飛翔 人工物の飛行

飛翔

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/03 00:01 UTC 版)

人工物の飛行

次に人類が実現した飛行について説明する。人類が、人間の乗らない物体を飛ばすことは古来行われてきた。石やの投擲、弓矢の発射を除き、ある程度長い時間滞空できるものとしては、や小型の熱気球天灯)がある(後者は「風船の歴史」も参照)。

概説で述べたように、人間の身体には空を飛ぶための羽根・翼が備わっておらず、生身では飛行できない。長らく鳥のように飛ぶことを夢見てきた人類は(オスマン帝国での一部の発明家や、レオナルド・ダヴィンチによる滑空装置の実験などが単発で行われたものの、あまりに危険な実験で、装置の制作も人々に広まらず、後継者が続かず歴史に埋もれてしまい)、ようやく自分が乗り込んで空中を移動できるような装置が多数作られるようになり広まったのは18世紀のことであり、それは大型の熱気球であった。

動力によって推進される固定翼機による飛行が実現したのは20世紀に入ってからである。米国のライト兄弟が固定翼方式の機体にエンジンをつけたライトフライヤー号を制作して、1903年12月17日に初飛行を行ったのであった。

特にこのライト兄弟の飛行以来100年ほどの間に、人類は飛行に関して様々な知識やノウハウを蓄積してきた。飛行を研究する工学の一分野を航空工学と言う。

飛行の歴史(航空史)

英語では飛行のための装置を設計・開発・製造・利用すること等々を広く指してaviationと言い[9]日本語では航空という用語をあてるが、aviationの歴史をaviation historyと言い、それを日本語では「航空史」と言う。

数多くの要素がある人類の飛行の歴史の中から、もしもハイライトに絞って挙げるとするならば、(いくつか挙げ方はあろうが)例えば次のようになるかも知れない。

1900年初の硬式飛行船ツェッペリンLZ-1での初飛行、1903年のライト兄弟による動力機での初飛行、1927年のリンドバーグによる単独・無着陸での大西洋横断飛行、1939年のターボジェット機 He178での初飛行、1947年のチャック・イェーガーによるロケット動力飛行機X-1での音速突破飛行、1976年の超音速旅客機コンコルドの初飛行(と2003年の飛行終了)、1961年のソ連のボストーク1号でのガガーリンの世界初の有人宇宙飛行、米国のアポロ11号での月面着陸、スペースシャトルコロンビア号の事故チャレンジャー号の事故[10]。また日本人ならば航空史を語る時に、1785年ころに浮田幸吉が滑空飛行を成功させたこと、も併せて挙げるかも知れない。

熱気球での飛行

飛行船での飛行

Giffardの飛行船(1852年)

グライダーでの飛行

オットー・リリエンタールによる滑空実験(1895年)

グライダーでは滑空を行う。つまり基本的には固定翼機と似た機体での飛行であるが、動力無しで飛ぶ。グライダーというのはglide グライド(滑空)するもの、といった呼称である。

基本的には、空気中をほぼ水平だがわずかに斜め下方向に、滑るように進むように設計されている。

中世にヨーロッパで制作されたことがあるとされる滑空装置などはあまり滑空性能は良くなかっただろうと推察されている。ただし17世紀のオスマン帝国の学者ヘザルフェン・アフメト・チェレビは、数千メートルほども滑空するのに成功したとの話が伝わっている。

1m下がる間に何mほど前に進めるか、という値を「滑空比」と言うが、近年のグライダーは空力性能が向上しており、一般的な機体では、数十対1程度の滑空比でとぶことができ、 競技用のグライダー(つまり比較的高性能の機体)では例えば40対1程度の滑空比で飛行できるように設計されている。実際に降下する率は、機体の設計やその時々の気象条件や操縦方法によって異なっている。

グライダーでの滑空の一例、MONERAI-Sを用いた滑空。

ただし、グライダーは上昇してゆくこともできる。上昇気流のある空間を飛行すると、グライダーが空気に対して下降していても、空気が上方向に移動した分、翼が下方から力を受け機体も上へ持ち上げられる。よって十分に大きな上昇気流が起きている空間を飛べば、下降する分よりも上昇する分が上回るので、動力が無いにもかかわらず、上昇してゆくことができる。

