刊)。 6. 「1868 - 1881年の『資本論』第2部諸草稿」 この草稿群は主に『資本論第2部書き直しを含む長短種々の草稿。つまり『資本論第2部全体草稿である。第2部周知のようにマルクス死によって未完成に終わった。この草稿類の中でも1868年12月初旬から1870年半ばまでに書かれたものは、「第2部草稿のうちで、ある程度まででき上がっている唯一のもの」(エンゲルス)である。これもまたエンゲルス版に部分的に利用されている。 1870年草稿書いてからのマルクスは、執筆中断した一時期挟んでから1877年3月末に再びペンを執る。これもまた第2部のための補筆書き直し含んだ草稿になる。ここでマルクス3度わたって第2部第1章書き上げ試み、またその後1880年末頃から1881年にかけて第3章新たな書き直し試みている。これらの草稿マルクス生前書いた資本論』全3部のための最後草稿となった7. それ以外の諸草稿 上記以外の草稿について、まず第3部第1章に関して次の草稿存在する第3部第1章に関する断稿(1869年1月1871年8月第3部第1章に関する断稿(1875年11月第3部第1章に関する断稿(1875年5月第3部第1章に関する断稿(1876年2月半ばこのうち2つエンゲルス編集によって第3部冒頭部分利用された。これに加えて断片的なノート類やメモ目次引用資料などマルクスによる多く別の草稿類が存在している。 またフランス語版資本論』では、初版後半部分にマルクス改訂加えているが、このフランス語版ドイツ語版との統一完成することなくマルクスこの世去ったマルクス生前ドイツ語第2版のどこを削除しフランス語版のどこに置き換える必要があるかを「第1巻のための変更一覧表」で一括整理していたのだが、第3版編集の際にエンゲルスはその存在に気づかなかった。 エンゲルス第3版編集出版する際に「変更一覧表ではなく、その元になった第2版フランス語版マルクス自用本の書き込み」を参考にしている。ただ新MEGA編集委員である大村泉研究によれば、この「書き込み」は単なる備忘録メモの域を越えないものであり、「一覧表」の存在なしには意図不鮮明な部分多数あった。こうした経緯依拠すべき草稿取り違えられてしまい、フランス語版訂正され箇所第3版では訂正がされないまま不正確になってしまっている。エンゲルスが「一覧表」の存在に気づいたのは、後年英語版監修していた1887年時点だが、エンゲルスはなぜか第3版でも第4版現行流布底本)でも編集の手入れをほとんど行わず、またこうした事実率直に述べていない。 2007年現在刊行中新MEGAII部「『資本論』および準備労作」は15巻24分冊予定されており、その構成は以下のようになっている巻数収録草稿第1巻(全2分冊) 「バスティアケアリ」『経済学批判要綱』(1857年 - 1858年)ほか 第2巻経済学批判』(1858年 - 1859年原初稿ほか 第3巻(全6分冊) 『経済学批判草稿1861年 - 1863年第4巻・第1分冊資本論第1部・第2部初稿 第4巻・第2分冊資本論第3部主要草稿1864年 - 1865年)ほか 第4巻第3分冊資本論第2部・第IIIIV草稿第3部関連草稿ほか 第5巻資本論第1巻第1部初版1867年マルクス自用本の訂正ほか 第6巻資本論第1巻第1部改定第2版1872年 - 1873年補遺及び変更初版との異同一覧マルクス初版自用本への欄外書き込み 第7巻 仏語版『資本論第1巻1872年 - 1875年仏語から独語への乖離一覧ほか 第8巻資本論第1巻第1部増補第3版1883年第1巻のための変更一覧表 第9巻 英訳資本論第1巻1887年英訳独語からの乖離一覧ほか 第10巻資本論第1巻第1部校閲第4版1890年独語第3版第4版採用されなかった仏訳テキスト一覧 第11巻(全2分冊) 『資本論第2部II草稿、第V - 第VIII草稿ほか(1868年 - 1881年第12巻資本論第2巻第2部エンゲルス編集原稿1884年 - 1885年アイゼンガルテンエンゲルス書き込み一覧編集原稿マルクス草稿との異同一覧 第13巻 エンゲルス版『資本論第2巻第2部初版1885年編集原稿マルクス草稿との異同一覧 第14巻 マルクスエンゲルス資本論関連草稿1871年 - 1894年第15巻 エンゲルス版『資本論第3巻第3部1894年マルクス草稿との異同一覧

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