クローズドドアシステム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/12 09:14 UTC 版)
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クローズドドアシステム(クローズド・ドア制)は、バスで途中停留所の利用条件を乗車もしくは降車のみに制限する制度。乗車降車専用方式ともいう[1]。また、鉄道においても主にホームライナーにおいて同様の形態がみられる。
概要
クローズドドアシステムは、日本で戦後にバス路線の共同運行が普及する際に定着した制度である[1]。
日本においては、1948年8月23日、京都市(京都市交通局)が民営3社(京阪自動車・京都バス・丹波交通)と相互乗り入れに関して、各社と運輸協定の締結したことにはじまった[2]。ここでは取扱旅客について「会社は乗入れ路線各区間においては、当該区間のみの利用乗車する旅客を、原則として取扱わない」と定めた[2][3]。一方、市域内の交通はすべて市営において経営することを基本原則とする市営主義を表明した大阪市でも、京阪間を直通する路線バスを計画する京阪自動車・阪急バスをはじめ、阪神間を結ぶ阪神電鉄バス、枚岡・国分以遠を直通する近畿日本鉄道(近鉄バス)、泉大津以遠を直通する南海電鉄バスとの民営4社との間で、民営各社の系統にあっては「運輸協定区間内停留所の相互発着旅客は取扱わないものとする」とする運輸協定を1957年に締結した[4][2]。特に大阪市と民営4社との間で締結されたこのシステムについて、1952年9月19日に運輸省は『クローズド・ドア制[5][6]』という語句を用いて、裁定案を提案していた[7]。
現代においては、特に都市部と空港や港(フェリー発着所)を結ぶ空港連絡(リムジン)バス・フェリー連絡バスでは大半の路線・系統でこの方式を採用している。
高速バス路線では、1982年(昭和57年)以降に新設された路線でクローズドドアシステムが確立され、高速バス路線が拡大する源泉となった。このシステムは祭りやイベントが開催された場合に運行される、会場と駅や駐車場を結ぶシャトルバスなどでも採用されている。
システムの形態
クローズドドアシステム採用路線では路線形態によって以下のような扱いとなっている
1. 路線バス
- 自事業者エリアから他事業者エリアに乗り入れる際は、他社エリアでは降車、他事業者エリアから自事業者エリアに乗り入れる際は、他事業者エリアでは乗車のみ取扱する方法と、他事業者の路線が自事業者エリア内では乗降とも取り扱う代わりに自事業者エリア内で他事業者の停留所設置数を制限させる方法とがあり、また地域や事業者によってはその両方を組み合わせる場合もある。なお、自事業者エリア内に複数の他事業者が乗り入れる場合は、その一部事業者および一部路線のみをクローズドドアシステムにしていることもある。また、同一の区間であっても、事業者および系統により、クローズドドアシステムの内容が異なる場合もある。
- 終点の一つ手前の停留所(駅行きにおける駅入口停留所など)は降車専用としている路線は各地で見られる。
2. 高速バス・都市間バス
- 起点地周辺エリアで乗車のみ、終着地周辺エリアで降車のみの制限が取られる方法が一般的である。
3. 空港連絡バス・フェリー連絡バス
- 行先が空港・港の場合は途中停留所は乗車のみ、始発が空港・港の場合は途中停留所は降車のみ取扱する。
以下に述べるように、バス事業者にはメリットの方が大きいが、利用者側にとってはデメリットの方が大きく、一部バス路線では、クローズドドアシステムによる弊害も生じている。
長所
- 短距離利用客によって満席になってしまい、本来の目的である長距離利用客が乗れなくなるという事態が避けられる。
- 事業者間でのテリトリー侵害を一定の割合で回避することができ、事業者間での軋轢が少なくなる。
- 高速バスやシャトルバスでは、近距離利用を制限できるため、静粛が保たれやすく、一般路線バスへの影響も最小限にできる。
- 短距離利用が減るため、釣銭・釣札を多く備える必要が無く、帰庫後の運賃精算もスムーズに行いやすい。
- 高速バスでは、拠点間の運賃設定で済むため、共同運行におけるプール精算制といった方法で、運行事業者間の収入分配が公平、簡便になる。
