漢方薬
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各国での定義と発展
中国大陸では数千年の歴史の中で経験に基づく医学が培われた[5]。古代中国から受け継がれてきたこれらの医書や医学理論は、今の中華人民共和国の中医学(中国の漢方・中医薬を処方)、日本の漢方医学(日本の漢方・漢方薬を処方)、朝鮮半島の韓医学(韓国の漢方・韓薬を処方)として独自の発展を遂げ、三つの異なる医学体系が形成された[5]。
中国
中国は現在でも古代と同様に、個人の証に合わせて処方を調整する煎じ薬で飲むことが多い。これに対し、日本では逆にエキスの錠剤が多い。日本の漢方薬は持ち運びなどの利便性がいい反面、処方調整が難しいという面がある。一方、中国の漢方薬は服用にあたっての利便性においては劣るが、薬用効果が極めて高い[6]。中国系の漢方は一般的に精油成分が粉末にする際に蒸発しやすく[7]、また液体状態で服用した方が消化器にて吸収しやすいことから、煎じ薬の方がエキス錠より効き目が早く、そして強いとされる。
日本
日本への中国医学伝来は5〜6世紀ごろといわれている[5]。日本では中国医学の吸収が続いた一方で、江戸時代中ごろ、中国医学の考え方に批判的な一派が起こった。これは現在「古方派」と呼ばれている[5]。ただし江戸時代、日本の医学が全て古方派になったわけではなく、例えば多紀元胤(1789-1827)は、1819年に『難経疏証』を著している[8]。江戸時代にはオランダを通じて体系の全く異なる西洋医学が伝来し「蘭方」と呼ばれるようになり、伝統医学のほうは「漢方」と呼ばれるようになった[5]。
現代では医薬品医療機器等法が施行されたことなどから漢方薬の成分分析が進んだため、日本では、中国には無い組み合わせの処方が行われるようになっている。ただし、例として日本の大手メーカーであるツムラでも、原料である生薬の8割を中国から輸入している[9]。また明治時代の西洋化により、漢方医学や漢方薬は一時排斥された。1895年に開かれた第8回帝国議会では『漢医継続願い』が否決され[10]、漢方医学は存続の危機に瀕することになる。
1967年(昭和42年)、武見太郎(日本医師会会長)の尽力により、漢方薬は健康保険の適用対象となる薬価に70種類の漢方薬を大臣告示で薬価基準に収載させた[11][12]。ただし、新薬で行われる通常の臨床評価試験を経ず、文献上の資料のみを元にして収録されたため、今後の効用再評価が求められる。
朝鮮
大韓民国では、漢方ではなく「韓方」「韓薬」の呼称が一般的である。これは韓国においても、李氏朝鮮時代の医師、許浚の『東医宝鑑』(1613年)等で漢方医学が独自に体系づけられたからである。同国では韓方医を育成する韓医学部が大学に置かれ、韓方医院は地方でもごく普通に存在する。
欧米
欧米では一般に漢方薬は疑似科学とみなされ、作用機序に欠ける迷信の類と考えられている[13]。また、漢方に関する現行の各種の研究も、作用機序が存在するという前提に立ったバイアスに満ちたものとして否定される傾向にある。漢方薬を医薬費として販売するため臨床試験を進めている企業も存在するが、2012年現在、FDAの認可を果たした事例は存在しない[14]。
注釈
出典
- ^ 花輪寿彦 2003, pp. 286–288.
- ^ a b “その「漢方ダイエット」、高いお金を払う価値はある?|新米医師こーたの駆け出しクリニック”. 時事メディカル. 2021年10月25日閲覧。
- ^ a b c 花輪寿彦 2003, pp. 350–353.
- ^ 日本医師会 1992, p. 29.
- ^ a b c d e f g h 漢方ですこやか生活 日本漢方製薬製剤協会、2019年9月21日閲覧。
- ^ 溝部宏毅, 新井信, 佐藤弘, 代田文彦, 小幡弘「(シンポジウム 東洋医学の新たな展開 : 基礎と臨床から)東京女子医科大学附属東洋医学研究所の現状と展望」『東京女子医科大学雑誌』第63巻第5号、東京女子医科大学学会、1993年5月、452-456頁、CRID 1050564286201094528、hdl:10470/8540、ISSN 0040-9022。
- ^ クラシエ医療用漢方エキス製剤品質ポリシーと製造管理(クラシエ)
- ^ 多紀元胤『難経疏証』萬笈堂〈九大コレクション〉、1819年。doi:10.20730/100271636。hdl:2324/4705995。
- ^ [LEADERS]伝統の漢方 独自の技術革新…ツムラ社長 加藤照和氏 55『読売新聞』朝刊2019年3月5日(経済面)2019年4月24日閲覧。
- ^ 漢方の歴史日本東洋医学会ホームページ(2019年4月24日閲覧)。
- ^ 花輪寿彦 2003, p. 322.
- ^ 慶應義塾大学医学部漢方医学センター センターの概要、2020-01-22閲覧
- ^ Shang, Aijing; Huwiler, Karin; Nartey, Linda; Juni, Peter; Egger, Matthias (06 2007). “Placebo-controlled trials of Chinese herbal medicine and conventional medicine-comparative study”. International Journal of Epidemiology 36 (5): 1086-1092. doi:10.1093/ije/dym119. ISSN 0300-5771 2023年9月1日閲覧。.
- ^ “Chinese Herbal Medicine Passes FDA Phase II Clinical Trials”. ayback Machine. 2012-04-02 at the Wayback Machine閲覧。[リンク切れ]
- ^ a b c d 陳維華ほか原著、木村郁子ほか翻訳『薬対論』南山堂、2019年、2頁
- ^ a b 陳維華ほか原著、木村郁子ほか翻訳『薬対論』南山堂、2019年、3頁
- ^ a b 『現代商品大辞典 新商品版』 東洋経済新報社、1986年、396頁
- ^ セロトニン受容体拮抗作用とBDNF発現への関与を示唆
- ^ 白木公康「4 感冒に対する葛根湯の作用機序」『治療学』第40巻第4号、ライフサイエンス出版、2006年、413-416頁。 (要購読契約)
- ^ 漢方薬のトレーサビリティ確立に挑む、ツムラが対峙する中国産生薬の安全
- ^ 「漢方のエビデンス集積/日漢協 将来ビジョン策定」『日刊工業新聞』2018年7月26日(ヘルスケア面)2018年9月30日閲覧。
- ^ 日本医師会 1992, p. 30.
- ^ a b 日本医師会 1992, pp. 20–22.
- ^ 花輪寿彦 2003, p. 305.
- ^ a b 花輪寿彦 2003, p. 302.
- ^ 日本医師会 1992, pp. 20–31.
- ^ 大塚恭男 1996, p. 104.
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