一般に、グライダーの飛行では、地表が太陽の熱で温められて生じる、眼には見えない柱状の上昇気流を見つけては、その柱状の空間内で旋回し、グルグルとらせん状に上昇して高度をかせぎ、やがて上空でその柱が消えたあたりでその空間から離脱し、直線的な飛行に移り、高度が下がってゆき、また高度があまり低くなる前に再度上昇気流の柱状の空間を見つける、ということを繰り返す。

トンビなどの鳥が翼を動かさずに、大空で上昇気流を見つけ、くるくると回転しながら上昇してゆくことがあるが、グライダーのパイロットはそれを模倣し、それと同じ原理で高度をかせぐ飛行を行うのである。トンビの飛行と同じで、エンジン音もせず、とても静かに飛行する。静かなこともグライダーの飛行の魅力のひとつだとグライダー愛好家は言う。

グライダーの連続航行距離の世界記録は、アンデス山脈で作られたもので3,000kmを越えている。

飛行時に機体に働く力の基本的な分析。Weight 重力、Lift 揚力、Thrust 推進力、 Drag 抗力
翼のまわりの空気の流れの様子。αが迎角(迎え角)。灰色の線は流線。一般的な翼では、概ね迎角の大きさに比例して、揚力係数と抗力係数が増加していく。ただし迎角を大きくしすぎると、揚力係数が急激に小さくなる角度に達してしまう。
揚力係数曲線の例

動力付固定翼機での飛行

基本原理

基本的に固定翼機は、前方へ押されること(推進すること)によって、空気が前方から翼に当たりを生じる。翼に迎え角がある場合、下側の面に空気が当たり、それによって後斜め上の方向への力が発生する。その力は一般に、地面に対して垂直方向の力(=揚力、つまり重力とは反対方向の力)、および進行方向と反対の方向の力(=抗力)に分解して理解されている。機体は、重力が生む下方向の力を、翼が生む垂直方向の力(揚力)によって打ち消すことで、自由落下に陥ることを免れる、という原理になっている。

翼というのは、真平らな板状のものでも揚力を生むことが可能で、迎角があれば揚力は発生する。ただし、上面は曲面(かまぼこ状の形状)にしたほうが、揚力はいくらか大きくなる。というのは、翼の上面を曲面にしたほうが、そこで翼から空気の流れが離れてしまって乱流が発生しまうことを防ぐことができ、上面の乱流が無い(あるいは小さい)ほうが、翼で発生する揚力は大きくなるからである。迎角は補助翼によって生む力で機体の前後の傾きを変化させ調整する。

初期の、推進用のプロペラをそなえた固定翼機から説明する。プロペラが回転することで機体を前方へ押す力(推進力)を生む。

ライトフライヤー号

動力付固定翼機ライトフライヤー号での初飛行。59秒間で260m飛んだ。飛行高度はわずかなものであった。

ライト兄弟は、ライトフライヤー号に12馬力と推定されるエンジンを搭載し、2つのプロペラを駆動し推進力を作り出し、固定された2枚ののたわみ翼で揚力を作りだし飛行した。補助翼は主翼の前にあり、現在の一般的な飛行機が補助翼が主翼の後ろにあるのと比べ前後が反対である。操縦者はふせる姿勢でレバーを握り飛行の姿勢を制御した。地表から数十cmの高さを水平に飛行させ、4回の飛行を繰り返し、記録を伸ばし、4回目に59秒間で260mの飛行を行った。

ライトフライヤー号では、ほぼ直線的な飛行しかできなかったが、やがて旋回ができる機体が開発されることになった。

第一次世界大戦初期、飛行機による敵地の偵察が開始された。最初は武器も搭載せずパイロット同士はのどかに手を振り合うなどしていたが、やがて飛行中に空中で物を投げつけたり、互いに拳銃で撃ち合ったりするようになった[11]。第一世界大戦中には機関銃を搭載した戦闘機による空中戦が戦術として定着した。

