シャンポリオンによるブレークスルー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/13 16:03 UTC 版)
「古代エジプト文字の解読」の記事における「シャンポリオンによるブレークスルー」の解説
ジャン=フランソワ・シャンポリオンは、1803年から1805年の間の青年期に古代エジプトに魅了され、ド・サシなどのもとでコプト語含む近東言語を学んだ。兄のJacques Joseph Champollion-FigeacはパリのAcadémie des Inscriptions et Belles-Lettresの長Bon-Joseph Dacierの助手であり、その地位からジャン=フランソワへエジプトに関する研究を続ける手段を提供した。ヤングがヒエログリフに取り組むまでに、古代エジプトに関して確立された知識の大要を発表しコプト語の辞書を組み立てていた。しかし、解読されていない文字について多くのことを著したものの進展はなかった。だが1820年代初頭、前進するのを急いだ。彼がどのようにしたかの詳細は、現代的な説明における証拠や矛盾のために完全には知られていない。 シャンポリオンは当初、ヤングのヒエログリフとデモティックの単語のリストからの抜粋のみを見て、ヤングの研究を否定していた。1821年半ばにグルノーブルからパリに移ったのち、完全な複写をよく入手できたはずであるが、そうしたかどうかは不明である。このころ、カルトゥーシュ内の表音文字の音を特定するのに注力した。 重要な手がかりは、ギリシア語とエジプト文字の両方が刻まれたオベリスクであるフィラエ・オベリスクによる。イギリスの遺物収集家William John Bankesは、エジプトからイギリスへオベリスクを運び、その碑文を複写した。これらの複写はBankesが想定したようなロゼッタストーンのような1つの2か国語の文ではなかったが、両方の碑文にプトレマイオスとクレオパトラの文字が含まれ、ヒエログリフのものではカルトゥーシュで囲まれていた。Bankesはプトレマイオスのカルトゥーシュはロゼッタストーンに基づいて特定することができたが、ギリシア語の文に基づき2番目のものがクレオパトラの名前を表していることを推測することしかできなかった。彼はこの文を複写したもので、鉛筆でカルトゥーシュのこの読みを示唆した。この複写を1822年1月に見たシャンポリオンは、このカルトゥーシュをクレオパトラのものとして扱ったが、どのようにそれを特定したかについては述べなかった。彼が使えた証拠を考えると、複数の方法でこのようにできたであろうが。Bankesは、シャンポリオンが自身の功績を認めることなく提案を受け入れたと考え憤慨し、これ以上の援助を与えることを拒否した。 シャンポリオンは、ヤングと異なる方法でプトレマイオスの名前のヒエログリフを分解し、推測した3つの表音文字p, l, oがクレオパトラのカルトゥーシュに適合していることを発見した。4番目の音であるeはクレオパトラのカルトゥーシュで1つのヒエログリフで表され、プトレマイオスのカルトゥーシュでは同じ文字を2つ重ねて表されていた。しかし、シャンポリオンはこれらの文字は同音であり、同じ音を綴る異なる記号に間違いないと判断した。彼はこれらの文字を他のカルトゥーシュで試し、ギリシアとローマのエジプト支配者の多くの名前を特定し、さらに多くの文字の音価を推定した。 シャンポリオンによるプトレマイオスのカルトゥーシュの分析 ヒエログリフ シャンポリオンの読み P T O L M E S シャンポリオンによるクレオパトラのカルトゥーシュの分析 ヒエログリフ シャンポリオンの読み K L E O P A T R 女性行末 7月、ジャン=バティスト・ビオによるデンデラの黄道帯(英語版)として知られるエジプトの神殿のレリーフを囲む文に関する分析に反論した。彼はこうすることで、この文中の星のヒエログリフが近くの言葉は星座などの星に関連するものであることを指し示しているように見えることを指摘した。彼はこの方法で使われる符号を"signs of the type"と呼んだが後に「限定符」という名前にしている。 ラムセス ヒエログリフで表示 トトメス ヒエログリフで表示 シャンポリオンの甥Aimé Champollion-Figeacによる関連する物語によると、1822年9月14日、シャンポリオンはエジプトの碑文のJean-Nicolas Huyotにより描かれた複写を調べたのちに別の発見をした。アブ・シンベルからのカルトゥーシュの1つに4つのヒエログリフ文字が含まれていた。ヤングのブリタニカの記事で見つけた同じ推論に基づき、円形の最初の記号が太陽を表していると推測した。「太陽」を表すコプト語の単語はreであった。カルトゥーシュの端に2度書かれる記号は、プトレマイオスのカルトゥーシュでは"s"を表している。カルトゥーシュの名前がReで始まりssで終わる場合、ラムセス(Ramesses)と一致する可能性があり、マネトの著作に記録された数人の王の名前は、中央の記号がmを表すことを示唆していた。