犯人さがし
★1a.誰もいないと油断して、犯人が犯行をしゃべってしまう。
『本朝桜陰比事』巻1-4「太鞁の中はしらぬが因果」 百両が紛失する。お上が容疑者10人に、「各自の女房(または姉妹など)とともに、1日1組ずつ、大きな唐太鞁に棒を通したものを担いで、遠方の松原を回って来い」と命ずる。8日目に担いだ夫婦が、「かかる迷惑、何の因果か」「少々の難儀。百両のため」と話し合う。唐太鞁の中には小坊主が隠れており、夫婦の会話を聞いてお上に報告する。
『大岡政談』「大岡殿頓智の事」 長屋住まいの独身男が50両を貯め、漬物桶の糠味噌の中へしまっておく。それが盗まれたので、大岡越前守が長屋の住人たちを白洲へ集め、「糠味噌に触れた手のにおいは、なかなか消えぬ。今から1人1人の手を嗅ぎに行く」と告げる。すると1人の男が手をそっと鼻へあてたので、越前守は「その者が盗人だ」と言う。
★1c.「犯人だ」と指摘されないようにしたつもりが、かえって犯人であることを明らかにしてしまった。
『夢渓筆談』「霊鐘」 囚人たちの中の1人が盗みをした。賢者の知事が、「帷(とばり)の中に霊験あらたかな鐘がある。これを1人ずつなでよ。盗人がなでれば鐘が鳴る」と言い聞かせ、ひそかに鐘に墨を塗っておく。帷から出て来た囚人たちの手にはみな墨がついていたが、1人だけ手が白かった。この男が盗みの犯人で、鐘が鳴るのを恐れて手を触れなかったのである。
『聊斎志異』巻10-401「臙脂」 賢者・施愚山公が、殺人の容疑者数人に手を洗わせ、土地神の祠へ追い入れる。公は容疑者たちに、「殺人犯の背中には、神様が印をつけるから、すぐわかる」と言う。殺人犯の男は、印をつけられないように、祠の中では背中を壁にぴったりつけ、出て来る時には背中を手でおおった。手を洗う水には煤煙(すす)が混ぜてあり、祠の壁には灰が塗ってあったので、犯人の背中には煤煙と灰がついた。
★2a.犯人さがしを命ずる人物が、やがて自分自身が犯人であったことを知る。
『オイディプス王』(ソポクレス) テーバイの国が疫病に襲われる。神託によれば、先王ライオスを殺した下手人をつきとめて罰することが、この災厄から逃れる唯一の方法である。現王オイディプスが、事件の再調査と犯人の探索を市民に約束する。しかし調べが進むうちに、オイディプスは自らが諸々の災厄の原因であったことを悟る。
★2b.自分自身が犯人であることを知っている裁判官が、それを隠して裁判を行なう。
『こわれがめ』(クライスト) 村長アーダムが、ある夜、村娘の部屋に侵入して迫るが、娘の婚約者が来たので逃げる途中、瓶をこわす。娘の母親は、瓶をこわしたり騒いだりしたのを、すべて婚約者のしわざと思い、翌日訴え出る。アーダムは裁判官として、自分自身が真犯人であるところの事件を裁くはめになる。
★3.犯人を一人に絞り込めず、逆に、末広がりに広がって行く。
『包囲』(星新一『ボッコちゃん』) 男が、「私」を駅のホームから突き落とそうとした。「2人の人物から、あなたを殺すよう頼まれた」と言う。「私」は2人の人物の名前と住所を手帳に書き、そのうちの1人に会いに行く。その人物もまた「2人から、あなたを殺すよう頼まれた」と答える。自分ではできないので、あの男に実行を依頼したのだという。「私」は、その2人の名前と住所を手帳に書き、会いに行く。やがて「私」は手帳を1冊書きつぶしたが、誰が「私」を殺したがっているのか、まだ捜し出せない。
★4.殺人の実行犯と被害者の接点を作らず、誰が犯人か、つきとめられないようにする。
『沼の主のつかい』(昔話) 百姓の孫四郎が、みぞうけ沼の草を毎日刈るので、沼の主である女は、姿を隠すのが日ましに難しくなった。孫四郎を捕って食いたいが、そうすると沼に主がいることがわかって、これも困る。そこで女は、「富士の裾野の高沼にいる妹に食わせよう」と考え、孫四郎を富士まで行かせた(岩手県江刺郡)→〔書き換え〕3。
*犯人と被害者の接点を作らないのは、交換殺人でも同様である→〔交換〕10の『見知らぬ乗客』(ヒッチコック)。
*1車輌に乗る12人の中から犯人を絞り込もうとするが、12人全員が犯人だった→〔共謀〕4の『オリエント急行殺人事件』(クリスティ)。
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