脳や精神への悪影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 01:33 UTC 版)
「Twitter」の記事における「脳や精神への悪影響」の解説
Twitterを利用する事に伴う身体への悪影響について、複数の学術機関が警鐘を鳴らしている。 スターリング大学のトレイシー・アロウェイ博士は、Twitterのワーキングメモリへの悪影響を危惧しており、「Twitterでは止めどない情報流を終わりなく受信し続けるにも関わらず、内容が簡潔すぎており、脳はそれらの情報を処理する必要がなく、情報に注意を向けるスパンが短くなり、脳を回転させにくくさせ、神経節の接続を鈍化させる」という事を説いている(ワーキングメモリとは記憶している情報の使用時に一時的に引き出しておく能力であり、ワーキングメモリが優れている人は面接等での受け答えがスムーズであり優秀である傾向がある)。 ウィスコンシン大学マディソン校のジョアン・カンター教授によると、Twitterは10分間見ただけで多様な感情的刺激が呼び起こされ、止めどない情報の波に触れることは脳震盪を起こすような打撃を頭に連発されるような物であり、あらゆる情報が平面的になると説いている。 サクロ・クオーレ・カトリック大学のジャン・パオロ・バルベッタ教授らの研究チームは、2016年から2017年にかけて、イタリアの高校70校に通う約1500名の生徒を対象にノーベル文学賞作家 ルイージ・ピランデッロの小説『生きていたパスカル(原題:Il fu Mattia Pascal)」を読ませた上での研究を実施した。生徒の半分はTwitterを利用し、小説を引用しつつ自分の意見を発信し、他人のツイートに返信でコメントするというオンラインディスカッションを実施した。残り半分の生徒は、従来通り教室で教えるという形態を取り、最後に『生きていたパスカル』についての理解を確かめる試験を行った。試験の結果、Twitterを利用していたグループは全体的にマイナス影響を受け、テストの平均点が標準偏差の約25-40%分低下した。特に成績が優秀な生徒で「女性」「イタリア生まれ」「ベースラインテストの点数が高い」ほど成績低下の傾向が顕著であった。 医師 吉田たかよしは、Twitterで悪口をつぶやき続けると脳に悪影響があると説いている。Twitterに悪口を書き込む事は自分のモヤモヤした思いを吐き出すのと同時に悪口を言うことで相手にダメージを与える「懲罰」の行為でもあり、その場では「スッキリした」と感じるかもしれないが、長期的に考えると、裏アカウントで悪口を言う手段を取っていることへの後ろめたい気持ちが募り、こうした感情は脳の中で怒りを作り出す働きをしている「扁桃体」をより刺激するため、相手への不満や悪意を更に感じやすくなるといった悪影響があるとしている。 著述家 ニコラス・G・カーによると、ツイッター上のつぶやきばかりに触れているとネット脳になり、時間が経つにつれて書き手も更に短い形式で本を出し始める傾向があり、それが起きると文学の豊かさの多くが失われると語っている。語彙の難解性、シンタックス(構文)の複雑性をなくしてしまい、複雑な物事を考える時間を人は持たなくなり、誰も難解な物を読む集中力の幅を持たなくなれば、作家たちもいずれ難解な作品を出さなくなるとしている。考える事が減るとそれだけ検索に頼ることになり、検索に頼れば頼るほど記憶しなくなり、そうするといつか頭が空になると説いており、自分の頭の中で物事を関連させて考えることをしないと更に外部にあるコンピュータベースに関連することを頼ることになり、思考の豊かさは自分の脳の中にある繋がりから来ると説いている。また、カーはツイッターをはじめとするSNSは、スロットマシンやポーカーマシンなどで見られる間欠的変動報酬を提供するように設計されており、強迫的なギャンブラーに特徴的な、関連するが異なる種類の繰り返し行動を誘発すると述べる。ツイートやその他の投稿も予測不可能な報酬を提供するため、あるツイートは注目され、あるツイートはそれに失敗することで、同じような心理的な引き寄せが働いているという。そして、ツイッターは、人間の原初的な情報収集とステータス追求の本能を利用したもので、注目されたいという欲求がそれほど強くない人にとっても、ツイートの習慣を断ち切るのは難しく、他のソーシャルネットワークと同様、Twitterは強迫的で習慣的な利用パターンを助長するという。 YouTuberであるAsapSCIENCEによると、インターネット・ユーザーのうち5-10%はオンライン上で過ごす時間を自分自身でコントロールできなく、これはカフェインなどの物質的中毒の対角線上に位置する「心理的中毒」と呼ばれており、心理的中毒に陥っている人々の脳をスキャンした所、薬物依存症患者と同様の脳の損傷が認められ、注意力や意志決定などの感情的処理に関わる脳の白質の劣化が確認されている。これはSNSが小さな労力ですぐさま報酬が与えられる仕組みであるため、パブロフの犬のように自分で自分を条件付けしてしまい、ドラッグと同じように神経学的な興奮を求めて何度も報酬を求める(SNSを見る)行動に出てしまう。またSNSはマルチタスクが脳の能力にフィルターをかけてしまい、新しい情報の記憶が難しくなってしまうと考えられていると説いている。ドーパミンとの関係性もあり、ドーパミンは放出されると気分が良くなるなどの作用を持つ神経伝達物質であり、MRIスキャンの結果、SNSユーザーは他人のSNSページよりも自分のページを見ている時に脳が喜びを感じる部位が活性的になり、より多くのドーパミンが放出されていると説いている。 東京都健康長寿医療センター研究所の桜井良太研究員と藤原佳典研究部長によるSNSの利用状況と精神的な健康との関連を調査によると、若年者と中年者においてツイッター定期利用者(発信と閲覧の両者)ほど悩み・抑うつ傾向が強くなる関係が示され、中年者のツイッター定期利用者(発信と閲覧の両者)と高齢者で定期発信者では孤立感を有している割合が高くなる傾向が認められた。なお、若年者ではInstagramの定期閲覧、中年者ではFacebookの定期発信、高齢者ではLINEの定期利用(発信と閲覧の両者)が良好なウェルビーイングと関連しており、若年者ではInstagramを定期閲覧、中年者ではLINEを定期発信している者ほど悩み・抑うつ傾向が低い関係が認められた。 Twitterは怒りの感情が最も拡散されやすく、日常生活において最も感情を刺激する行為であり、興奮状態の指標である脈拍上昇、発汗、瞳孔拡大を促すことから人間の推論システムではなく直観システムに働きかけることが知られている。そのため、批評家の綿野恵太によると、人の部族主義的傾向を利用して道徳感情を動員するポピュリズムにとって、Twitterは認知の脆弱性としてつけ込みやすく、ポピュリズムの実践に最適な環境であると考えられている。また、インテリ気取りであるが耳学問で仕入れた受け売りの知識をひけらかしているだけの人々である亜インテリに、Twitterは何一つ勉強せずとも道徳感情に沿ってリツイートやシャアだけをすればよい環境を提供している。そして、本来の知識人や専門家は、Twitterという140字までの文章しか投稿できない「合理的な討論には不都合」な場所では、「道徳感情」を適切に言語化し、洗練する役割を果たすことができず、亜インテリになってしまうという。
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