瞑想 「瞑想」「冥想」という表現

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瞑想

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/15 07:31 UTC 版)

「瞑想」「冥想」という表現

瞑想に関しては複数の言語間での翻訳の行き来等に伴う表現の混乱がある。明治・大正の日本人が脱亜入欧・西洋近代化を目指し、仏教などの既存の日本の文化のしがらみを断とうと、適切な訳語であっても仏教関連用語を避けたことがそもそもの原因である[26]。哲学者の井上哲次郎は、欧米の思想の翻訳の際に仏教関連用語を意図的に避けている[26]。彼の決定が与えた影響は極めて大きかった[26]。井上は: meditationの訳語に「沈思・冥想」を、: contemplationの訳語に「熟考・沈思・冥想・深察」などを当てているが、この「冥想」という語は、中国の思想の世界や正統哲学精神史の中で、あまり一般的ではない用語だったようであり、日本人にとってなじみのない言葉だった[26]。こうした訳語の選択により、宗教行為である meditation や contemplation の訳語から、宗教性や精神性が希薄になるという事態が起こった[26]

近代になると、ヨーロッパで仏教が研究されるようになり、チベット仏教の実修、ヨーガなどが、meditation、contemplation と理解され、翻訳された[27]。それらを紹介した欧米の書物がさらに邦訳される際(再輸入される際)、元の仏教用語に相当する日本語ではなく、「冥想」「瞑想」と訳されたものも少なくなく、仏教の訳語であっても仏教用語が用いられないという錯綜した事態となった。「瞑想」の英訳には、meditation と contemplation のどちらかが当てられている[24]

「冥想」という言葉は、漢語としては、目を閉じて深く思索するという意味であり、道教に由来する[27]。根源的な真理である大道と一体化するための方法として重視された[27]。「冥」は「場所に手で幕をかける」「死者の顔を覆う布」の意味であり、どちらも覆われて見えない様子、暗い様子を表し、「奥深いところ」「目に見えない神仏の世界」「深遠な道理」などの意味が派生した。一方「瞑」は「目をつぶる」「死ぬ」などの意味で、死者のように目をつぶるという意味である[26]。よって、宗教的実践の訳語としては、「瞑想」では深い精神性を表すことができないため、適しておらず、「冥想」のほうが適切であろうと思われる[26]。宗教的実践を「瞑想」と訳すと、翻訳元の意味を正確に理解することが難しくなる。

スペイン語: meditación英語: meditation という言葉はラテン語: meditatio に由来している。ローマ時代の meditatio は「精神的および身体的な訓練・練習」全般を意味していた[28]

その後、西ヨーロッパにおいてはもっぱらキリスト教カトリックが発展した。私的な祈りはその形態から、定型の祈りの言葉を声に出して唱える口祷と、心の中で念じる祈り念祷(oratio mentis)に分けられ、念祷はさらに思弁的な祈りである黙想(meditación、meditation)と、言葉を介さずに真理を直接に「観る」非思弁的な神秘体験観想スペイン語: contemplación英語: contemplation)に分けられた[29]。キリスト教カトリックの祈りにおいて、観想が最も高度な段階である[29]。日本では meditatio を「黙想」と訳し、プロテスタント教会では念祷(oratio mentis)を「瞑想」と訳すようである[9]。冥想・冥想より意味が限定された仏教の訳語を用いるなら、meditation は凝念、contemplation は静慮または三昧が適当であろうと思われる[26]

伝統的な仏教では、瞑想という語はほとんど用いられてない[27]。仏教用語のパーリ語の bhāvanā(バーヴァナー)は修習、修行と訳されており、これが瞑想に当たる[24][27]。修行とは、「身体の訓練を通じて『悟り』を目指すこと」を意味する[6]。yoga(ヨーガ、瑜伽)、pratipatti(プラティパッティ、行)、特に密教にて用いられるsādhana(サーダナ、成就法)も瞑想に当たる[27]。また、瞑想で達する心理的状態を表すdhyāna(ディヤーナ、禅那)、samādhi(サマーディ、三昧)も、俗に瞑想を指す言葉とされることもある[27]


注釈

  1. ^ 倍音声明は、イギリスの画家・セラピストのジル・パースが1970年代に考案した瞑想法で、音を用いた瞑想法の中でも最も効果的なものの一つと評価されている。パースがチベット仏教ゲルク派の寺院で声明を学んだ経験があることから、チベット仏教の瞑想法であるという意見もあるが、倍音声明とゲルク派の声明の発声法の間に類似性は発見されておらず、チベット仏教のゲルク派以外の宗派、ボン教にも同じ瞑想法はないため、パースの独自の瞑想法であると考えられている[3]
  2. ^ コンパッションは、一般的な意味での「思いやり」「優しさ」ではない。衆生の幸せを願い()、衆生の苦しみがなくなることを願い()、衆生の幸せを喜び()、偏りのない平静な心()というあり様(四無量心)のこと[17]
  3. ^ 14世紀イギリス。作者不詳だが、偽ディオニシウス・アレオパギタの思想的影響が見られる[40]
  4. ^ 禅の修行で引き起こされる心身の不調を禅病という。『夜船閑話』からうかがえる白隠の症状は、のぼせ、発熱、精神疲労、幻覚、眼精疲労等で、心身症及び神経症と呼吸器病(結核)が合わさった状態であったと思われる。当時26歳で、方々手を尽くして様々な治療を受けたが、全て効果がなかった[46]
  5. ^ 白隠の著作には、白幽老人の岩窟の住居には『中庸』『老子』『金剛般若経』が置かれていたとあり、その思想の根底には儒教道教・仏教があることが暗示されている。実在した人物かは不明。[46]
  6. ^ 「内観の法」は、「身体の型に偏った黙照禅、思考や思念に偏った看話禅で疲労しきった心身を解放し、横臥して腹式丹田呼吸と、『気』の充実した丹田を仏として瞑想する」というもので、頭ではなく、腰から足までの身体の下部こそが「本来の目」、「仏」であると繰り返しイメージ(想念)し、神経症等を癒し、悟りへと導く。[46]
  7. ^ 「軟酥の法」は、丹田呼吸法と共に、頭上に乗せた軟酥が滴り、その薬効が体の下部を潤し足心に至る様、軟酥から流れる気をイメージして心身の調和を図り、癒しを得る。呼吸法と瞑想による調整・統御によるイメージ療法であり、信仰療法である。[46]
  8. ^ 第1段階のイニシエーションのために、レムリア文明の時代に、エーテル体と肉体をつなぎ完成させるために肉体のヨーガとしてハタ・ヨーガチャクラをコントロールすることで肉体をコントロールするためのエネルギーのヨーガとしてラヤ・ヨーガ、クンダリニー・ヨーガが与えられ、第2段階のイニシエーションのために、アトランティス文明の時代にはアストラル体を浄化するための献身による浄化のバクティ・ヨーガ、意識の集中・瞑想のラージャ・ヨーガが与えられ、これによりアストラル体のコントロールが可能になるとされる[50]。第3段階のイニシエーションには、ラージャ・ヨーガとアグニ・ヨーガが必要であるとされる[50]
  9. ^ ウォーラスの1970年代の超越瞑想の研究では、代謝の著しい減退が見られると主張されたが、対象群を整理したのちの研究で、そうした代謝の変化は瞑想特有のものではないことが示唆されている[58]
  10. ^ ニューバーグは、瞑想時における様々な体験が「客観的な現実であるか」と問われた時に、それは「神経学的な現実」であると返している[67]

出典

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