老翁
★1a.老翁と若い女。
『落窪物語』巻1~2 落窪の姫君がひそかに道頼少将と結婚していたことを、継母が知る。継母は怒り、2人の仲を裂こうとたくらむ。継母は、「叔父にあたる60歳ほどの典薬の助に、姫君を犯させよう」と考える。冬の夜、典薬の助は、姫君が錠をさして閉じこもる部屋の戸を開けようと、押したり引いたりする。そのうち、寒さのために典薬の助は腹を冷やして下痢を起こし、あわてて退散する。
『今昔物語集』巻5-4 美女と交わり通力を失った一角仙人は、白髪で腰も曲がった姿ながら、彼女を背負ってよろぼい歩き人々に笑われる(*原話であるリシュヤ・シュリンガ仙の伝説では、仙人は老人ではなく、むしろ若い苦行者として描かれている)。
『住吉物語』 父中納言が姫君の幸福を願い、入内や、内大臣の息子との結婚などを計画するが、継母がこれを妨げる。継母は、70歳余の高齢で目がただれ歯がぬけた主計頭(*主計助とする伝本もある)に、「姫君を連れ出して、自分のものにしなさい」と勧める。姫君は、乳母子の侍従とともに屋敷から逃れ、住吉に身を隠す。
『セヴィラの理髪師』(ボーマルシェ) 老医師バルトローは、自分が後見する若い娘ロジーヌと無理やり結婚しようとする。
『瘋癲老人日記』(谷崎潤一郎) 77歳の卯木督助は、息子の嫁颯子に情欲を感じ、シャワーを浴びる颯子の足や頸に接吻したり、颯子の足型で仏足石を作り、それを自分の墓石にしたいと思ったりする。
『枕物狂』(狂言) 百歳余の老翁が若い娘の笑顔に引かれ、ふとももをつねって枕で打たれる。以来老翁は恋の思いで狂乱状態になり、それを知った孫たちが娘を連れて来て、老翁は娘に逢うことができた。
『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」 老チャヴァナ聖仙が、湖の近くで長期間の座禅苦行を続ける。そのため身体のまわりに蟻塚ができ、その上を葛が覆う。父王とともに園遊に来た王女スカニヤーが、好奇心から蟻塚の中のチャヴァナの目を茨の棘でつつく。怒ったチャヴァナは、代償にスカニヤーを妻として得ることを、王に要求する。スカニヤーは、老いたチャヴァナと結婚し、献身的に彼に仕える。
『万葉集』巻16 3813~3824歌 竹取りの翁が、春3月に丘に登り、あつものを煮る9人の乙女に出会う。翁は乙女らのために火を吹き、自らの青春の日々の有様を歌って、「乙女らもやがて白髪になるのだ」と説く。乙女たちは翁の歌に心動き、皆「翁に身を寄せましょう」と歌う。
*老芸人と若いバレリーナ→〔踊り〕7の『ライムライト』(チャップリン)。
★1b.老翁の霊と若い娘の霊。
『不死』(川端康成) 70歳過ぎの老人・新太郎と、10代の若い娘・みさ子が歩いている。かつて、みさ子は新太郎と別れねばならぬことに絶望し、18歳で海に身を投げたのだった。それから55年。みさ子は故郷へ帰り、新太郎と再会した。みさ子が大樹の幹の中をすうっと通り抜けると、続いて新太郎も通り抜けた。みさ子は「まあ。新太郎さんも死んでいるの?」と驚く。2人は大樹の幹の中に消えて、そのまま出て来なかった〔*→〔老婆〕1bと対照的な物語〕。
『神仙伝』巻7「西河少女」 西河地方を通る人が、若い女が老翁を鞭打つのを見た。聞くと、女は母で老翁はその息子だった。かつて女は多病だったが、70歳の時に仙薬を飲み、どんどん若返った。しかし息子は母から勧められても仙薬を飲まず、老いぼれてしまった。それで母が怒って折檻していたのだった。女は130歳、老翁は71歳だった。
★1d.この世に生き続けて老人になった夫と、いったん死んで生まれ変わったため若い妻。
『子不語』巻13-336 鄭禅宝の妻は肺病で亡くなる時、「幾世にも渡って、あなたと夫婦でありたいと願っております」と言い遺した。彼女が死んだ日、劉家に女児が生まれ、「私は鄭禅宝の妻です」と言ったので、両親は驚いた。彼女(=劉女)は14歳になった時、願いどおり鄭禅宝と結婚する。しかし鄭禅宝はその時すでに60歳の老人で、その上、後添えの妻がいた。劉女は嫁いで1年余、鬱々として楽しまず、縊死してしまった。
