2020年5月-6月:中国政府による香港の自治への介入
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「2019年-2020年香港民主化デモ」の記事における「2020年5月-6月:中国政府による香港の自治への介入」の解説
「国家安全法・国歌法反対デモ」も参照 2020年5月10日、民主化デモの影響で事実上棚上げされていた「国歌条例案」を親中派が審議を強行再開したことに対する抗議活動が行われ、香港政府による集会禁止措置により中断していた抗議活動が事実上再開した。 2020年5月21日、22日から始まる全国人民代表大会(中国の国会に相当)において中国本土の法律である「国家安全法」の香港への適応が審議されるという複数の報道があった。実際に行われた場合、中国政府による香港の一国二制度に対する介入であるという見方が強い。「国家安全法」が香港に適応された場合、集会の自由(デモを行う自由含む)などが強く制限される可能性がある。民主派議員やデモ参加者はこれは「香港の終わり」であり「一国二制度の崩壊」であると発言している。 2020年5月22日、カナダのトルドー首相は香港に国家安全法を課す中国政府の提案に懸念を示し、真の対話と緊張緩和を今後も求め続け、状況を注視すると述べた。イギリス、オーストラリア、カナダは共同声明を発表し、「中国政府が香港へ国家安全法を導入すれば香港の一国二制度を明らかに損なう」という深い懸念を示した。また同日、香港ハンセン株価指数が5%以上の急落を記録、中国政府が「国家安全法」の香港への適応により香港の一国二制度への介入を試みていることから発生する複数の懸念が原因とされる。 2020年5月24日、新型コロナウイルスの感染拡大以降では最大規模となる「国家安全法」への抗議活動が行われ、数千人が参加した。デモ参加者は道路の封鎖やデモ行進、「天滅中共」や「香港独立」などと書かれたプラカードを掲げたり、シュプレヒコールなどで抗議し、一部の参加者は商店のガラスを割るなどした。香港警察はデモ参加者に対して、催涙弾を発射したり、放水するなどした。180人以上が逮捕された他、少なくとも6人が病院へ搬送され内1人が重体となった。同日、台湾(中華民国)の蔡英文総統は香港の人々に「必要な援助」を提供すると表明した。 2020年5月26日、国家安全法をめぐり「深刻な懸念」を表明する共同声明に同日時点で25か国の231人以上の国会議員が署名している。 2020年5月27日、市民数千人が「国家安全法」や「国歌条例案」に抗議するデモを行った。警察は約3500人を動員し、「違法な集会に参加した」などとして参加者360人以上を逮捕した。同日、ポンペオ米国務長官は「一国二制度」の下で香港で認められてきた「高度な自治」が維持されていないと発表し、議会に報告した。ポンペオ米国務長官は国家安全法に関して「香港の自治と自由を根本的に損なう」と非難し、香港を貿易面などで優遇する措置の継続は難しいとの考えを示した。 2020年5月28日、全人代は、香港に対して「国家安全法」を導入する方針を圧倒的賛成多数(賛成2878票、反対1票、棄権6票)で可決し、制定方針を採択して閉幕した。同日、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダの4か国は共同声明を発表し、中国が香港に「国家安全法」を導入する方針を決定したことについて「深い懸念」を示し、中国の行動は「国際的な義務に直接抵触する」と指摘した。また同日、イギリスのドミニク・ラーブ外相は、(中国がこのまま香港に国家安全法を導入しようとする場合)香港がイギリスの植民地だった時代に香港人に対して発行された「英国海外市民旅券(BNO)」の保有者(約30万人いるとされる)に対して、将来的にイギリスの市民権を得る手段を与える可能性を示した。同日、日本の外務省は「全人代での香港に関する議決に関して、香港の情勢を深く憂慮し、一国二制度の下に自由で開かれた体制が維持されるべき」という内容の外務報道官談話を公開した。 2020年5月29日、トランプ大統領は「香港にはもはや十分な自治はなく、私たちが提供してきた特別扱いに値しない。中国は『一国二制度』を『一国一制度』に置き換えた」と中国を批判し、香港に認めている優遇措置の廃止に向けた手続きに入ると発表した。 2020年6月1日、国家安全法制に関して香港の新聞明報が行った世論調査によると「香港立法会を通さずに中国が立法を行うこと」に対して64%が反対と回答した。 2020年6月2日、アメリカのミネアポリスで白人警察官に拘束された黒人男性が死亡した事件に抗議する暴動や、デモ隊と警察との衝突が拡大する中、林鄭月娥行政長官は国家安全法を巡る海外の批判を「ダブルスタンダード」だと批判した。