消化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/30 09:14 UTC 版)
一般論
一般的な意味での消化は、生物が自分の栄養源となる体外の有機物を吸収するために、より低分子の状態に分解することである。動物や菌類は自分以外の生物やその遺体などの有機物を、外部から取り込んで生活している。しかし、それらを構成する有機物は、物理的に破砕したとしても、細胞膜を透過するには、分子として大き過ぎるものが多い。そこで、それらの物質をより低分子に分解しなければならない。
有機物は、しばしば加水分解を行える構造を分子内に持っており、そのような箇所を分解するための化学的消化を行うべく、生物はその分解を行うための酵素を分泌する。これを消化酵素と言う。また、加水分解が可能な箇所は中性から遠ざかると不安定になりがちであり、消化酵素の働きを助けるため、あるいはその働きやすい環境を作るために酸などを分泌する場合もある。また、一般的に分解したい有機物の表面積が広いほど消化酵素による作用を受けやすいために、元の材質が大きい塊であればそれを細片に分けることや、油脂系の物質を懸濁状態にすることなども消化酵素の働きを助けるので、それらの操作も消化の働きの一部である。
中には、自身には消化できないものを分解するために、微生物などを消化管内に共生させている動物もいる。この場合、その動物が吸収するのは微生物に分解させた物質であるが、同時に微生物が生合成した物質や微生物死骸も食料とされている[注釈 1]。
消化の過程を得て、炭水化物はグルコースなどの単糖に、タンパク質はアミノ酸に、脂肪は脂肪酸・グリセロール・モノアシルグリセロールへとそれぞれ分解される。これはどの動物においてもほぼ同じである[1]。
消化率向上による栄養状態向上を目的として、畜産動物の飼料に酵素のキシラナーゼ[2]などを配合することがある。
未消化物の吸収
消化管の上皮層にはバリア機能があるため分子量500程度までの物質を通すとされている[3]。しかし食物アレルギーの原因となる、主にタンパク質である未消化のアレルゲンの分子量は5,000から10万で、実際にはそうした分子量の多い物質も少量は吸収される[3]。正常なラットでFITC-デキストラン(FD-10、分子量9.4万)や卵白アレルゲンのリゾチーム(分子量1.4万)や卵白アルブミン(分子量4.5万)の少量は血中に移行している[3]。人間では、食べた卵の卵白アルブミンと牛乳のβ-ラクトグロブリン(分子量1.7万[4])の血中への移行について、健康な成人では卵白アルブミンが[5]、健康な子どもでは両方とも血中への移行が確認された[4]。
消化のための構造
一般に独立栄養生物である植物は光合成によってグルコースを作れるので、食物を必要としない。ただし植物であっても、窒素やリンなどは体外から取り入れる必要があるものの、これは最初から無機化合物の状態のものを吸収するので、消化の働きは持たない。ただ、食虫植物のように消化酵素を分泌する植物も存在する。また、藻類の中には、有機物を取り入れる能力を持つものもある。なお、従属栄養生物である細菌類、菌類、動物などは消化か、それに似た働きを持っている。
消化酵素が体外に分泌され、そこで分解された有機物を吸収する場合を体外消化と言う。これに対して、餌となる物体をまず体内の然るべき所に取り入れて、そこで消化を行うものを体内消化と言う。個々の細胞に関しても、細胞の外で分解する場合には細胞外消化、細胞内に取り入れてから消化するのを細胞内消化と言う。
体外消化の場合には、消化は特に決まった部分で行われるわけではない。これに対して、体内消化の場合、餌を取り込み、それを蓄え、分解吸収するための構造が存在する。これを消化器官と言う。動物一般では、体内に袋があり、体表に続く管によってつながっている。これを消化管と言い、一般には腸と呼ばれる。この腸(小腸)上皮の膜部分で行う消化は膜消化・表面消化(接触消化)と言う[1]。
いわゆる腔腸動物と扁形動物などを除けば、消化管の口は2つあって、取り入れる口と消化吸収した残りを排泄する口が分かれる。この、入り口の方を口、出口の方を肛門と言う。消化管には消化酵素やそれを助ける物質を分泌する器官が付随することが多い。それらは一般に消化腺と呼ばれる。口の周囲には餌の取り込みを助けるために触手や顎、歯などの摂食器官が付属することも多く、それらが機械的消化の一部を担っている場合もある。
単細胞生物や原生生物が体内消化する場合、細胞内消化であることも多い。細胞内消化の場合、細胞が粒子をエンドサイトーシスによって取り込み、細胞内の袋状の構造に入れ、その膜を通して消化酵素が分泌され、分解された物質は膜を通して吸収される。この袋状の構造を食胞と言う。同様の働きは、多細胞生物にも見られる場合があり、その場合にはその働きはリソソームが行う。
注釈
- ^ この説明だけでは微生物を住まわせている動物だけに利益があるように見えるかもしれない。しかし、微生物側から見た場合、消化管内は有機物が次々と流れてくる場所であり、しかも、例えば恒温動物であれば温度が一定範囲の保たれた場所であるなど、住家として利用しているという意味において共生なのである。
出典
- ^ a b c d e f g h 生化学辞典第2版、p.648 【消化】
- ^ Abelilla JJ, Stein HH (2019-01). “Degradation of dietary fiber in the stomach, small intestine, and large intestine of growing pigs fed corn- or wheat-based diets without or with microbial xylanase”. J Anim Sci 97 (1): 338–352. doi:10.1093/jas/sky403. PMC 6313383. PMID 30329141 .
- ^ a b c 横大路智治「食物アレルゲンの吸収機構の解明と食物アレルギーの発症に関する研究」『膜』第40巻第5号、2015年、 284-290頁、 doi:10.5360/membrane.40.284、 NAID 130005249025。
- ^ a b Husby S, Foged N, Høst A, Svehag SE (1987-09). “Passage of dietary antigens into the blood of children with coeliac disease. Quantification and size distribution of absorbed antigens”. Gut 28 (9): 1062–72. doi:10.1136/gut.28.9.1062. PMC 1433239. PMID 3678964 .
- ^ Husby S, Jensenius JC, Svehag SE (1985-07). “Passage of undegraded dietary antigen into the blood of healthy adults. Quantification, estimation of size distribution, and relation of uptake to levels of specific antibodies”. Scand J Immunol 22 (1): 83–92. doi:10.1111/j.1365-3083.1985.tb01862.x. PMID 4023632.
- ^ 山田和彦、炭水化物の消化・吸収・発酵とその利用 栄養学雑誌 2001年 59巻 4号 p.169-176, doi:10.5264/eiyogakuzashi.59.169
- ^ Bogart & Ort (2011)、p.102-105、5.腹部 大腸(結腸)
- ^ a b 佐藤・佐伯(2009)、p.134-136、第6章 消化と吸収 2.消化と吸収 5)大腸large intestineの構造と機能
- ^ 坂田隆、市川宏文、短鎖脂肪酸の生理活性 日本油化学会誌 1997年 46巻 10号 p.1205-1212, doi:10.5650/jos1996.46.1205
- ^ 永瀬治彦、セルロース攝取の人体腸内細菌ビタミンB_1合成に及ぼす影響 ビタミン 1953年 6巻 p.863-867, doi:10.20632/vso.6.0_863
- ^ 飯沼さち子、腸内細菌によるビタミンB_2の合成(第3報) ビタミン 1952年 5巻 p.96-102, doi:10.20632/vso.5.0_96
消化と同じ種類の言葉
品詞の分類
- >> 「消化」を含む用語の索引
- 消化のページへのリンク