超自然的存在
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 09:22 UTC 版)
神々にはアース神族・ヴァン神族・ヨトゥンの3つの氏族がある。当初互いに争っていたアース神族とヴァン神族は、最終的にアース神族が勝利した長きにわたる戦争の後、和解し人質を交換、異族間結婚や共同統治を行っていたと言われており、両者は相互に関係していた。一部の神々は両方の氏族に属してもいた。この物語は、太古から住んでいた土着の人々の信仰していた自然の神々が、侵略してきたインド=ヨーロッパ系民族の神々に取って代わられた事実を象徴したものではないかと推測する研究者もいるが、これは単なる憶測に過ぎないと強く指摘されている。他の権威(ミルチャ・エリアーデやJ・P・マロリー等)は、こうしたアース神族・ヴァン神族の区分は、インド=ヨーロッパ系民族による神々の区分が北欧において表現されたものだったとし、これらがギリシア神話におけるオリュンポス十二神とティーターンの区分や、『マハーバーラタ』の一部に相当するものであると考察した。 アース神族とヴァン神族は、全体的にヨトゥンと対立する。ヨトゥンはギリシア神話でいうティーターンやギガースと同様の存在であり、一般的に「giants(巨人)」と訳されるが、「trolls(こちらも巨人の意)」や「demons(悪魔)」といった訳の方がより適しているのではないかという指摘もある。しかし、アース神族はこのヨトゥンの子孫であり、アース神族とヴァン神族の中にはヨトゥンと異族間結婚をした者もいる。たとえば、ロキは2人の巨人の子であり、そのロキと女巨人アングルボザとの娘であるヘルも血筋からいえば巨人である。また最初の神々オーディン、ヴィリ、ヴェーも母親は女巨人ベストラである。 エッダにおいては一部の巨人が言及され、自然力の表現であるようにも見える。巨人には通常、スルス(Thurs)と普通の横暴な巨人の2つのタイプがあるが、他にも岩の巨人や火の巨人がいる。アールヴやドヴェルグといった存在もおり、彼らの役割は曖昧な点もあるが概して神々の側についていたと考えられている。 加えて、他にも超自然的な存在が数多くいる。まず、巨大な狼であるフェンリルや、ミズガルズの大地を取り巻く大蛇ミズガルズオルム(ヨルムンガンド)という怪物がいる。この怪物たちは悪戯好きの神ロキと、女巨人アングルボザの子として描かれている。それらよりも善良な生き物はオーディンの飼っている2羽のワタリガラス、フギンとムニン(それぞれ「思考」と「記憶」を意味する)である。オーディンはその水を飲めばあらゆる知識が手に入るというミーミルの泉で、自身の片目と引き換えに水を飲んだ。そのため、この2匹のカラスたちはオーディンに、地上で何が起こっているかを知らせる。その他、ロキの子で8本足の馬スレイプニルはオーディンの所有する愛馬で、ラタトスクは世界樹ユグドラシルの枝で走り回るリスである。 北欧神話は、他の多くの多神教的宗教にも見られるが、中東の伝承にあるような「善悪」としての二元性をやや欠いている。そのため、ロキは物語中にたびたび主人公の一人であるトールの宿敵として描かれているにもかかわらず、最初は神々の敵ではない。巨人たちは粗雑で乱暴・野蛮な存在として描かれているが、全くの根本的な悪として描かれてはいない。つまり、北欧神話の中で存在する二元性とは厳密に言えば「神 vs 悪」ではなく、「秩序 vs 混沌」なのである。神々は自然・世の中の道理や構造を表す一方で、巨人や怪物たちは混沌や無秩序を象徴している。
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