- 降車のみの扱いとなる停留所では時間調整が行われないため、これらの停留所や終点には到着時刻より早着することがある。乗車のみの扱いとなる停留所及び乗降車共に可能な停留所は、旅客自動車運送事業運輸規則第12条で「所定の発車時刻より前に発車させること」が禁止されているため、停留所に早着した場合は時間調整が行われる。
短所
- 短距離路線のクローズドドア区間では、前述のように乗車もしくは降車に制限されるか、あるいは乗降ともに扱う代わりに停留所の設置数が制限されるため、バスが低乗車率のまま運行するケースが生じやすい。
- 高速バスでは利用が拠点間に限定されるため、中間地での利用ができない。特に途中地点に立ち寄らない拠点間直行の高速バスでは、目的地が運行区間の中間でかつ路線設定がない場合、乗り換えが必然となる。途中区間からの需要に応えるには不利となる。
- クローズドドアシステムの欠点を補うため、拠点間直行路線をマルチに設定することがあり、これにより供給過多(採算性低下)に陥ることがある。
- クローズドドアシステムを採用している路線で、当該路線がそのシステムになっている事を知らない乗客が、誤って乗ってしまいトラブルとなる事がしばしある。
日本での事例
主な実施事例
京阪バスでは、2019年より2020年まで運行していた、洛南営業所が管轄していた308号経路「西本願寺清水寺ライン」(京都駅八条口 - 西本願寺間の運行。半循環の形態で運行)が、新設時より、このクローズドドアシステムによって、五条高倉 - 西本願寺間には京都駅八条口行きの烏丸七条以外設けることができず、京都市内最大のターミナルでしかも国際観光都市の玄関口でもある京都駅前(京都駅烏丸口)停留所が設置されなかった。そのため京都駅烏丸口前の塩小路通を全便が停車せずに通過していた。京都駅前を一般路線バスの全便が停車せずに通過していたのは、八条口前を含めても京都駅開業以来史上初の出来事であり、また京都駅前乗り入れている全乗合バス事業者に於いても史上初となった。ただしこの308号経路は起点が京都駅八条口としていたため、西本願寺や京都市内地区からは大きく迂回するものの、京都駅自体には立ち寄っていたが、2020年のダイヤ改定で路線が改変された際に五条高倉以遠の経路を七条通・塩小路通経由から五条通・堀川通経由で京都駅八条口へと向かう路線に変更(同時に営業所の管轄を変更)したため、ごく短期間で京都駅前を通過する珍事例は解消した。
これ以外には、一般業者による路線バスと公営のコミュニティバスが同じルートを並走している場合、民間企業の利益を損ねることを防ぐため、並行区間においてはコミュニティバス側のみ乗車あるいは降車に制限したり(例:日光市営バス)、あるいはクローズドドアシステムとは異なるが停留所の位置を意図的にずらして設置する(例 :あびバス)対策が取られることがある。
バス以外の類似の事例
- 土讃線の特急四国まんなか千年ものがたりは、途中の停車駅である善通寺駅・琴平駅からの利用は、大歩危駅との間の利用に限られる。[8]
- 近畿日本鉄道の特急では、大阪難波駅・大阪上本町駅行きの列車には鶴橋駅から乗車できないようになっていた(同様に、難波行きの場合は上本町からの乗車も禁止されていた)。
短所を補う工夫
- 山陽自動車道では、高坂パーキングエリアを乗り換え専用の停車地とし、直行路線のないしまなみ海道沿線や広島県東部各地から広島空港へのアクセスの確保を行っている。
- 国土交通省関東運輸局の要請で上信越自動車道の藤岡パーキングエリアを乗り換え専用停車地とし、直行路線のない区間でも相互乗り換えでアクセスを確保する社会実験を行うべく、アンケートを実施している。
- 九州自動車道では、2007年7月1日より基山パーキングエリアに多くの高速バスを停車させ(九州号・ひのくに号のスーパーノンストップ便を除く)、直行路線の無い方面(北九州 - 鹿児島間など)や直行便が少ない都市間(大分・宮崎・鹿児島 - 長崎など)へのアクセスの確保を行っている。
- 山交バス・宮城交通の高速仙台 - 山形線では、山形市内の一般道区間においてクローズドドアシステムの一部を緩和し、山形県庁前と南高校前の2つのバス停で山形駅前行の片方向のみを乗降可能とした。山交バスの山形市内線は赤字が原因で路線廃止と減便が続き年々利便性が低下していたが、高速バスの山形市内区間を活用することによって、わずかな経費で山形市内利用者の利便性を高めることができた。山形県庁→南高校前→山形駅前の市内路線バスは平日1日23本しかないが、同じ区間を走る仙台からの高速バスは平日1日80本ある。なお、同じバス停の仙台方面行と、同路線の仙台市内区間[注 2]は緩和されていない。
