王
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)44「王様を欲しがる蛙」 蛙たちがゼウスに「王様を授けて下さい」と頼み、ゼウスは木ぎれを池に放りこむ。ドブンという水音に蛙たちは恐れるが、木ぎれが動かないのでこれを馬鹿にし、「別の王様に取り替えて欲しい」と願う。ゼウスは立腹して水蛇を遣わし、蛙たちは食われる。
『サムエル記』上・第7~10章 サムエルは預言者としてイスラエルの人々をさばき、ペリシテ人の侵攻を防いだ。サムエルが年老いたため、民は「我々に王を与えよ」と請うた。サムエルは、「王を立てれば、あなたがたはその奴隷になる」と説いたが、民はなおも王を求めたので、サムエルはサウルを王とした〔*サウルはまもなく神に見放され、後に戦死する〕。
『ペルシア人の手紙』(モンテスキュー)第11~14信 邪悪なトログロディト族が疫病で死滅した後、徳高い2家族が生き残り、利己主義を拝し、共通の利益を目指して勤労に励む。時が流れ、人口が増えたので、国王を選ぼうとトログロディトの人々は考え、1人の長老に王冠をゆだねようとする。長老は「あなたがたは徳義心を守るよりも、王の法律に従う安易な道を選ぶのか」と嘆く。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第2章 クロノスとレイアの子であるプルートン(=ハデス)・ポセイドン・ゼウスの3兄弟は、めいめいの支配する場所をくじ引きで決めた。その結果、ゼウスは天空、ポセイドンは海洋、プルートンは冥府の割り当てを得た。
『古事記』上巻 イザナキが両目と鼻を洗った時、3柱の貴い御子、アマテラス・ツクヨミ・スサノヲが生まれた。イザナキは、アマテラスに高天原、ツクヨミに夜の食国(ヲスクニ)、スサノヲに海原を治めるように命じた。しかしスサノヲだけは父イザナキの命令に従わず、根の堅州国に移り住んだ。
『王書』(フェルドウスィー)第1部第6章「フェリドゥーン王」 フェリドゥーン王は、3人の王子それぞれの性格を見きわめた後に(*→〔龍〕2a)、彼らの治めるべき国を決めた。長男サルムにはルーム(小アジア)とその西方を与えた。次男トゥールにはトルキスタンとシナを与えた。三男イーラジにはイランの国とその周辺を与え、さらに王剣・印璽・指輪・宝冠をも与えた〔*後にサルムとトゥールは嫉妬して、イーラジを殺した〕。
『日本書紀』巻11〔第16代〕仁徳天皇即位(A.D.313)前紀 応神天皇は、ウヂノワキイラツコを皇太子とした後、まもなく崩御された。しかしウヂノワキイラツコは即位せず、皇位を異母兄のオホサザキノミコトに譲ろうとした。オホサザキもこれを固辞し、2人が譲り合って、皇位が空白のまま3年が経過した。ウヂノワキイラツコは「私が生きていては天下の煩いになる」と言い、自殺した〔*『古事記』中巻に類話。ただし「3年」という年数は記されない。また、ウヂノワキイラツコは早く世を去った、とするのみで、「自殺」とは記されない〕。
『平家物語』巻8「名虎」 寿永2年(1183)8月20日、後白河法皇の宣命により(*→〔膝〕1b)、京の閑院殿において、故高倉天皇(80代)の四の宮が4歳で即位し、後鳥羽天皇(82代)となった〔*この時、平家は6歳の安徳天皇(81代)と三種の神器を擁して、九州にあった。四の宮は、三種の神器なしで即位したのである〕。古書には「天に2つの日なし。国に2人の王なし」と言うが、平家の悪行ゆえに、京と田舎に、2人の王が並び立つこととなった。
『神曲』(ダンテ)「煉獄篇」第16歌 「私(ダンテ)」は煉獄の第3の環道で、ロンバルディアのマルコに出会った。マルコは言った。「ローマが世界を立派に統治していた頃は、2つの太陽(=皇帝と法王)が輝き、現世の道と神の道を照らしていた。だが、一方の光がもう一方の光を消し、剣と杖が1本に合体した。ローマ教会は世俗と宗教の2権力を掌中に握ろうとしたから、泥沼に落ちてしまったのだ」。
『ギリシア奇談集』(アイリアノス)巻7-1 アッシリア王が、美女セミラミスの噂を聞いて召し寄せ、たちまち心を奪われる。セミラミスは、王の衣裳をたまわること・5日間アジアを支配すること・自分の命令に万民が従うことを願い、許しを得る。彼女は玉座にすわると、親衛隊に王の殺害を命じ、王権を手にした。
