鳥の教え
コーヒー発見の伝説 アラビアの回教徒シェーク・オマールが、山中で一羽の鳥が赤い木の実をついばみ、陽気にさえずるありさまを見た。オマールもその木の実を採り、煮出し汁を飲んだところ、心身に精気がよみがえった。医者でもあったオマールは、この実を用いて多くの病人を救った〔*エチオピアの山羊飼いカルディが、赤い実を食べ日夜動き回る山羊の群れを見て、コーヒーの効果を知ったという伝説もある〕。
*鳥のふるまいを見て酒を発見する→〔酒〕3の『ジャータカ』第512話・『曽我物語』巻2「酒の事」、→〔踊り〕3cの雀躍(高木敏雄『日本伝説集』第22)。
『古今著聞集』巻9「武勇」第12・通巻337話 後三年の役の時。一行(ひとつら)の鴈が田に降りようとして何かに驚き、列を乱して飛び帰った。これを見た八幡太郎源義家は、かつて大江匡房から「軍(いくさ)、野に伏す時は、飛鴈つらをやぶる」と教わったことを思い出し、野に敵兵が潜んでいると察知する。義家は敵を打ち破り、「江帥(がうそつ=大江匡房)の一言がなかったら、危ない所だった」と言った。
『平治物語』下「悪源太誅せらるる事」 悪源太義平が、平家の人々を討とうと都周辺に潜伏する。ある日彼は逢坂山で、前後不覚に眠ってしまう。鴈の列がその上を飛ぶ時、左右へパッと分かれる。通りかかった難波次郎経遠がこれを見る。経遠は「『敵(かたき)、野にふす時は、飛鴈行(つら)を乱る』と古書にある」と言って山中を探し、悪源太義平を捕らえた。
『保元物語』(古活字本)巻下「為朝鬼が島に渡る事」 大嶋に流された為朝が、沖へ飛ぶ白鷺青鷺2羽を見て「嶋があるのだろう」と思い、舟を出して鬼が嶋に到る。
『マハーバーラタ』第10巻「夜襲の巻」 アシュヴァッターマンは、父ドローナを謀殺したパーンドゥ軍への復讐の念を抱き、森で夜を過ごす。1羽の大フクロウが現れ、菩提樹に眠る何千もの烏を襲い次々と殺す。これを見てアシュヴァッターマンは夜襲を思いつき、パーンドゥ軍の陣に侵入して、眠る戦士たちのほとんどを殺す。
『閑居の友』上-13 鳥籠に入れた2羽の山がらのうち、1羽は多く餌を食い肥えて活発だった。もう1羽は物も食わず痩せほそり、やがて籠の目からぬけ出て飛び去った。これを見た男は、「憂き世を出でんとする人もこの痩せ鳥のごとくあるべきだ」と悟り、剃髪した。
『今昔物語集』巻19-6 京の生侍が、産後の妻に食べさせるため、美々度呂池の雄鴨を射殺す。ところが雌鴨が夫鴨の後を慕い来て、棹に懸けた夫鴨の遺体に寄り添う。これに感じた生侍は、愛宕護山へ登り法師となる。
『日本霊異記』中-2 雌烏が、夫烏の留守の間に他の雄烏と姦通し、雛鳥を捨てて顧みなかった。これを見た泉郡の大領血沼県主倭麻呂は世をいとい、妻子と別れて出家した。
『太平記』巻9「高氏願書を篠村の八幡宮に籠めらるる事」 足利高氏が、丹波篠村の新八幡に北条幕府討伐を祈り、願書と矢を奉る。山鳩一つがいが飛来し、その後を追って行軍すると、山鳩は都の大内裏の旧跡に到り、神祇官の前の樗の木に止まった。
『菅原伝授手習鑑』2段目「道明寺」 淵川へ沈んで行方のわからぬ死体がある時は、鶏を船に乗せて捜せば、死体のある所で鶏は鳴く。この習性を利用して、悪人土師兵衛・直禰太郎父子が箱の蓋に鶏を乗せ、死体を沈めた池に浮かべて、夜のうちに鶏を鳴かせる→〔鶏〕2。
『トプカピ』(ダッシン) 盗賊団が、イスタンブールのトプカピ(=トプカプ)宮殿にあるスルタンの宝剣を盗もうと計画する。どんな軽い物が床に触れても警報が鳴るので、彼らは天窓から侵入し、ロープで身体を吊り下げて宝剣を取り、にせものとすりかえておく。これで、国外に逃亡するまで、盗みは発覚しないはずだった。ところが、1羽の小鳥が天窓から入り込んだことに、盗賊団は気づかなかった。小鳥は床に降り、警報が鳴り響いた。
『絵本太閤記』 石川五右衛門は、関白秀次の家臣木村常陸介から、太閤秀吉暗殺を依頼される。五右衛門は伏見城の奥深くに忍び入り、高いびきで眠る太閤を討とうと、刀に手をかける。その時、太閤の枕元に置かれた千鳥の香炉が、数声鳴く。思いがけぬことに五右衛門がたじろぐ間に、太閤は起き上がって家来を呼ぶ。五右衛門は捕らえられて、釜茹でになる→〔処刑〕4の『本朝二十不孝』(井原西鶴)巻2-1「我と身を焦がす釜が淵」。
『瓜姫物語』(御伽草子) あまのさぐめが瓜姫をつかまえて木の上に縛りつけ、自分が瓜姫の代わりに守護代の嫁になろうとする。夜、嫁迎えの輿に乗せられて木の下道を通る時、鳥が「ふるちご(瓜姫)を迎へとるべき手車にあまのさく(さぐめ)こそ乗りて行きけれ」と囀る。人々は松明(たいまつ)を掲げ、木の上に瓜姫を見出す。あまのさぐめは輿から引き出され、罰せられる。
『灰かぶり』(グリム)KHM21 灰かぶり(シンデレラ)の異母姉2人は、足を切って靴に合わせ、王子と結婚しようとする。王子がにせ花嫁とともに馬に乗って行くと、2羽の鳩が「靴の中は血だらけ。本当の嫁はまだ家にいる」と教える。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第4日第9話 弟が兄のために花嫁を見つけ、鷹と馬とを土産に帰国する。途中、鳩の夫婦が「兄は鷹に目をくり抜かれ、馬に首を折られ、新婚初夜に龍に喰われる。このことを知らせる者は大理石に化す」と語るのを弟は聞く→〔石〕2。
『聴耳頭巾』(昔話) 氏神様から授かった赤い頭巾を爺がかぶると、烏たちの言葉が聞こえ、村の長者・町の長者の屋敷に病人がでた原因とその治療法がわかる。爺は病人を治して褒美の金をたくさんもらう(岩手県上閉伊郡土淵村)→〔立ち聞き(盗み聞き)〕6a。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第9章 メラムプスは、蛇の子供を養ったことがあった。蛇は成長後、眠るメラムプスの両耳を、舌で清めた。以来、メラムプスは頭上を飛ぶ鳥の言葉がわかるようになり、鳥から教わって人々に未来を予言した。
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