たち‐ぎき【立(ち)聞き】
立ち聞き
立ち聞き(盗み聞き)
『今昔物語集』巻11-22 槻の古木を切ろうとする人々が次々に死ぬ。わけを知ろうと、僧が雨夜に蓑笠をつけて、雨宿りのふりをして木の下に立つ。上方で「木こりは皆蹴殺す」「しかし、注連(しめ)を巡らせ祝詞を読み墨縄をかけて切られたら、防げない」と語り合う声がするので、木の切り方がわかる。
『男色大鑑』(井原西鶴)巻7-3「袖も通さぬ形見の衣」 丹波へ通い商いする男が、子安の地蔵堂に一夜を明し、地蔵と丹後切戸の文殊の問答を聞く。文殊が言うには、その夜五畿内に1万2千116人が誕生し、中でも道頓堀の楊枝屋に生まれた男児は、美形の役者となって18歳で命を捨てる運命だった。
『南総里見八犬伝』第9輯巻之4第99回 蟇田素藤は、上総の諏訪神社に仮寝して、疫鬼と木精が「まもなく村人の半分が病気で死ぬ」「楠のうろに神水があり、黄金を一昼夜浸してその水を病人に飲ませれば、たちまち治る」と問答するのを聞く。素藤は病者を治して村人たちから人望を得る。
『蛇婿入り』(昔話)「苧環型」 山の岩穴で、針を刺されて瀕死の蛇が「女に蛇の子を孕ませたから、悔いはない。女もそのうち死ぬだろう」と言い、母親の蛇が「しかし人間は賢いものだから、蓬と菖蒲の湯に入れば、蛇の子が下りて女は助かるだろう」と言う。女はこれを立ち聞きし、身体から蛇の子を下ろす(福島県南会津郡桧枝岐村。*『平家物語』巻8「緒環」の類話では、針を喉笛に刺された大蛇が、岩屋へ尋ね来た女と直接語り合う→〔蛇婿〕1a)。
*→〔切れぬ木〕2の『捜神記』巻18-3・〔猿〕3の『猿神退治』(昔話)・〔枕〕1aの『神道集』巻8-46「釜神の事」。
*絞首台の死体が話し合うのを聞く→〔首くくり〕5の『旅あるきの二人の職人』(グリムKHM107)。
『古事記』下巻 安康天皇が神牀で昼寝をした時、皇后に「汝の子目弱の王が成長した後、私がその父大日下の王を殺したことを知ったら、悪心をおこすだろう」と語る。7歳の目弱の王は、御殿の下で遊んでいてこれを聞く→〔眠る怪物〕3。
『今昔物語集』巻29-12 夜の大路で、強盗たちが源忠理の家に押し入る相談をする。たまたま方違えで大路に面した小家にいた忠理はこれを聞き、家財道具をすべて他所へ運び出しておく。
『忠直卿行状記』(菊池寛) 越前67万石の青年城主忠直は、家臣たちとの槍術試合の後、「殿はたいそう上達され、勝ちをお譲りするのに以前ほど骨が折れなくなった」と語り合う声を立ち聞きし、自分の今までの生活が偽りの上に成り立っていたことを知る。忠直は、家臣に真槍の勝負を挑んで傷を負わせたり、家臣の妻を無理矢理召し寄せたりして、いつ彼らが偽りの恭順を捨て、本気で立ち向かって来るかを試す。
『トリスタンとイゾルデ』(シュトラースブルク)終章 処女妻である白い手のイゾルデは、兄カーエディーンと夫トリスタンの会話を立ち聞きし、夫が愛しているのは自分ではなく、自分と同名の王妃イゾルデであると知り、夫への復讐を考える→〔合図〕1。
*樽の中にいて、海賊の密談を聞く→〔樽〕1の『宝島』(スティーブンソン)第2部第10~11章。
★3.たまたま出会った人などのささいな一言から、難問解決のヒントを得ることがある。
