消化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/13 15:23 UTC 版)
ヒトの消化
ヒト(多細胞レベル)の消化は、食物中の物質(タンパク質、炭水化物、脂肪など)を吸収可能な大きさの分子に分解する工程のことを指す。消化は消化管で数段階に分けて行われ、咀嚼や消化管の運動による物理的消化と、消化酵素、胃酸などによる化学的消化の2つがある。個人差や食物によって変わるが全体で24時間から48時間程度と言われる。
物理的消化
- 咀嚼(そしゃく)
- 食物を歯で噛み砕く事によって食物を細かくする。
- 蠕動(ぜんどう)運動
- 筋肉の収縮で波を作り、食物を運ぶ。
- 分節運動
- 筋肉の収縮によって消化液と食物を混ぜる。
化学的消化
- 唾液
- 唾液に含まれるアミラーゼによって、デンプンが、マルトースとデキストリンに分解される。米をかみ続けると甘く感じるのはマルトースの影響である。
- 胃液
- 胃液に含まれるペプシノーゲンが塩酸と反応してペプシンとなり、タンパク質をペプトンに分解する。
- 胆汁
- 胆汁は脂肪を乳化し、消化しやすくする。
- 膵液(すいえき)
- 膵液はアミラーゼ、トリプシン、ペプチターゼ、リパーゼなどの消化酵素を含み、三大栄養素全ての消化に関わる。アミラーゼがデキストリンを二糖類のマルトースに分解する。トリプシンがペプトンをトリペプチドやジペプチドやアミノ酸に分解し、ペプチターゼがポリペプチドをアミノ酸に分解する。リパーゼが脂肪をグリセリンと脂肪酸に分解する。なお、胃液に含まれる塩酸を中和し、むしろ腸内を弱塩基性にする作用もあり、膵液に含まれる消化酵素は、弱塩基性で作用を発揮しやすいようになっている。
- 腸液
- 炭水化物は膵液でマルトースまで分解され、最終的に小腸の上皮細胞に存在するマルターゼによって単糖類のグルコースに分解される。また、小腸の上皮細胞では、デンプンの分解産物の一部を分解するためのイソマルターゼ、ショ糖を分解するためのスクラーゼ、乳糖を分解するためのラクターゼ、トレハロースを分解するためのトレハラーゼなどの二糖類加水分解酵素により、単糖類のグルコース、フルクトース、ガラクトースなどにまで分解されて初めて腸管からの吸収が可能となる[6]。
- 大腸
- 大腸の主要な機能は食物の難消化性成分(いわゆる食物繊維)の腸内細菌による分解産物の吸収、水分および塩分の吸収である[7]。大腸が分泌する弱塩基性の大腸液には消化酵素が含まれず、これは粘液として大腸壁の保護や内容物の輸送を促す作用を担う[8]。その代わり、大腸内での物質の分解は腸内細菌が行う。つまり、小腸までで消化できなかった物を、腸内細菌に分解してもらうわけであり、これを発酵作用と呼ぶ。腸内細菌による分解を通じて物質を吸収可能な分子にまで変換させるのである。その過程で酪酸や酢酸などの有機酸や、メタンなどの気体が生じる。また、アミノ酸の分解においてインドールやスカトールなども生じ、これらが排泄物の臭いの一因となる[8]。
- 大腸の組織(大腸上皮細胞)の代謝には、腸内細菌による発酵作用で生成されて吸収された短鎖脂肪酸が主要なエネルギー源として直接利用され、さらに余剰部分が全身の組織のエネルギー源として利用される。ウマなどの草食動物ではこの大腸で生成された短鎖脂肪酸が主要なエネルギー源になっているが、ヒトでも低カロリーで食物繊維の豊富な食生活を送っている場合には、この大腸での発酵作用で生成された短鎖脂肪酸が重要なエネルギー源となっている[9]。また、腸内細菌の活動によって生成されるビタミンがあることも知られている[10][11]。
注釈
- ^ この説明だけでは微生物を住まわせている動物だけに利益があるように見えるかもしれない。しかし、微生物側から見た場合、消化管内は有機物が次々と流れてくる場所であり、しかも、例えば恒温動物であれば温度が一定範囲の保たれた場所であるなど、住家として利用しているという意味において共生なのである。
出典
- ^ a b c d e f g h 生化学辞典第2版、p.648 【消化】
- ^ Abelilla JJ, Stein HH (2019-01). “Degradation of dietary fiber in the stomach, small intestine, and large intestine of growing pigs fed corn- or wheat-based diets without or with microbial xylanase”. J Anim Sci 97 (1): 338–352. doi:10.1093/jas/sky403. PMC 6313383. PMID 30329141 .
- ^ a b c 横大路智治「食物アレルゲンの吸収機構の解明と食物アレルギーの発症に関する研究」『膜』第40巻第5号、2015年、284-290頁、doi:10.5360/membrane.40.284、NAID 130005249025。
- ^ a b Husby S, Foged N, Høst A, Svehag SE (1987-09). “Passage of dietary antigens into the blood of children with coeliac disease. Quantification and size distribution of absorbed antigens”. Gut 28 (9): 1062–72. doi:10.1136/gut.28.9.1062. PMC 1433239. PMID 3678964 .
- ^ Husby S, Jensenius JC, Svehag SE (1985-07). “Passage of undegraded dietary antigen into the blood of healthy adults. Quantification, estimation of size distribution, and relation of uptake to levels of specific antibodies”. Scand J Immunol 22 (1): 83–92. doi:10.1111/j.1365-3083.1985.tb01862.x. PMID 4023632.
- ^ 山田和彦、炭水化物の消化・吸収・発酵とその利用 栄養学雑誌 2001年 59巻 4号 p.169-176, doi:10.5264/eiyogakuzashi.59.169
- ^ Bogart & Ort (2011)、p.102-105、5.腹部 大腸(結腸)
- ^ a b 佐藤・佐伯(2009)、p.134-136、第6章 消化と吸収 2.消化と吸収 5)大腸large intestineの構造と機能
- ^ 坂田隆、市川宏文、短鎖脂肪酸の生理活性 日本油化学会誌 1997年 46巻 10号 p.1205-1212, doi:10.5650/jos1996.46.1205
- ^ 永瀬治彦、セルロース攝取の人体腸内細菌ビタミンB_1合成に及ぼす影響 ビタミン 1953年 6巻 p.863-867, doi:10.20632/vso.6.0_863
- ^ 飯沼さち子、腸内細菌によるビタミンB_2の合成(第3報) ビタミン 1952年 5巻 p.96-102, doi:10.20632/vso.5.0_96
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