鰹節
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/10 00:38 UTC 版)
製法
製造工程
先述のように加工は、カツオを卸した後、煮熟と放冷を行い、さらに焙乾や天日干し、カビ付け(微生物の利用による乾燥)の繰り返しが行われる[4]。加工工程の差異によって、鰹を茹でて干したのみの生利節(なまりぶし)、それを燻製にしたさつま節・荒節(あらぶし)、荒節にカビを付けることにより水分を抜きながら熟成させる工程を繰り返した本節・枯節(かれぶし)・本枯節(ほんかれぶし)・仕上げ節など呼び名が異なる。鰹節という呼称は燻製法ができる江戸時代以前にすでに用いられており、上記のような各種のものを総じて呼ぶ事もある。
- 原料
- 原料のカツオは鰹節にする場合は脂肪分が少ないほうが良いとされ、脂肪分1〜3%のものが鰹節の製造に適している[4]。
- 生切り
- カツオの頭部と腹部を取って内臓を除去する工程[4]。伝統的には包丁で処理されるが、工場ではヘッドカッターが導入されているところが多い[4]。魚体の処理方法には薩摩型(地型)と改良型(焼津型)があるが後者が一般的になっている[4]。一般的に魚体が4kg以下のときは左右2枚に捌いて亀節、それより大きいものはさらに背肉と腹肉を分けて4枚とし本節にする[4]。
- 籠立て
- 煮熟のために煮籠に節を並べる作業を籠立てという[4]。亀節の場合は皮付面、本節では身付面を下にして煮籠に並べる[4]。
- 煮熟
- 節を並べた煮籠を重ねて煮釜に入れて加熱する[4]。鰹の死後、熟成する段階で自己消化で核酸より生成されたイノシン酸は、これ以後の化学反応を経て腐敗を防ぐために酵素の活性を失うべく、高温の熱湯に漬ける「煮熟(しゃじゅく)」をすることにより、イノシン酸が固定される。煮熟の過程で湧出されたエキスも回収されて市販の製品に利用される[9]。
- 骨抜き
- 煮熟した節から骨を抜く工程。
- 修繕
- 身卸し、煮熟、骨抜きの工程で欠けた部分に練り肉を埋め形を整える工程[4]。
- 蒸煮
- 節を引き締め表面を殺菌するため100度〜120度で蒸して加熱する[4]。
- 焙乾
- 蒸煮した節は硬木(ナラ、クヌギ、カシ、サクラ、モミ等)を焚いて焙乾するが、亀節では8〜10番火、本節では10〜15番火まで繰り返す[4]。この工程後に半日から一日、日乾したものを荒節という[4]
- 焙乾には手火山式と棚式があるが後者が一般的になっている[4]。江戸時代より鰹節の製造に使われてきた手火山式は、生切りした鰹をセイロに乗せた後、薪を使い高温に燻煙させて作る工程をいう。
- 削り
- 日乾した節は3〜4日放置し、表面についたタール質を削り取って形を整えるが、この工程を終えたものを裸節という[4]。伝統的には包丁で処理されたが、工場ではグラインダー型のやすりを付けた木製ドラムの機械が導入されているところが多い[4]。
- カビ付け
- カビ付けの意義は完全には解明されていないが、優良カビによる水分や脂肪の除去、特有の香味の付与やだし汁の透明化、不良カビの抑制などの効果があるとされている[4]。裸節を2〜3日乾燥させてからカビ付け用の木箱に詰めてカビ付け庫(湿度80〜90%、温度27〜30度)[4]。カビ付けと日乾、日乾後のブラシでのカビの払い落しを繰り返すが、普通はカビ付け操作の回数で4番カビまで行われる[4]。カビを生やした枯節には、うま味成分やビタミン類が他の鰹節より多く含まれ、高級品として扱われている。血合いをそのままにしたものと除いたもの(血合い抜き)があり、用途にもよるが後者の方が繊細で上品な味になるため高級品とされる。
- 製品
- 乾燥の繰り返しにより製品の歩留まりは亀節では18%、本節では16〜17%になっている[4]。
技術開発
鰹節とかつお節加工残滓の黒粉には、摂取すると発癌性など人体に有害があるとされるベンゾ[a]ピレンなどの多環芳香族炭化水素 (PAHs) が多く含まれるものがある[10][11]。PAHs は燻煙に使用する煙が凝固した煤とタールや原料魚に含まれる油脂の燃焼煙に由来するとされている[10]。かつお節黒粉は工業的に抽出され出汁や調味液の原料として利用されているため、かつお節黒粉抽出物中の PAHs 低減のための技術開発が行われている[10][11]。
