歴史観の歴史
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 15:13 UTC 版)
ここでは時系列順に主な歴史観を列挙していく。 古代インドの仏教で、時間と共に正しい教えが廃れるという下降史観が興り、仏教とともに各地に伝来した。 善悪二元論の発想が生まれ、古代ペルシャでゾロアスター教が、古代イスラエルでユダヤ教が興る。 古代ギリシャで、ヘロドトスが『歴史』を記した。 古代ヨーロッパでキリスト教の影響力の元、神話上の出来事を史実として記す普遍史観が成立した。神学者アウグスティヌスの『神の国』のように、聖書(旧約聖書・新約聖書)をそのまま事実と捉え、天地創造 - アダム - ノアの方舟等を経てイエスが誕生し、現在があり、やがては最後の審判を迎えるという流れが存在する、中世にわたって支配的な歴史観であった。後の啓蒙思想の時代に否定されたが、歴史には一定の目的がある、未来に最終決戦と救済があり善が勝利するとする発想は西欧の歴史観に大きな影響を与えている。一方で中世における年代記は事象の相互関連を考察せず、ただ事実を列挙していくスタイルを取っている。「歴史観」を持たないこれらの書物を執筆した著者の関心は、戦闘などの特異な出来事や、華やかな祭典などに向けられている。 イスラム世界の学者、イブン・ハルドゥーンは『歴史序説』で循環型の歴史観を唱えた。 ルネサンス以降、自然科学が発達し自然界に多くの法則があることが証明されてくると、歴史の中にも何らかの法則があるのではないかという思潮が高まり、啓蒙思想の時代になると、歴史は法則に基いて無知蒙昧な時代から啓蒙の時代へと進歩してゆくという直線的歴史観(進歩史観)が主流となった。哲学者ヘーゲルは人類の歴史の世界史的発展過程により理性(絶対精神)が自己を明らかにするものと捉えた。これも進歩史観の一つである。 近代イギリスにおいて、歴史上の出来事を「進歩を促した者」と「進歩を阻害した者」という極端な二元論で解釈するホイッグ史観が成立した。歴史に法則的進歩が存在する事を前提としている為、後述する唯物史観同様、進歩史観から派生した歴史観の一つとして捉えられる。 歴史学者ランケは法則性の論証を優先して史実を乱雑に扱う進歩史観に反発し、その反動として徹底した実証主義的証明に基づく近代的な研究方法を確立し、歴史学を科学に高めた(実証史学)。ランケはヘーゲルらの歴史法則論を否定し、また法則性が求められた遠因とも言うべき実用性を至上視する学問の傾向に対して警鐘を鳴らした。 著述家トーマス・カーライルは「世界の歴史は偉人の伝記である」と主張し、人物の業績を語ることでトップダウン的に歴史を把握する手法は、偉人説(英語版)として19世紀以降の社会史に強い影響を与えた。 哲学者マルクスはヘーゲルの進歩史観を継承しつつ、思想や観念を歴史の原動力とした部分を批判、経済的な関係こそが歴史の原動力であるとした唯物史観を確立した(『共産党宣言』『資本論』)。また、生産力と生産関係の矛盾が深まると社会変革が起こると考えた。 社会学者・経済学者マックス・ウェーバーは、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』において、人間の行動を規定するものとして宗教に注目し、宗教倫理と経済活動の関連を研究した。ウェーバーのこうした手法は、文化的な差異が歴史の進展にも差異が生じさせていることを明らかにした。また、ウェーバーは価値自由を提唱し、学問に価値判断(例えばxx主義、xx教が正しい等)を持ち込むことを厳しく批判した。 歴史学者アンリ・ピレンヌは経済史の側面から経済的要素が歴史に重要な影響を与える事を論証した。ピレンヌの研究は同じ経済を重要な要素として位置づけている点では唯物史観と一致しているものの、図式的な見方を拒否するなど一線を画した内容となっている。 近代になると民族主義の激化により、アーリアン学説等のエスノセントリズム的歴史観が流行し、第二次世界大戦等の破滅を招く。 20世紀に登場したアナール学派は社会学や心理学などの他の社会科学からの方法論を援用し、それまでの事件中心の歴史認識に対し、心性や感性の歴史、また歴史の深層構造の理解などマクロ的な歴史把握を目指した。また、アナール学派の台頭以降、個別の事件性や通史ではなく、農政史、出版史、物価史、人口史、経済史、心性史などの社会学的なテーマ史や、社会学、文化人類学、経済学、民俗学などの知見を取り入れる学際性を重視する傾向が見られる。 地理学者・生物学者ジャレド・ダイアモンドは『銃、病原菌、鉄』で地理的・生物学的要因が歴史を決定付けると主張、史学界に論争を起こした。 社会学者・歴史学者ウォーラステインによって提唱された世界システム論は、歴史は1つの国や社会で完結するものではなく、世界システムの過程から捉えるべきであるとしている。
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