中国政府や国営メディアも、「香港のデモ参加者を英雄や闘士などと美化する一方、人種差別に反対する自国民を暴徒と呼んでいるのはどういう理由か」とアメリカ国内のデモと香港のデモへの対処で「二重基準」を用いていると非難した。これに対して、ポンペオ国務長官は6日声明を発表し、「中国共産党体制が悲劇的な死を悪用し、人間の基本的尊厳を踏みにじる自らの権威主義的な行為を正当化しようとしている。笑止千万なプロパガンダには誰もだまされない」と非難した。 2020年6月4日、天安門事件から31年目になるこの日、新型コロナウィルス対策を理由に警察が集会を許可しなかったため、毎年行われていた追悼集会が初めて開かれなかった。主催者は、自宅など各自の場所でろうそくを灯して一分間の黙とうをすることを呼びかけた。一方で、数万人の市民は集会禁止命令を無視し、ヴィクトリア公園などで追悼集会を行った。また同日、中国国歌への侮辱行為を禁じる国歌条例案が民主派の議員らが強く反発するなか香港立法会で可決された。 2020年6月9日、一連のデモの本格化から1年が経過し、この日もデモが開かれた。参加者は「香港独立 唯一出路(香港独立だけが唯一の道だ)」など新たなスローガンを叫ぶ人もいた。警察は唐辛子スプレーを使ってデモ参加者を排除した。日本で暮らす香港人などでつくる団体が香港の現状を考えるイベントを都内で開き、香港の民主活動家の周庭や日本の国会議員らが参加した。イベントの中で周庭は「『一国二制度』の香港がどんどん『一国一制度』になってしまっている。これから香港で何が起きるか想像がつかないし、私自身もいつ逮捕され、何年収監されるかわからず、本当に怖い」、「香港には多くの日本企業が進出し、日本人も大勢住んでいる。『一国二制度』が破壊されれば現地の日本人にも影響が及んでしまう」など、香港の現状について話し「人権は命や人間の尊厳の問題であり、日本政府にははっきりとした立場を示してほしい。」、「もっと関心を持ってほしい」と呼びかけた。 2020年6月12日、1年前の12日にデモ参加者が立法会(議会に当たる)を包囲してから1年を記念する抗議集会が行われ、数百人が参加した。中国国歌の侮辱を禁じる国歌条例が同日施行される中、デモのテーマソング「香港に栄光あれ」の合唱が起きた。また、デモのテーマソング「香港に栄光あれ」を学内で演奏することを止めなかったとして中学教師が学校から契約継続を拒否されたことが発覚し、生徒100人以上がこの「政治的抑圧」に抗議してデモを行った。 2020年6月13日、香港警察は、前日に行われた民主化デモを取材していた報道陣を退散させようとした際、記者に向かって「I can't breathe(息ができない)」「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」と叫んだ警官をけん責処分としたと発表した。このフレーズは、白人警察官が黒人被疑者を死亡させたことに対する反人種差別抗議デモで頻繁に用いられている。 2020年6月18日、アメリカ、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国の外務大臣及びEU上級代表は声明で「国家安全法を制定するとの中国の決定に関し、重大な懸念を強調する。「一国二制度」の原則や香港の高度の自治を深刻に損なうおそれがある。」と発表した。 2020年6月30日、中国の全人代(国会に相当)、常務委員会は「香港国家安全維持法案」を香港の議会を通さずに全会一致で可決したが、記事作成時点で法律の内容は公表されていない、一部条項には終身刑などの刑が盛り込まれている可能性も指摘されている。7月1日は香港返還の記念日で、デモも呼びかけられているが、取り締まりが大幅に強化される懸念が出ている。制定の報道を受け、著名な民主活動家の、黄之鋒(ウォン・ジーフン)、周庭(アグネス・チョウ)、羅冠聰(ネイサン・ロー)は民主派政党「香港衆志(デモシスト)」を離脱すると発表。今後は、個人の立場で活動を続けるとした。また、取り締まりを恐れて、民主化団体の解散、活動停止が相次いだ。台湾の蔡英文総統は同法を強く非難し「50年間は変わらないという香港への約束を中国が履行できなかったことに非常に失望している。一国二制度が実行不可能だということを証明した。」と述べた。日本の菅官房長官は記者会見で「国際社会や香港市民の強い懸念にもかかわらず、制定されたことは遺憾だ」と述べた。黄之鋒はTwitterへの投稿で「世界がこれまで知っていた香港の終わりを意味するもので、権限の拡大と不明瞭な法により、香港は秘密警察国家へと変わる」と同法を非難した。
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