たま‐よばい〔‐よばひ〕【▽魂呼ばい】
読み方:たまよばい
「魂(たま)呼び」に同じ。
魂呼ばい
『源平布引滝』3段目「九郎助住家の場」 小万は片腕を斎藤別当実盛に切り落とされて死に(*→〔片腕〕2a)、その遺体が、老父・九郎助の百姓家へ運び込まれる。老母や、小万の息子・7歳の太郎吉が、死者を生き返らせようと、小万の名前を呼ぶ。九郎助は井戸をのぞいて名前を呼ぶ〔*井戸は霊界に通じているからである〕。小万はいったん息を吹き返し、太郎吉に言葉をかけて、また目を閉じる。
『大菩薩峠』(中里介山)第30巻「畜生谷の巻」 机龍之助とお雪ちゃんは白骨を去り、平湯の温泉の一間で数日を過ごす。外から「駒さんよー」「聞こえたかえ、もう一ぺん戻って下さいよう」「早く帰らさんせよう」と、けたたましい声が聞こえる。近所の家で人が死に、この土地の習いで、3日3晩、死者の名を呼び続けるのだ。お雪ちゃんは「いやな習わしですね」と言い、「本当に人間の魂は、死んでも49日の間、屋の棟に留まっているものでしょうか」と問う。龍之助は「いないとも言えないね」と答える。
『幽明録』12「死者の昇天」 隣家から魂呼ばいの声が聞こえたので、男が庭へ出て眺める。今、息を引き取った隣家の老婆が、ふわふわと天へ昇って行くのが見える。家族が一声呼ぶごとに、老婆は後ろをふり返る。3度呼ばれて3度ふり返り、老婆はしばらくためらっていた。やがて家族の呼び声が絶え、老婆の姿も見えなくなった。
『遠野物語』(柳田国男)97 ある男が病んで死に瀕するが、いつのまにか人の頭ほどの高さの空中を菩提寺へ向けて飛んでおり、たいへん快い。菩提寺では、亡き父親や息子が、男を出迎える。その時、寺門の辺で騒がしく自分の名を呼ぶ者がおり、「いやいや引き返す」と思うと、男は正気づいた。
★3.行方知れずの人の魂を請い求めていたら、死者の魂を呼び起こしてしまった。
『死者の書』(折口信夫) 藤原南家の郎女(いらつめ)が、行方知れずになった。白装束の9人の修道者が、「こう。こう。おいでなされ。藤原南家郎女の御魂(みたま)」「早く、もとの身に戻れ。こう。こう」と、魂ごいの行(ぎょう)をしつつ、大和と河内の境の二上山までやって来る。すると塚穴の奥から「おおう」と、応答の声がある。50年前、処刑されてこの地に葬られた滋賀津彦(=大津皇子)が、息を吹き返したのだ。9人の修道者は、ちりぢりに逃げ去った。
魂呼ばい
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