事故・災害廃車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 01:34 UTC 版)
事故・自然災害・テロ行為等により損傷し廃車となることもある。JR福知山線脱線事故に被災したJR西日本207系電車Z16編成や信楽高原鐵道列車衝突事故で被災したJR西日本キハ58系1023・信楽高原鐵道SKR200形気動車2両、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)による大津波で被災したJR東日本E721系電車P1・P19編成および205系電車M-9編成、2002年9月26日の名鉄名古屋本線踏切事故で被災した名鉄1000系、2010年1月29日の函館本線踏切事故で被災した789系HL-1005編成、2019年9月5日に京浜急行本線神奈川新町第1踏切衝突事故 で被災した京急新1000形1137編成に見られるような原形を留めない場合や、そうでなくても修理費用が新製とほとんど変わらなくなったり(東北地方太平洋沖地震による大津波で冠水した三陸鉄道36-100形気動車104・203・205の例など)、あるいは当該車を修理して営業運転に復帰させるよりも、新製するほうが費用が安い場合(令和元年東日本台風〈台風19号〉による千曲川決壊で冠水し120両が廃車となった北陸新幹線、海外ではスマトラ島沖地震、大邱地下鉄放火事件、ロンドン同時爆破事件、マドリード列車爆破テロ事件の例など)が典型例である。 しかしながら、鉄道車両の場合は台枠と呼ばれる部位について、歪んだり変形したりした場合その修復は極めて難しく、新潟県中越地震で脱線した新幹線200系電車K25編成など修復可能のように見える車両であっても実際には修理不能として事故廃車(K25編成は修理不可というよりも脱線の状況の研究のために廃車となった)となったり、昭和57年台風第10号による集中豪雨で王寺駅構内での100両もの大量冠水事故が発生した際は、同様の被害を受けたにもかかわらず車齢の差もあって101系電車60両が廃車となったのに対し、113系電車40両は修復を受けて復旧している。また、車体のダメージがなかったり修理可能であったとしても、事故地点の地形的な問題から車体の搬出が困難であったり、被災路線の迅速な復旧作業に支障が出ると判断された場合、または人命救助が優先される場合、現地で解体されることもある(大村線の踏切事故で被災したキハ200-1011や、芸備線の土砂崩れにより横転したキハ120-358、東日本大震災で被災したキハ100-30・38、阪神・淡路大震災で被災し41両が廃車となった阪神電車の例など)。 日本一短命の鉄道車両は、わたらせ渓谷鐵道わ89-100形わ89-102号車で、実働期間は1989年3月29日から同年5月14日までの約1ヶ月半だった。 損傷が激しい事故廃車の場合、基本的に現地で解体されることとなるが、警察や検察、裁判所から証拠物件の保持命令が出された場合はそれが解かれるまで、除籍は一切できない。そのため、2005年4月に発生した鉄道事故である福知山線脱線事故の207系S18編成は、2011年に返還されるまで留置され続けた。三鷹事件の際の先頭車であった国鉄63系電車モハ63019の場合、裁判の資料として事件後十数年間に渡って留置され続けた(その結果、モハ63形が実際には消滅したかのように見えていたが、長年1両だけ残存していた)。 事故で廃車になった分は補填をしなければならないため、事故廃車となった車両が古い場合、あるいは既に製造停止になっていた場合は他形式の車両を回す(最新型の車両を追加で新造投入)か、編成替えや運用の変更で代替車両をまかなうこととなる。まだ新しかった場合には事故廃車となった車両と同じ形式の車両を新造する。これを代替新造と呼ぶ。ただし、事故車が廃車対象車であったり、残った車両が編成両数の半分未満である(6両編成の場合は3両未満、7両編成の場合は4両未満)場合、また相鉄3000系電車(2代目)のように1形式1編成などの異端形式であった場合、残った車両も一緒に廃車となることもある。また、京王8000系電車の場合、事故廃車になった先頭車の代わりに新造の費用が比較的安い中間車を製造し、編成替えを行って先頭車を捻出して事故車の2代目とした。前述の851系は1編成しかないにもかかわらず部品確保用の車両を使用して復帰することや名鉄1380系電車のように修理改造までして残すのはかなりまれな例である。事故車が廃車対象車の場合は代替車が既に発注済みの場合もあり、その場合は追加で投入せずに発注済みの分だけでまかなわれることもある(南海7100系7185Fがその例)。代替車両の補填が困難な場合は運転本数や編成両数の削減、系統分割などダイヤの見直しを行なう場合もある。ただし、新しく残った車両が編成両数の半分以上でも前述のE233系電車1000番台サイ177編成や京急新1000形1137編成のように全車廃車となるケースも存在する。 