さらにロゼッタストーンからmとsを表す文字がギリシア語で「誕生」を意味する単語に対応する点で一緒に現れていることが確認され、コプト語で「誕生」を意味する単語はmiseであった。他のカルトゥーシュは3つの文字を含み、そのうち2つはラムセスのカルトゥーシュの中の文字と同じであった。最初の文字であるトキはトート神の象徴として知られていた。後者の2つの文字がラムセスのカルトゥーシュの中の文字と同じ音価である場合、2番目のカルトゥーシュの中の名前はThothmesとなり、マネトにより言及された王の名前である"Tuthmosis"(トトメス)に対応する。これらはギリシアが統治する以前のエジプトの王であり、名前の書き方は部分的に表音的であった。ここでシャンポリオンはロゼッタストーンの長いカルトゥーシュに見られるプトレマイオスの称号に目を向けた。シャンポリオンはギリシャ語のテキストを翻訳するコプト語を知っており、pやtなどの表音のヒエログリフがこれらの単語と適合することが分かった。シャンポリオンはここからいくつかの文字からさらなる表音的意味を推測することができた。甥の説明によると、これらの発見をするときシャンポリオンはAcadémie des Inscriptionsにある兄弟の仕事場に押しかけ、写した碑文を集めたものを投げつけ"Je tiens mon affaire!"(「できた!」)と叫び1日もの間気絶して倒れたという。 シャンポリオンは。1822年9月22日に完成させたLettre à M. Dacierの中でギリシャローマのカルトゥーシュについて提案した読み方を発表した。これを9月27日にアカデミーで読み、聴衆にはヤングがいた。このレターは、エジプト学の創設した文書と見なされることが多いが、ヤングの研究に対してそこそこの進歩を示したに過ぎなかった。シャンポリオンがラムセスとトトメスのカルトゥーシュについて発見したことについては何も言及されていないが、エジプトの遠い過去に表音記号が使用された可能性があることは細かな説明なしに提案されていた。シャンポリオンは早まって結果を発表することを警戒していたのかもしれない。 その後数か月にわたり、シャンポリオンは彼のヒエログリフのアルファベットを多くのエジプトの碑文に適用し、何十もの王の名前と称号を特定した。この間にシャンポリオンと東洋学者のAntoine-Jean Saint-Martinはヒエログリフのカルトゥーシュとペルシア楔形文字のテキストを含むCaylus vaseを調査した。Saint-Martinは楔形文字のテキストには紀元前5世紀のアケメネス朝の王であり、その領域にエジプトが含まれていたクセルクセス1世の名前を含んでいると考えていた。シャンポリオンはカルトゥーシュの特定可能な文字がクセルクセスの名前と一致していることを確認し、エジプトがギリシアに統治される前に表音のヒエログリフが使われたという証拠を補強し、Saint-Martinによる楔形文字の読みを支持した。これは楔形文字の解読における大きなステップであった。 このころ、シャンポリオンは2度目のブレークスルーを起こした。彼は約860個のヒエログリフを数えたが、それらのうちの一握りで与えられたテキストの大部分を構成していた。アベル=レミュザによる新たな中国語の研究に出会った。この研究は中国語の筆記においても表音文字を広範囲に使用し、表意文字を組み合わせて多くの合字にし完全な語彙を形成することが示された。ヒエログリフの中には合字と思われるものはほとんどなかった。シャンポリオンは表意文字のように見える文字の隣にカルトゥーシュなしのヒエログリフで書かれた、王でないローマ人のアンティノウスの名前を特定した。したがって、表音文字はカルトゥーシュに限定されなかった。シャンポリオンはこの疑念を確かめるために、同じ内容を含むと思われるヒエログリフのテキストを比較し、綴りの不一致を指摘した。これは同音文字の存在を示していた。結果として得られた同音文字のリストをカルトゥーシュに関する研究からの表音文字の表と比較し、それらが一致することを発見した。 シャンポリオンは1823年4月にこれらの発見をAcadémie des Inscriptionsに発表した。そこから急速に新たな文字や単語の発見に取り組んだ。表音記号は母音がたまにしか書かれない子音アルファベットを構成するという結論を出した。1824年にPrécis du système hiéroglyphiqueで発表された研究結果の要約では次のように述べられている。「ヒエログリフの書記体系は複雑なシステムであり、一度に同じテキスト同じ文章で比喩的、記号的、表音的な文字であり、まったく同じ単語を使っているかもしれない」。Précisでは何百ものヒエログリフを特定し、ヒエログリフと他の文字の違いを記述し、固有名詞とカルトゥーシュの使用を分析し、言語の文法の一部を説明した。シャンポリオンは文の解読から根底にある言語の翻訳に進んでいた。
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