『文字禍』(中島敦) アッシリアのアシュル・バニ・アパル王が重病にかかった時、侍医のアラッド・ナナは、王の衣裳を借り、それを着て王に扮した。死神エレシュキガルの眼を欺き、病気を王から自分の身に転じようとしてのことだった。
*→〔入れ替わり〕2aの『王子と乞食』(トゥエイン)・2bの『絵姿女房』(昔話)。
*逆に、王が、王衣を別の着物に着替える→〔犠牲〕5の『ゲスタ・ロマノルム』41。
『閻魔はハチゴロどん』(昔話) 博労(ばくろ)のハチゴロどんが、死んで冥土へ行く。ハチゴロどんは「うまいもんを持ってきやした」と言って、炒った「こうしゅう」の粉をいっぱい、閻魔の口へ入れる。閻魔は目も口も開けられず、冠や衣を脱ぎ捨てて、下の川へ顔を洗いに行く。ハチゴロどんは冠と衣をつけて、閻魔になり代わった。それ以来、今村のもんが死ぬと、どんな悪いやつでも、ハチゴロどんが極楽へやって下さるそうだ〔*本物の閻魔はハチゴロどんと見なされ、鬼によって地獄の釜の中へ投げ込まれた〕(熊本県天草郡河浦町今村)。
★4.王と海賊。
『ゲスタ・ロマノルム』146 海賊ディオメデスは、たった1艘のガレー船に乗り、海上で人々を略奪した。アレキサンダー大王が彼を捕らえ、「なぜ海賊をするのか」と尋ねた。ディオメデスは、「おれは1艘のガレー船でやるから、海賊と呼ばれる。お前は無数の船で世界を制圧するから、大王と言われる。おれは運が向けば、品行を改めるだろう。だがお前は、運が良くなればなるほど、悪行をなす」と答えた。大王は海賊を金持ちにしてやり、海賊は大王の守護者となった。
*1人殺せば殺人犯だが、戦争で百万人殺せば英雄だ→〔妻殺し〕2aの『殺人狂時代』(チャップリン)。
★5.王殺し。
『金枝篇』(初版)第1章第3節 南太平洋の珊瑚島であるニウエ島(別名サヴェッジ島)では、かつて1つの家系が歴代の王として支配していた。王は祭司長でもあり、農作物を育てる者と考えられていたので、食糧難になると、人々は怒って王を殺した。次々に王が殺されてゆくため、王となる者がいなくなり、君主制は終わってしまった。
『金枝篇』(初版)第3章第1節 人間神ともいうべき王や祭司は、常に強健な肉体と魂を持たねばならない(*→〔死因〕8)。彼が衰弱すれば世界も衰弱するので、彼は強健でいるうちに、その地位を後継者に渡すべきである。コンゴの人々は、大祭司が病気や老齢で自然死することになれば、大祭司の力で維持されていた世界も同時に滅ぶ、と信じていた。したがって大祭司に衰えが見られたら、後継者は縄か棍棒を持って大祭司の家に入り、絞め殺すか殴り殺した。ズールー族には、王の顔に皺がより、頭に白髪が生えたら、直ちに殺すという慣わしがあったらしい(*王が自死することもある→〔自傷行為〕9)。
★6.王の前世。
『酉陽雑俎』続集巻4-966 梁の武帝が、思わぬ手違いによって、高徳の法師を殺した(*→〔碁〕3b)。法師は死に臨んで言った。「私は前生に沙弥であった時、誤って鋤で蚓(みみず)を1匹殺した。その蚓の後身が武帝である。前生の行為の報いを、今、私は受けるのだ」〔*『太平記』巻2「三人の僧徒関東下向の事」や『曽我物語』巻2「奈良の勤操僧正の事」の類話では、天竺の大王(前世は蛙)が、僧(前世は農夫)を殺す。かつて農夫は田を耕す時に、鋤で蛙の首を切ってしまった。その報いである〕。
★7.亡命する王。
『ニューヨークの王様』(チャップリン) ヨーロッパの小国エストロヴィアに革命が起こり、初老のシャドフ王はアメリカへ亡命した。無一文の王は、美人アナウンサー・アンの勧めでテレビCMに出演し、金を稼いで人気者になる。しかし王はアメリカの商業主義になじめず、映画も音楽も刺激が強すぎた。共産党員と疑われ、マッカーシーの非米活動委員会に喚問されて、アメリカが必ずしも自由の国ではないこともわかった。王は「私がもう20歳若かったら」とアンに別れの言葉を述べ、パリにいる王妃のもとへ向かった。
*裸なのに、衣裳を着ていると思い込む王→〔裸〕4の『はだかの王様(皇帝の新しい着物)』(アンデルセン)。
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