飛行技術の高度化は様々な方向で行われ、一つには空中で自在に動くことを目指した。機体の改良と操縦テクニックの発達により宙返り、ローリング、背面飛行などが可能となった。空中戦で、敵機に対して有利な位置をとるために用いられた。

別の目標としては高速化があった。1947年には米国のベル社のX-1で水平飛行での音速を超える水平飛行(超音速飛行)を実現した。

なお現在のジェット旅客機は、巡航時に10,000m(30,000フィート)ほどの高度を飛行するが、その巡航速度は、一般論として言えば、対空速度で言えば860km/m前後で、音速のおよそ0.83倍に相当する。なお高高度では空気が極端に薄くなるため、揚力が極端に下がり、低高度で見せるような中・低速では飛ぶことができない。また旅客機は一般に音速で飛べるようには設計されておらず速度に上限もある。つまり実は、ジェット旅客機が高高度で安全に飛べる速度の幅はかなり狭い。(ただし、近年の飛行機では、高高度を飛行する時にはオートパイロットで適切な速度を保ち、操縦者も適切な速度を設定するように訓練を受け習慣づけられているため基本的には問題は起きない。ただし緊急時に高高度で何らかの事情で速度を落とすような操作を誤って行うと、突然深刻な問題に直面することになる。)

回転翼機での飛行

回転翼機は、いくつか変遷を経たが、ここでは現在の回転翼機の代表とも言えるヘリコプターの飛行について説明する。

ヘリコプターでは機体の上方で翼を回転させることで揚力を発生させて飛行する。ヘリコプターの飛行の大きな特徴のひとつは、空中の一点で静止しつづけること(ホバリング)ができる、ということである。

シングルローターのヘリによる飛行。( ロビンソン R22
ツイン・ローター機による飛行

飛行原理をもう少しだけ解説すると、メインの回転翼(ローター)が一つのタイプ(「シングル・ローター」という)のヘリコプターでは、メインローターによって機体に反作用が生じて回転することをテールローターによる逆向きの力で防ぐ。

ヘリコプターでは前進・後進・横方向などへ移動することは、メインローターの回転面を進行方向へ傾けさせることで行う。それをどのように行うかと言うと、メインローターは毎回回転する中で、回転の角度に応じて、素早く迎角の変化(フェザリング)を繰り返すように出来ており、例えば機体の後方あたりで迎え角が大きくなるようにし揚力が大きくなるようにすると、回転面が前に傾くので、機体は前方に進みはじめる。

主たる回転翼が2つのものはツインローターと呼ばれており、2つのローターが逆方向に回転することで、反作用を互いに打ち消す。前後左右に移動する原理は、シングルローターのタイプと同じである。

マルチコプター機での飛行
有人の電気マルチコプターの初の実験飛行

3つ以上のローターを備えた回転翼機のことをマルチコプターと言う。小型の電動のマルチコプターが2000年代、特に2010年代以降に急激に普及し、空中撮影などにさかんに活用されている(マルチコプターが普及していなかった時代(つまり2010年ころまでは)、空中撮影には軽飛行機やヘリコプターやモーターパラグライダーが使われたが、最近ではそれらを超えて、まるで「主力」のように使われている)。人を乗せて飛行させるマルチコプターも、実験機やプロトタイプなどとして開発が行われており、パイロット無しで、行き先を告げたり設定するだけで自立的に目的地まで飛行する、いわば「自動操縦の空中タクシー」のようなマルチコプターを2017年に導入する計画をUAEのドバイが発表したり[12]、また2018年には大手航空機メーカーのボーイング社も最大積載量200kg超のマルチコプター機の開発に乗り出したり[13]、中国で有人マルチコプターの製作や試験飛行に成功するなど[14]、いくつもの国で開発が精力的に行われており、マルチコプターの有人飛行の実用化や普及の時期は近づいている。

