β-酸化とは? わかりやすく解説

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ベータ‐さんか〔‐サンクワ〕【β酸化】


β酸化

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/14 07:41 UTC 版)

β酸化(ベータさんか)とは脂肪酸代謝において脂肪酸を酸化して脂肪酸アセチルCoA(fatty acetyl-CoA; 脂肪酸と補酵素Aチオエステル)を生成し、そこからアセチルCoAを取り出す代謝経路のことである。β酸化は4つの反応の繰り返しから成り、反応が一順するごとにアセチルCoAが1分子生成され、最終生産物もアセチルCoAとなる。脂肪酸アシルCoAのβ位において段階的な酸化が行われることからβ酸化と名付けられた。β酸化は脂肪酸の代謝の3つのステージ(β酸化、クエン酸回路電子伝達系)の最初1つであり、生成されたアセチルCoAはクエン酸回路に送られ、CO2へと酸化される。動物細胞では脂肪酸からエネルギーを取り出すための重要な代謝経路である。植物細胞においては発芽中の種子の中で主に見られる。1904年ヌープによって発見された。

脂肪酸の動員

生物がエネルギーを取り出すために利用する脂肪酸やグリセロールは、脂肪細胞に貯蔵されたトリアシルグリセロールなどのエステルから得る[1]。トリアシルグリセロールは細胞中に脂質滴として凝集しているため、細胞質浸透圧を上げることなく存在でき、また水和もされない。また同じ質量たんぱく質糖質の2倍以上の完全酸化エネルギー(有機物二酸化炭素と水まで酸化したときに得られるエネルギー)を持っている[2]。このようにエネルギー貯蔵物質としては極めて優れているが、そのに対する極端な不溶性は酵素によって代謝される際に障害となる。脂質滴のトリアシルグリセロールをエネルギー生産のために各組織(骨格筋心臓、腎皮質など)に運ぶ際は次の手順が踏まれる。

  1. ホルモン感受性リパーゼが脂質滴の表面に移動する。
  2. リパーゼによりトリアシルグリセロールが加水分解され、脂肪酸が遊離する(リン脂質ホスホリパーゼにより加水分解される)
  3. 血液中に出た脂肪酸が、可溶性タンパク質である血清アルブミンと結合し、不溶性が打ち消される。
  4. 血流に乗って筋組織などに運ばれ、血清アルブミンから遊離した脂肪酸が脂肪酸トランスポーターから細胞内に取り込まれる。

このように各細胞に取り込まれた後、脂肪酸の活性化、β酸化を経て、アセチルCoAが生成されるのである。

脂肪酸の活性化とミトコンドリア内への輸送

脂肪酸から脂肪酸アシルCoAへの変換

細胞内に取り込まれた脂肪酸は、その安定なC-C結合を克服するため、ミトコンドリア外膜の細胞質側に存在する酵素アシルCoAシンテターゼ (acyl-CoA synthetase) により触媒され、次の反応によって活性化される。

脂肪酸 + CoA + ATP

最初の段階はアシルCoAデヒドロゲナーゼ (acyl-CoA dehydrogenase) による酸化反応である。この反応においてα炭素とβ炭素の間に二重結合が形成され、trans2エノイルCoAができる。Δは二重結合の位置を表す。哺乳類には4種類のアシルCoAデヒドロゲナーゼのアイソザイムが存在し、それぞれ短鎖、中鎖、長鎖、超長鎖のアシル鎖に対して特異的に作用する[1]。二重結合が形成されることで電子がこれらの酵素の補欠分子族であるFADに移り、すぐにミトコンドリア呼吸鎖に送られる。電子伝達フラビンタンパク質 (ETF) と呼ばれる水溶性のタンパク質に結合した別のFADがこの電子を捕捉する[2]

段階2: 水和

第二の段階では、エノイルCoAヒドラターゼ (enoyl-CoA hydratase) が触媒する反応により、前段階で形成された二重結合にH2Oが付加され、β-ヒドロキシアシルCoA (β-hydroxyacyl-CoA, 3-hydroxyacyl-CoA) となる。この反応は立体特異的に進み、L体のみが生成する。

段階3: NAD+による酸化

3段階目は3-ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ (3-hydroxyacyl-CoA dehydrogenase) が触媒する反応によってL-β-ヒドロキシアシルCoAが酸化され、β-ケトアシルCoA (β-ketoacyl-CoA) ができる。この酵素はβ-ヒドロキシアシルCoAのL体のみに作用する。この反応はNAD+依存である。NAD+に電子が移り、NADHができるが、その電子は電子伝達系の複合体Ⅰに渡される[2]

段階4: チオール開裂

前3つは比較的安定なC-C結合を不安定化させるための反応である[2]。最後はβ-ケトアシルCoAチオラーゼ (3-ketoacyl-CoA thiolase;チオラーゼ、β-ケトチオラーゼ、アセチルCoA-アセチルトランスフェラーゼなどとも) の触媒する反応により、β-ケトアシルCoAと補酵素Aがチオール開裂 (thiolysis) を起こし、2炭素分短くなった脂肪酸アシルCoAとアセチルCoAが生成する。補酵素Aのチオール基 (-SH) がβ-ケトアシルCoAのカルボニル炭素を求核的に攻撃することでα-β炭素間が開裂する。

