事故機の飛行特性と操縦
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 06:45 UTC 版)
「ユナイテッド航空232便不時着事故」の記事における「事故機の飛行特性と操縦」の解説
一定速度で水平飛行しているとき、飛行機に働く力はすべて釣り合っている。前後方向では推力と抗力が、上下方向では揚力と重力がそれぞれ釣り合う。直進していれば、左右には力がかからない。基本的に操縦とは、操縦翼面を動かして機体の姿勢を変え、釣り合いの状態を変えることで、意図した飛行経路を実現することである。この際には、姿勢に応じた推力操作も必要となる。また、飛行中の飛行機は、風などの擾乱を受ける。これに対して姿勢や速度を修正するためにも、操縦翼面は用いられる。 DC-10型機は、すべての操縦翼面を油圧で動かす設計であった。油圧を失った事故機は、あらゆる操縦翼面を操作できなくなったうえ、各舵面は必ずしも中立位置で固定されていなかった。異常発生後、事故機は右旋回で降下し始めた。パイロットは、左右エンジンの推力を非対称とすることで、機体の釣り合いをとった。 事故機は一応の釣り合いを保ったが、平衡状態の近傍で振動的な運動をしていた。上昇と下降は推力の増減により行われたが、変更できるのはあくまで平均的な経路であった。なぜなら事故機ではフゴイド運動と呼ばれる減衰しにくい振動が発生していたためである。フゴイド運動は、上昇と下降を繰り返す振動であり、1分程度の長い周期を持ち長周期モードとも呼ばれる。正常な飛行機であれば、操縦翼面により迎角(主翼と気流のなす角)を制御することで抑制できるが、油圧を失った事故機では、推力の微調整でフゴイド運動を抑える必要があった。 旋回の制御は、左右エンジン推力を非対称にすることで実現した。推力を非対称にすると、主翼の揚力が左右非対称になり、ロール運動を発生させられる。しかし、これも推力を変化させるため、その都度フゴイド運動が発生する。さらに、推力を左右非対称にするとダッチロールと呼ばれる振動も発生する。推力は操作しても実際に変化するまでに遅れがある。事故機は、推力操作から経路変化が現れるまでに20 - 40秒を要した。事故機を操縦するためには、さまざまな乱れの中で間隙を縫うように経路を定め、着地の20 - 40秒前に必要な推力変化を予想しなければならなかった。 正常な着陸時には、高揚力装置を展開し、昇降舵で迎角を増大させて飛行速度を落とす。DC-10型機の通常の着陸速度は、140 - 150ノット(時速約259 - 278キロ)であるが、迎角を変える手段を失った事故機は機首上げができず、平均215ノット(時速約398キロ)で着陸した。前述のように、機長は、早い段階でこのような着陸を想定し、高揚力装置を使用しない着陸データを航空機関士に求めていた。
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