鬼
『出雲国風土記』大原郡阿用の郷 目一つの鬼がやって来て、山田を耕作する人の息子を喰った。息子の父母は、竹原の中に隠れていた。
★2.女を喰う鬼。
『伊勢物語』第6段 男が女を盗み出す。雷雨の夜で、男は、あばらな蔵の奥に、鬼のいる所とも知らず女をおし入れる。男が戸口にいる間に、鬼は女を一口に喰う〔*『今昔物語集』巻27-7に類話〕。
『今昔物語集』巻27-8 8月17日の夜、武徳殿の松原を歩く3人の女のうちの1人を、男が引き止める。男は鬼で、女は喰われ、松の木陰に女の手と足がばらばらに落ちていた〔*『三代実録』によれば仁和3年(887)の出来事〕。
『日本霊異記』中-33 富家の美女万子は、多くの品を贈り求婚してきた男と結婚する。しかし男は鬼で、初夜の床で万子は喰われる→〔初夜〕1。
★3a.女が鬼と化す。
『鉄輪(かなわ)』(能) 夫の心変わりを恨む女が、頭に鉄輪(五徳)を載せ3本の脚に火をともし、赤い丹を顔に塗り赤い着物を着て鬼と化し、夫とその愛人を襲う→〔藁人形〕1b。
『閑居の友』下-3 男を恨む女が、髪を5つに分け、飴を塗って角のようにし、失踪する。30年後、野中の堂に鬼が棲むとの噂が広がり、里人が堂を焼くと、5つの角があるものが現れて、男をとり殺したことを語り、『法華経』供養を願って火中にとび入る。
『今昔物語集』巻27-22 猟師兄弟の母が年老いて鬼と化し、息子を喰おうとする→〔片腕〕1a。
『徒然草』第50段 応長(1311~1312)の頃。「鬼になった女を連れた一行が、伊勢国から上京した」との風聞があり、20日間ほど、京・白河の人々が大騒ぎで鬼を見に出かけた。しかし実際に鬼を見た人は誰もいなかった。
★3b.僧が鬼と化す。
『古今著聞集』巻15「宿執」第23・通巻495話 うへすぎの僧都は仏法の教義に執心が深く、教義を秘して、弟子に教えることを惜しんだ。その罪により、僧都は死後、手のない鬼に化して苦しんだ。
『今昔物語集』巻20-7 金剛山の聖人が染殿の后に愛欲の心をおこし、現世では思いを遂げられぬので絶食して死に、鬼と化す。鬼は内裏に現れ、帝や大臣・公卿の見る前で、后と交合した。
★4a.鬼と戦う。鬼を退治する。
『大鏡』「忠平伝」 貞信公忠平が南殿の御帳の後ろを通る時、何者かが太刀の石突をつかんだ。忠平が探ってみると、毛むくじゃらの手で、刀の刃(は)のような長い爪がついていた。これは鬼である、と察した忠平は、「勅命で参上する者をとらえるとは不届き」と叱咤し、片手で太刀を抜き、片手で鬼の手をつかんだ。鬼はうろたえて、丑寅の隅の方へ逃げ去った。
『太平記』巻16「日本朝敵の事」 天智天皇の代、藤原千方が金鬼・風鬼・水鬼・隠形鬼の四鬼を使って、伊賀・伊勢両国を侵した。紀朝雄が「草も木も我が大君の国なればいづくか鬼のすみかなるべき」の歌を詠むと、四鬼は非を悟って失せ、千方は朝雄に討たれた。
『田村』(能) 坂上田村丸が勅命を受けて、鈴鹿山の鬼神を退治に行く。鬼神は黒雲・鉄火を降らせ、数千騎に身を変じて襲いかかる。その時、虚空に千手観音が飛来し、千の手で千本の矢を雨あられと放って、鬼神を残らず討ち取る。
『日本霊異記』上-3 元興寺の鐘堂に鬼が夜ごと来て、人を殺す。童子(後の道場法師)が待ち伏せし、鬼の髪をとらえて引っ張る。朝になり、鬼は頭髪を引きはがされて逃げ去る。その鬼は、寺で罪を犯した奴の霊であった。
*桃を用いて鬼を追い払う→〔桃〕3の『日本書紀』巻1・第5段一書第9。
*鬼と賭け事をして勝つ→〔賭け事〕1aの『長谷雄草子』(御伽草子)。
★4b.鬼退治の供。