*死んだその日に、ただちに別人に生まれ変わる→〔同日・同月〕3cの『子不語』巻13-317、〔前世〕4eの『子不語』巻13-338、→〔転生〕5の『聊斎志異』巻6-240「餓鬼」・巻12-483「李檀斯」。
『史記』「留侯世家」第25 老人が履をわざと橋の下に落とし、通りかかりの張良に「履を拾え」と命ずる。言われるままに履を拾って老人にはかせると、老人は張良と再会を約し、10日後の早朝に、太公望呂尚の兵法書を張良に授ける。
『続玄怪録』3「定婚店」 縁談のため早朝に出かけた韋固が、寺の門前で冥府の老人に会う。夫婦となるべき男女の足を赤い縄でつなぐ役目を老人はしており、「今回の縁談はまとまらぬ。汝の妻になる女は今まだ3歳だ」と韋固に教える→〔運命〕1b。
『松浦宮物語』巻1 渡唐した弁少将は8月13夜に、高い山の楼で琴を弾く80歳ほどの老翁に会う。老翁は弁少将に、皇女華陽公主から琴の秘曲を習うように勧める。また「近く大乱が起こる」と予言し、自分の持つ琴を与える。
『故エルヴィシャム氏の物語』(H・G・ウェルズ) 70歳の哲学者エルヴィシャムが22歳の医学生イーデンに薬を飲ませ、互いの人格と肉体を入れ替える。イーデンは、自分が老人の身体の中に閉じ込められたことに絶望して自殺する。一方、若い肉体を得て青春を謳歌しようとしたエルヴィシャムも、辻馬車に轢かれて死ぬ。
*→〔憑依〕1の『屍鬼二十五話』(ソーマデーヴァ)第23話。
『棠陰比事』6「丙吉験子」 80歳過ぎの老翁が後妻に男児を生ませたが、先妻の娘が財産目当てに、「男児は老父の子ではない」と訴える。俗に「老人の子は寒がりで、陽にあたっても影が映らない」と言われるので、男児を一般の子供たちと比べると、果して寒がりで影ができず、老翁の実子であることが明らかになった〔*『和漢三才図会』巻第8・人倫親族「老人の子には影なし」に載る類話では、90歳の金持ち翁が、小作人の女を妾とする。1度交接しただけで翁は死に、生まれた男児は、やはり寒がりで影がなかった〕。
『封神演義』第89回 雪中の小川を、年配の兄はゆっくりと、年少の弟は走って渡った。両親の若い時の子である兄は骨髄が充実していて寒さを恐れぬが、両親が老衰してから生まれた弟は骨髄が乏しく、水の冷たさに堪えかねて走ったのだった。
『聊斎志異』巻2-75「巧娘」 郷紳の傅氏は60余歳になって男児廉をもうけたが、廉は子供のできぬ不具者だった→〔不能〕2a。
『風車小屋だより』(ドーデー)「コルニーユ親方の秘密」 村の周囲の丘に、いくつもの風車が回り、百姓たちが運んで来る麦を粉にひいていた。ところが製粉工場ができたため、風車小屋に仕事を頼む百姓はいなくなった。その中で、老いたコルニーユ親方の風車だけは、以前と同じように回っていた。しかし誇り高いコルニーユ親方が、ひいた麦と見せていたのは、壁土だった。
『老年』(芥川龍之介) 一中節の順講が催されている料理屋で、そこの隠居の部屋から、ひそひそと愛人に語りかける声が聞こえる。若い頃から芸事に達者で、女たちと浮名を流した隠居ゆえ、「年をとっても隅に置けぬ」と、廊下を通りかかった2人の男が部屋をのぞく。しかし中に女の姿はなく、隠居が独り言を言っていただけだった。
『野いちご』(ベルイマン) 78歳の医師イーサクは、名誉博士号を授与される日の朝、死の夢を見て目覚める。その日彼は、息子夫婦の不仲の話を聞き、96歳でなお元気な母親を訪れ、3人の青年男女や喧嘩する夫婦と知り合う。一方で彼は、若かった日々の回想や、夢の世界に入り込む。野いちごを摘む婚約者サーラは、弟に奪われた。亡妻カーリンは愛人を作り、密会した。授与式の間、彼は「今日のいろいろな出来事は、偶然に見えながら、何かのつながりがある」と考える。夜の夢で彼は再びサーラを見る。サーラは微笑みつつ、老いた彼に手をさしのべるのだった。
*老人と老猫→〔猫〕2の『ハリーとトント』(マザースキー)。
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