『石山寺縁起』巻2 源順が、『万葉集』の「左右」の訓み方がわからず、苦慮して石山寺に参詣する。帰途、馬方たちが馬の荷物を載せ直す時、片手でなく左右両手を使えというので「真手」と言っているのを耳にし、「左右」は「まで」と訓むことを源順は悟る。
『点と線』(松本清張)12の3 三原警部補は、容疑者のアリバイトリックについて喫茶店で考えていた。その時、たまたま隣席の男女が「バスが時間どおり来なかった」と言っているのを耳にして、アリバイを打ち破るためのヒントが三原の頭に閃いた。
*父親の子供を気づかう一言から、子供が難問解決のヒントを得る→〔宇宙人〕1aの『インデペンデンス・デイ』(エメリッヒ)。
『江談抄』第3-1 唐土の人々が、難読の『文選』を吉備大臣に読ませ、その誤りを笑おうと相談する。吉備は、飛行自在の鬼の助けを得て帝王の宮殿に到り、30人の儒者たちが『文選』を一晩中講義するのを盗み聞く。
*→〔犯人さがし〕1の『本朝桜陰比事』巻1-4「太鞁の中はしらぬが因果」。
★4b.盗聴器。
シャンデリア(ブレードニヒ『ヨーロッパの現代伝説 ジャンボジェットのねずみ』) アメリカの実業家一行がビジネス協定締結のためにモスクワを訪れ、高級ホテルの部屋を与えられた。アメリカ人たちは「盗聴器が仕掛けてあるに違いない」と考え、部屋中をくまなく探す。床の絨毯をはがすと、ボルトのはまった金属板があったので、「ついに見つけたぞ」と、彼らはボルトを取り外す。その瞬間、下のレストランのシャンデリアが落ちた。
『嵐が丘』(E・ブロンテ)9 エドガー・リントンとの結婚を決めたキャサリンは、「今ヒースクリフと結婚すれば落ちぶれる。しかしヒースクリフと私の魂は同じだ。エドガーへの愛は一時的なものだが、ヒースクリフへの愛は永遠だ」と女中に語る。ヒースクリフはキャサリンの言葉の前半だけを立ち聞きし、蔑まれたと誤解してそのまま家を出る。
『聴耳頭巾』(昔話) 爺が聴耳頭巾をかぶり、木の枝に止まった2羽の烏の言葉を聞く。ある所では烏たちは、「村の長者の土蔵の屋根板に、蛇が釘を打ちつけられて半死半生だ。そのため長者の娘が長患いをしている。蛇を放してやれば娘も助かる」と話し合っていた。また別の所では、烏たちは「町の長者の庭の楠木が伐られ、切り株が死にきれずにおり、そのため長者が大病だ。木を根から掘ってしまえばよい」と話し合っていた(岩手県上閉伊郡土淵村)→〔鳥の教え〕8。
『鳩の立ち聞き』(昔話) 川向こうの畑で働く爺に「何をまいているか」と問うと、返事をせずに手招きをする。そばまで行くと、耳に口を寄せて「大豆をまいている」と教える。「なぜ内緒にする?」「鳩に聞かれると大変だから」。
*文字を解する兎や狐→〔文字〕11の『奇談異聞辞典』(柴田宵曲)「兎除(うさぎよけ)の札」。
★7.わざと立ち聞きさせる。
『空騒ぎ』(シェイクスピア) ベネディックとベアトリスは仲が悪く、会えば口喧嘩ばかりする。2人の友人・知人たちが策をめぐらし、「ベアトリスはベネディックを恋している」という話をしてベネディックに立ち聞きさせ、また、「ベネディックはベアトリスに夢中だ」という話をしてベアトリスに立ち聞きさせる。2人は互いに相手から愛されていると思い、結婚する。
「立ち聞き」の例文・使い方・用例・文例
- 立ち聞きのページへのリンク