ハンググライダー

パラグライダー、パラモーター

「鳥人間」的な飛行

最近では 飛行機などに乗る飛行法、つまり大きな箱の中に入って飛ぶことに飽き足らず、できるだけ鳥のような感覚で飛びたいと望む人もいる。

ジェットエンジンつきの翼(jet-powered wing)を背中に装着したイブ・ロッシー(写真左側の人物)。ロッシーの翼はジェット推力つきなので、ただのグライダーとは異なる。能動的に上昇してゆくこともできる。小型の翼で身体との一体感があり、通常の軽飛行機のように操縦桿を操作するのではなく、自分自身の手のひらや足先をわずかに動かすだけで上昇・下降・旋回などが自在にできるので、自分がほぼ「鳥になった」ような感覚で飛ぶことができる。

いくつか方法があり、一つはジェットエンジンのついた小さな固定翼だけを背中に背負い、いわば小さな「人間ジェット機」になって飛ぶ方法である。元スイス空軍の戦闘機パイロットで現在は旅客機のパイロットをしているイブ・ロッシーが、趣味としてジェットウィングの開発・改良を長年に渡り重ね、2008年9月26日にはドーバー海峡をフランスから英国側までおよそ35kmほど飛行することに成功した。具体的に言うと、まず小型飛行機に乗り、機内でジェットウィングを装着、フランス側の高度2500mで、スカイダイビングの要領で空中へ飛び出し、空中で落下しながらジェットエンジンを始動。空中で水平飛行に移り、後は時速200km/hを超える速度で英国へと飛行し、目的地上空へ近づいた段階でジェットエンジンを停止し、パラシュートを開いて着陸した。およそ10分ほどの飛行であった。翼は形が変化する箇所(フラップやエルロンなど)は一切なく、飛行姿勢の制御は、ロッシー自身が自分の手や脚の角度をかすかに変化させることで行う。飛行速度が200km/hと十分に高速であるため、手のひらをわずかに動かすだけでも激しくロールし、足のつま先をわずかに動かすことが飛行機の尾翼の操作に相当する。

ウイングスーツでおこなう飛行の様子

また、グライダーを極端に小さくしたような状態で、いわば「人間グライダー」のようになって滑空を楽しむ人々も最近現れた。1999年にはフィンランドのBIRDMAN社からウイングスーツが初めて市販され、それ以降、同スーツで飛行することを愛好する人々がいるのである。崖の上から空中に飛び出して滑空したり、上空の飛行機から空中に飛び出して滑空に入る。2011年5月28日には、米国カルフォルニア州にて伊藤慎一が、上空9,754mから降下し水平距離としては23.1km(=23,100m)、これを5分で滑空したという。

その他の手段による飛行

マリンスポーツの一種「フライボード」では、ホースから噴出させた水の圧力で、最高10m近くまで空中に浮かび上がることができる[15]


  1. ^ 広辞苑 第五版「飛行」
  2. ^ 広辞苑 第五版「飛翔」
  3. ^ ナショナルジオグラフィック ニュース
  4. ^ ユッタ・シュトレーター-ベンダー『天使 ― 浮揚と飛行の共同幻想』 青土社、1996
  5. ^ da Vinci, Leonardo (1505). Codex on the Flight of Birds. Turin: Biblioteca Reale.
  6. ^ [1]
  7. ^ “大陸間を休まず飛行できた巨大翼竜”. ナショナルジオグラフィック. (2010-19018). https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/3273/ 2020年7月12日閲覧。 
  8. ^ ピーター・スティーヴンス『自然のパターン・形の生成原理』金子 務 訳、白揚社、1987年、34頁
  9. ^ dictionary.com
  10. ^ 例えばReg Grantの書 Flight, Dorling Kindersley, 2010 が、コンコルドの最終飛行やコロンビア号やチャレンジャー号の事故も特に挙げている。
  11. ^ 『徹底図解 戦闘機のしくみ』 新星出版社 2008年10月5日 p.42
  12. ^ CNET「UAEのドバイ、自律飛行“空中タクシー”の試験運行を2017年第4四半期に開始」
  13. ^ CNET「ボーイング、最大積載量200kg超のドローンを試作--4対の二重反転ローターで飛行」
  14. ^ TECHCRUNCH「見よ、Ehangの有人ドローンが実際に飛ぶところを
  15. ^ マリンスポーツ「フライボード」中の男性溺死 香川産経WEST(2018年8月26日)2018年9月6日閲覧。


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