『神道集』巻4-18「諏訪大明神の五月会の事」 満清将軍は光孝天皇の命令を受け、従者12人を連れて、戸隠山の鬼王退治に出かける。途中で行き逢った2人の男が供をするが、2人は熱田大明神・諏訪大明神の化身であり、彼らの援助によって、将軍は鬼王を捕らえ、首を討つことができた。
『桃太郎』(昔話) 鬼退治に出かけた桃太郎は、途中で出会った犬・雉・猿に日本一の黍団子を与えて、供とする。桃太郎たちは黍団子を食べて何千人力にも強くなっており、鬼が島の鬼たちを降参させ、多くの宝物を得て帰る(青森県三戸郡)。
『太平記』巻23「大森彦七が事」 大森彦七が、若い女から夜道の案内を頼まれる。露深い道ゆえ、彦七は彼女を背負う。半町ほど歩いた時、女は背丈8尺の鬼と変じて、熊のごとき手で彦七の髻をつかみ、虚空に飛び上がろうとする。彦七は鬼と取り組んで、ともに田の中に転がり落ちるが、鬼は消え失せてしまった。
*背負った女が鬼に変ずる→〔桜〕5の『桜の森の満開の下』(坂口安吾)。
『紅葉狩』(能) 平維茂が従者とともに信濃国戸隠山へ鹿狩りに行き、紅葉狩りに来た美女たちに出会って、酒宴となる。実は美女たちは、戸隠山の鬼神の化身だった。酔って眠りこんだ維茂は、「鬼神を退治せよ」との八幡神の夢告を得て目覚め、正体を現した鬼神と闘って斬り伏せる。
*鬼が弟に化ける→〔変身〕8cの『今昔物語集』巻27-13。
『伯母が酒』(狂言) 酒屋を営む伯母の家を甥が訪れ、酒をただ飲みしようとするが、飲ませてもらえない。甥は鬼の面をつけて夕刻に行き、伯母を脅して酒蔵に入り、思う存分に飲む。しかし面をはずして眠りこんだため、伯母に正体を知られ、追い出される。
『清水』(狂言) 茶の湯の会のため、太郎冠者が野中の清水に水を汲みに行かされる。太郎冠者はいやがり、「清水に鬼が出た」と言って戻って来る。主が確かめに行くので、太郎冠者は鬼の面をつけて主を脅す。主は、鬼の声と太郎冠者の声の類似に気づき、面をはがして正体をあばく。
*→〔面〕3に関連記事。
★7.鬼を笑わせる。
『地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)』(落語) 落語家が死んで、閻魔の庁へ行く。閻魔大王から、「ふだん笑うたことのない鬼どもを、笑わせてみよ」と言われ、落語家は鬼の耳もとに何事かささやく。鬼「うっふふ、うふはあ、うわっはッはッはッ」。閻魔「鬼が笑うとるぞ。こりゃ青鬼、何がおかしい」。鬼「笑わんといられん。こいつ来年の話ばっかりしよりますのや」〔*この後、4人の亡者が熱湯の釜に入れられ、針の山へ送られ、鬼に呑まれて、『閻魔の失敗』(昔話)と同様の展開になる〕。
★8.鬼が泣く。
『泣いた赤おに』(浜田広介) 赤おにが人間と仲良くしたいと思い、「おいしいお茶やお菓子がございます」と書いた立て札を家の前に立てる。しかし皆恐れて近よらない。友達の青おにがわざと村で暴れ、赤おにが青おにを殴って追い払う、という芝居をすると、人間たちは赤おにを信用し、遊びに来るようになる。青おには赤おにに、「君と僕が友達だとわかると、人間は君を疑うかもしれない」との書置きを残して、遠くへ去る。赤おには、しくしく泣く。
★9a.海の彼方の島に住む鬼たち。
『法華経』「観世音菩薩普門品」第25 百千万億の衆生が宝を求めて大海に船出し、黒風に吹かれて、羅刹鬼の国(サンスクリット語原典では「羅刹女の島」)へ漂着したとしよう。その時、衆生の中の誰か1人が、観世音菩薩の名を称(とな)えるならば、皆、羅刹鬼の難から逃れることができるだろう。
*蓬莱ケ島から、鬼がやって来る→〔うちまき〕2aの『節分』(狂言)。
鬼と同じ種類の言葉
- >> 「鬼」を含む用語の索引
- 鬼のページへのリンク