日本国外での事例
市内に乗り入れる民営バスにクローズドドア制を導入させていた大阪市交通局では、1955年の『欧米の大都市におけるバスの輸送調整について』においては、グラスゴウを例に挙げた。
また、1963年10月8日の『大阪市及びその周辺におけるバス輸送について(公述書)』では、欧米での事例として以下を挙げている。
- 郊外バスの市内営業を法的阻止として強力に禁止している都市として、デドロイト、トロントがある。
- 乗車料金制度に差を設けて近距離乗客の利便性をはかる都市として、ロサンゼルス、ロンドンがある。
- 急行バスを運転している都市として、ロサンゼルス、ロンドン、パリがある。
- 市内バスと周辺郊外バスの営業区域を明確にしている都市として、ロンドン、パリ、セントルイスの一部路線がある。
- そのほか、ボストン、フィラデルフィア、サンフランシスコ、グラスゴウ、ニューヨーク、シカゴ、モントリオール、ハンブルグ、ウィーン。
脚注
注釈
出典
- ^ a b 和佐田貞一『高速バス進化の軌跡』2015年。
- ^ a b c 『京阪バス五十年史』京阪バス株式会社、1972年7月20日、102-108頁。
- ^ 『京都市申請京阪自動車株式会社、丹波交通株式会社、京都バス株式会社との一般乗合旅客自動車運送事業運輸協定認可について(陸輸第3883号)』運輸省陸運監理局自動車部輸送課、1948年10月12日 。
- ^ 『阪急バス50年史』阪急バス株式会社、1979年4月24日、104-112頁。
- ^ 角本良平 (06 1958). “大阪の都市交通対策”. 運輸と経済 18 ((6)): 1-16.
- ^ 『大阪市内の無軌条電車およびバス・センター乗入について』運輸省、1952年9月19日。
- ^ 『大阪市交通局五十年史』大阪市交通局、1953年、302-308頁。
- ^ 交通新聞社 JR時刻表 2021年10月号・西日本時刻表 2021秋号。特急券・グリーン券は大歩危駅発着との間に限って発売の記述あり。
関連項目
クローズドドアシステム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/19 05:12 UTC 版)
「仙台 - 山形線」の記事における「クローズドドアシステム」の解説
当路線では以下のように仙台発と山形発の便で乗降制限が異なる。 仙台発の便では山形市内において山交バス便で山交バスの一般定期券が利用可能。 仙台市内 山形市内仙台発乗車のみ → 乗降可能 山形発降車のみ ← 乗車のみ @media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}運行開始当初は、川崎町内のバス停では宮城交通便のみが客扱いを行い、山形交通便は通過していた一方で、山形市内の滑川住宅前停留所では、山形交通便のみが客扱いを行い、宮城交通便は通過していた。これは高速道路経由に変更されるまで続いていた。[要出典]また、9往復に増便される際、宮交は5往復、山交は4往復を担当していた。しかし、14往復に増便される際に両会社とも同数の7往復の担当になっている。 その後高速道路経由になってからは宮城交通・山交バスともに等しくクローズドドアシステムを採用し、特定の区間内のみの乗車は不可とされた。2004年(平成16年)以降はクローズドドアシステムが一部緩和され、山形県庁前と南高前の2つのバス停で山形駅方面の片方向のみ乗降可能とした。山交バスの山形市内線は赤字が原因で路線廃止と減便が続き年々利便性が低下しているが、高速バスの山形市内区間を活用することによって、わずかな経費で山形市内利用者の利便性を高めることができた。山形県庁前→南高前→山形駅前の一般路線バスは平日23本しかないが、同じ区間を走る仙台からの高速バスは平日80本ある。なお、仙台方面行と、当路線の仙台市内区間はクローズドドアシステムの長所の方が勝っているため緩和されていない。
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