鉄道車両には1両毎に番号が付いている。代替新造された車両には、事故廃車となった車両の番号と同じものを付けて新造する鉄道事業者もあるが、廃車車両と番号を区別する必要がある、事務上の処理において障害になる、あるいは縁起が悪いなどの理由から新しい番号を付番して、事故廃車となった車両の番号は欠番とする鉄道事業者もある。例えば、営団地下鉄(当時)で営団5000系電車5818・5252号が荒川鉄橋上で竜巻に巻き込まれて脱線した際、同じ番号で5000系電車を製造し直し、JR東海でN700系X59編成1号車783-2059が新横浜 - 小田原間を走行中に焼身自殺を図っての放火に遭った際、同じ番号で1号車を製造し直したが、阪神電気鉄道では、阪神・淡路大震災で被災した阪神8000系電車の代替新造車に8236→8536のように、元の番号に+300を付番している。JR九州で長崎線特急列車脱線転覆事故で被災した885系の代替新造車は元の番号に+400を付番している。また国鉄(当時)内房線で183系が踏切事故に遭遇し先頭のクハ183-17が大破、廃車されたが代替新造車は続番のクハ183-39で新造されている。JR東海でも高山本線でキハ85系が落石に衝突し先頭のキハ85-107が大破、廃車されたが代替新造車は続番のキハ85-119で新造されている。 代替新造ではないが、大阪市交通局(現・大阪市高速電気軌道)ニュートラム南港ポートタウン線用の200系の場合、100系13編成が暴走事故を起こし大破・廃車されたことからか、欠番にしている。 また、車体全体あるいは車両そのものを製造し直し修理復旧扱いで再度営業運行に投入する例もある(大月駅列車衝突事故で大破したJR東日本E351系S3編成や2008年の脱線事故(踏切障害に伴う)で大破したJR東日本E233系青661編成など。これらの場合は事故車の部品を流用することが多い。通常は同じ番号で製造し直されるが、JR東海で乗用車と衝突し大破した313系の代替新造車は修理復旧扱いではあるものの元の番号に+100を付番している)。極端な例としては東武鉄道があり、基本的に事故車は修理する方針のため8000系など踏切事故で過去に大破した車両があるにもかかわらず、生産から30年以上経った2004年まで廃車は1両もなかった。8000系は車体と機器の大半を再度製作した上で新造に限りなく近い形で復旧させた。同社で事故廃車扱いにされた車両は踏切事故に遭遇した7800系の7808Fおよび電気系統の火災に遭った5070系の5174F、8134F/8523Fのみであり、かつて2000系が営団地下鉄日比谷線内で電気系統のトラブルで火災が発生し、全焼した時や、営団日比谷線脱線衝突事故で東武20000系電車が営団03系電車と衝突、大破した時も同番号での修理復旧となっていた(営団03系は廃車)。また、事故廃車となった7800系にしても、その台車や機器類は修理して保管され、のちの7800系の5000系列への更新の際に利用されている。 連接車やユニットモーター車など構造的に複数両数で1セットとなる車両においては、製造中止になっている場合、その中の1両でも廃車になると残った車両はそのままでは使えず、代替新造もできないということで再利用不可能となり、廃車される場合もある。ユニットモーター車の場合は電装解除して付随車(もしくは運転台を取付て制御車)となることもある(クハ111-1201など)。 車両の損傷ではなく機器類の故障だけでも廃車されたケースもある(連結器のショートによる電源故障でオーバーランした名鉄1850系電車の1853編成や落雷による制御器故障で走行不可能となった近江鉄道800系電車の801編成がその例)。 事故から復旧しても、加速やブレーキ作動時の挙動に特有の癖が出る、あるいは故障が多発するなど不具合が残る場合もある。そういった場合、モーターを載せ換えるなどの修理を行うが、修理工程が新製に近いものになる、もしくは縁起が悪い、取り扱いが他の車両と異なるなどの理由で乗務員や検修員から極端に嫌われると、廃車処分される場合もある。例として、JR西日本所有の電気機関車EF66形55号機が、1992年に山陽本線で線路内に転落したトレーラーに衝突して大破、のちに修理され運用に復帰したが、蛇行動など不具合の頻発により、乗務員から敬遠され、他の車両より早く廃車されたケースがある。DD54形2号機も急行「おき」機関車脱線転覆事故で脱線転覆、のちに現役復帰したが、液漏れの多発のため廃車となり、DD54形1号機が1966年に落成したばかりであるにもかかわらず、DD54形は12年後の1978年に全廃となった。 また、自然災害で車両自体は無傷でも、走行する路線が災害によって全面運休になり、経営基盤が貧弱な鉄道会社においては、膨大な復旧費用を捻出することができずに、廃線となった結果、車両が廃車になる場合もある(高千穂鉄道など)。
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