狩猟 狩猟の問題点

狩猟

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/10 15:39 UTC 版)

狩猟の問題点

銃弾による水鳥・ワシ類の鉛汚染
北海道のエゾシカ猟に代表される鹿猟では、散弾銃にスラッグ弾を込めたもの、あるいはライフル銃が用いられる。この鉛でできた実包で鹿を撃ち、被弾部位を含む残滓を放置すると、ワシ類やカラスなどがそれを食べると中毒が引き起こされる。また、鳥類を捕獲する場合は、主に散弾銃を用いて行われるが、この実包の中にはでできた散弾が多数封入されている。鳥類には、習性として砂のうに小さな土石の粒を蓄える種があり、そのような鳥は直接狩猟の対象とされない場合であっても、狩猟による間接的な影響を被っている。つまり、そのような種類の鳥が土や小石等と一緒に、水辺に放出された鉛散弾を摂取することによって、鳥の体内に鉛がたまってしまい、鉛中毒となって死に至ることがある。
鉛中毒対策として、散弾の素材として鉛以外の金属(スチール・ビスマス(軟鉄)・・タングステンポリマー等)を用いたスラッグ弾あるいはライフル弾の実包が製造されている。日本国内でも一部地域においては、使用が許される散弾が鉛以外の材質を用いたものに制限されている。北海道では鉛弾の利用は全面的に禁止されており[23]、宮城県などの地域でも使用禁止が広がってきている。北海道では、平成10年度に回収されたワシの死体のうち約80%が鉛中毒だったが、平成17年度にはその比率が10%未満に減少している。完全に0にならない理由として、違法な狩猟者の存在や、既に半矢で体内に鉛弾を有している個体の存在が挙げられている。また、既に水辺に放出された鉛散弾が深く沈下するまでには数十年かかるため、水鳥鉛中毒の発生は今後も継続し、その数も徐々にしか減少しないと考えられている。
個体数のバランス崩壊
生態系は、よく知られる食物連鎖のほか、未解明のものも含めて極めて複雑なメカニズムによって各種生物の個体数や生息地域のバランスが保たれている。しかしこのメカニズムに人為的な介入が加えられると、バランスが大きく崩壊する場合がある。狩猟鳥獣の生態数は、狩猟者が狩猟期間終了後に提出する種別毎の捕獲数や捕獲場所の情報も含めて調査されており、著しく減少した場合は、一時的に捕獲禁止規制が実施され、生態数の回復が図られる。しかし実際には狩猟圧よりも生息環境の悪化が捕獲数減少を引き起こしているという意見もある。キジやヤマドリなどはメスの捕獲が禁止されており、基本的に生殖上の余剰オスを狩猟する形になっている。これを調査するために猟期初期のオス・メス別の出会い数調査も行われている。その比率はおおむね 1:1 となっており、これは現在の捕獲数が余剰オスの範囲であることを意味し、捕獲禁止は意味がないとの意見もある。
動物の権利侵害
動物の解放』を著述したピーター・シンガーは動物の殺害や残虐行為を止め、野生動物は放っておくべきであると指摘している。義務論者のトム・レーガンは、人間は狩猟してはならず、放っておくべきだと指摘している。スー・ドナルドソンらは、先住民族の土地をヨーロッパ人が植民地支配したのは不正であるという例を引き合いに出し、野生動物は領内で社会を作る利益を持ち、侵略者から彼らを保護するために主権を認めるのは有効であると指摘している[24]。法学者で動物の権利を主張するフランシオンは、一般に不必要な動物への危害は避けるべきだとされているが、狩猟も不必要な危害の禁止に反し、やめるべきだと指摘する[25]

注釈

  1. ^ 米国では、弓矢としては、「コンパウンド・ボー」と呼ばれる、滑車つきのアーチェリーがさかんに使われている。
  2. ^ 一休とんち話に殺生を禁ずる寺院において仏具に獣皮が使われていることを皮肉る挿話がある。
  3. ^ ハーフライフル銃身のサボット弾専用散弾銃。

出典

  1. ^ a b 鳥獣保護管理と狩猟”. 野生鳥獣の保護管理. 環境省. 2012年9月4日閲覧。
  2. ^ トゥーサン=サマ 1998, pp. 70–72.
  3. ^ a b c 『野生動物管理のための狩猟学』pp.34-42
  4. ^ a b c d 『野生動物管理のための狩猟学』pp.42-52
  5. ^ a b 『野生動物管理のための狩猟学』pp.61-69
  6. ^ 『野生動物管理のための狩猟学』pp.69-76
  7. ^ 消えゆくゾウたち - アフリカゾウの危機(Elephants in the Dust-The African Elephant Crisis)』トラフィックイーストアジアジャパン 2015年6月15日閲覧。
  8. ^ U.S. Fish and Wildlife Service (2011年). “2011 National Survey of Fishing, Hunting, and Wildlife-Associated Recreation” (PDF). 2012年9月4日閲覧。
  9. ^ 『野生動物管理のための狩猟学』pp.52-61
  10. ^ a b 『野生動物管理のための狩猟学』p.6
  11. ^ 『野生動物管理のための狩猟学』p.7
  12. ^ 『野生動物管理 -理論と技術-』p.11
  13. ^ a b 『野生動物管理のための狩猟学』p.8
  14. ^ 『暮らしと生業 ひと・もの・こと 2』p.162
  15. ^ 『野生動物管理のための狩猟学』p.9
  16. ^ 『野生動物管理のための狩猟学』p.10
  17. ^ 『野生動物管理のための狩猟学』pp.11-13
  18. ^ 田口洋美「マタギ―日本列島における農業の拡大と狩猟の歩み―」『地学雑誌』第113巻第2号、2004年、191-202頁。 
  19. ^ 『野生動物管理のための狩猟学』p.14
  20. ^ 暴発狩猟 山仕事は命がけ 負傷、大半は住民 しいられる自衛策 資格きびしくしたい 警察庁『朝日新聞』1970年(昭和45年)11月10日 12版 23面
  21. ^ TWINとは?”. The Women In Nature. 2013年3月27日閲覧。
  22. ^ 大日本猟友会 2012.
  23. ^ ワシ類の鉛中毒対策について”. 環境生活部 自然環境課. 北海道庁. 2012年12月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年3月27日閲覧。
  24. ^ スー・ドナルドソン、ウィル・キムリッカ『人と動物の政治共同体』尚学社、2017年。 
  25. ^ 『動物の権利入門』 88頁






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