2015年時点で日本では規制値はないが、欧州連合 (EU)、カナダ、中国、韓国などでは規制値が設定されており、鰹節の輸出などの際に問題となることがある[12][11]。一方で鰹節は旨味を抽出できる食材として海外でも知られるようになっており、日本企業による輸出や海外生産の取り組みが増えている。日本国内の鰹節関連事業者が共同で設立した新会社「枕崎フランス鰹節」(鹿児島県枕崎市)は燻煙の燃料・時間を工夫することで規制値を下回るようにする技術を開発し、ブルターニュ地方のコンカルノーに建設した工場で2016年9月から生産を始めた[13]。
静岡県焼津市の鰹節メーカー・新丸正は製造工程を改良し、EU向け輸出に必要なHACCP認証を2017年に取得した[14]。
インドネシアでは現地企業が鰹節を生産しており、ヤマキは提携して仕入先としている[15]。ヤマキはこのほか、鰹節の韓国現地生産にも乗り出している[16]。
副産物
鰹節や鯖節の煮熟に使った煮汁を長時間加熱して煮詰めたものを「せんじ」という[4](煎脂[17]、鰹せんじ、鯖せんじ)。鯖せんじは屋久島で生産されている[4]。『和名類聚抄』などには堅魚煎汁(かつをいろり)の記述があり古くから調味料として使用されてきた[17]。
- ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
- ^ 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」
- ^ 三省堂. “おかか”. 大辞林 第三版. エキサイト. 2015年8月21日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am “第5節ふし類”. 鹿児島県水産技術開発センター. 2020年11月25日閲覧。
- ^ 第15回 平成28年度 遺跡調査報告会資料是川縄文館 2017年10月25日閲覧
- ^ a b “伝統食材“鰹節””. www.katsuobushi.or.jp. 一般社団法人日本鰹節協会. 2020年6月2日閲覧。
- ^ “発酵”. 東京人 (都市出版) 321: 51. (2013-02-03).
- ^ a b 屋久島は実際は薩摩国ではなく、大隅国に属する。
- ^ 山本おさむ『そばもん ニッポン蕎麦行脚 第8巻』小学館、2011年。ISBN 978-4-09-184273-2。 より「出汁のあれこれ」。
- ^ a b c かつおぶし・削りぶしの製造における多環芳香族炭化水素類(PAHs) の低減ガイドライン (第1版) 全国削節工業協会 かつお節安全委員会 2015-12-03閲覧 (PDF)
- ^ a b c 笠根岳、岡田美緒、遠藤英明、任恵峰、活性炭によるかつお節加工残滓熱水抽出液中の多環芳香族炭化水素類(PAHs)の除去 日本水産学会誌 Vol.81 (2015) No.5 p.826-835, doi:10.2331/suisan.81.826
- ^ “時事ドットコム:EUに「万博特例」要請=かつお節、フグ持ち込めず-ミラノ博の和食提供・政府”. 時事ドットコム (時事通信社). (2014年12月9日). オリジナルの2014年12月9日時点におけるアーカイブ。 2015年12月3日閲覧。
- ^ “仏で初のかつお節工場操業 鹿児島・枕崎の組合”. 日本経済新聞. (2016年9月2日)
- ^ “焼津の新丸正、EUにかつお節輸出”. 日本経済新聞地域ニュース(東海). (2017年2月16日)
- ^ “ヤマキ、インドネシアからかつお節独占調達 年500トン”. 日本経済新聞地域ニュース(四国). (2016年7月27日)
- ^ “韓国に初の削り節製造子会社を設立”. ヤマキ(プレスリリース). 2017年5月10日閲覧。
- ^ a b 五百藏良、西念幸江、三舟隆之. “古代の調味料としての鰹色利”. 東京医療保健大学. 2020年11月27日閲覧。
- ^ 軟水、硬水はどのように使い分けされているのでしょうか。 日本ミネラルウォーター協会
- >> 「鰹節」を含む用語の索引
- 鰹節のページへのリンク