炭素鎖が短くなった脂肪酸アシルCoAは次のβ酸化の第1段階の基質となり、脂肪酸アシル鎖の部分がすべてアセチルCoA (またはプロピニルCoA)に酸化されるまで反応は繰り返される。先ほど例に出したパルミチン酸では全体の反応式は次のように表せる。

パルミトイルCoA + 7CoA + 7FAD + 7NAD+ + 7H2O
リノール酸の酸化

いままで説明したβ酸化の機構はパルミチン酸やステアリン酸などの飽和脂肪酸 (炭素鎖が単結合のみでつながっている脂肪酸) のみに当てはまるものである。しかし、動物や植物のトリアシルグリセロールやリン脂質に含まれる脂肪酸の多くは不飽和脂肪酸で、炭素鎖に1つ以上のシス型二重結合を持っている。しかしエノイルCoAヒドラターゼはΔ2-エノイルCoAのトランス型二重結合を水和する酵素であり、シス型の場合は基質になりえない。よって飽和脂肪酸の酸化に係わる4つの酵素のほかにさらに2種類の酵素が必要になる。この2つの酵素が触媒する反応について、cis-Δ9, cis-Δ12の二重結合を有するリノール酸を例に説明する。

リノール酸はリノレオイルCoA (リノレイルCoA) としてβ酸化のサイクルに入り、一連の反応を3回通過して3分子のアセチルCoAと、cis-Δ3, cis-Δ6に二重結合をもつジエノイルCoA (C12) を生成する。そしてΔ3, Δ2エノイルCoAイソメラーゼ32-enoyl-CoA isomerase) の触媒する反応で異性化され、cis-Δ3二重結合がtrans-Δ2に変換される。こうして生成されたtrans,cis-Δ2,6ジエノイルCoAはβ酸化の酵素反応を一回受け、さらに第1段階の酵素であるアシルCoAデヒドロゲナーゼの作用を受けることで、trans,cis-Δ2,4ジエノイルCoA (C10) となる。このように2つの二重結合が1つの単結合によって隔てられた構造を共役ジエンといい、電子の非局在化により安定化されている[3]。つまり水和しにくい。そこでNADPH依存性の2,4-ジエノイルCoAレダクターゼ (2,4-dienoyl-CoA reductase) が触媒する還元反応によって、1個の二重結合をもつtrans-Δ3-エノイルCoAに変換される。この生成物はΔ3, Δ2エノイルCoAイソメラーゼの基質となる。こうしてまた二重結合がΔ2の位置に変換され、引き続きβ酸化の反応を通過する。最終的にアセチルCoAが9分子生産される [1][4]

オレイン酸 (C18) など二重結合が1つだけある脂肪酸の場合、2,4-ジエノイルCoAレダクターゼが働く必要がないため、エノイルCoAイソメラーゼによる異性化のみを受ける。また、二重結合がトランス型となっているトランス脂肪酸は異性化する必要すらなく、β酸化により代謝される。

β酸化の生理学的役割

β酸化は最終産物として大量のアセチルCoAを生産するが、アセチルCoAは様々な代謝系に用いられる汎用性に富んだ物質である。アセチルCoAの担う反応には以下のようなものがある。

このうち、主要代謝系がクエン酸回路の組み込みであり、パルミチン酸 (C16) 1分子が、クエン酸回路、電子伝達系と酸化的リン酸化を経て完全酸化されることにより、NADHとFADH2のP/O比がそれぞれ2.5と1.5とすればATP108分子が合成されることになる。この代謝は真核細胞ではミトコンドリア内で、原核細胞では細胞質内で行われる。脂肪酸モル辺りのATP合成量が糖などより多いことが良く理解できる(グルコースの完全酸化では38分子程度)。

脚注

  1. ^ a b c H. Robert Horton 他 著『ホートン生化学(第3版)』鈴木紘一・笠井献一・宗川吉汪 監訳、東京化学同人、2003年9月、p.362-371、ISBN 4-8079-0575-9
  2. ^ a b c d e f David L. Nelson, Michael M. Cox 共著 『レーニンジャーの新生化学[下]‐第4版‐』 山科郁男 監修、川嵜敏祐ほか 編、廣川書店、2007年2月、p.897-912、ISBN 978-4-567-24403-9
  3. ^ K. P. C. Vollhardt, N. E. Schore 共著『ボルハルト・ショアー 現代有機化学(第4版)〔上〕』古賀憲司・野依良治・村橋俊一 監訳、化学同人、2004年4月、p.643-644、ISBN 9784759809633
  4. ^ Robert K. Murry ほか著『ハーパー生化学 原書25版』上代淑人 監訳、丸善、2001年、p.261-262、ISBN 4-621-04834-1

参考文献

関連項目




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