歴史言語学~現代ヘブライ語の性格付
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「ギラード・ツッカーマン」の記事における「歴史言語学~現代ヘブライ語の性格付」の解説
ツッカーマンによれば、「イスラエル語」は、ヘブライ語、イディッシュ語の他、ロシヤ語やポーランド語などの諸言語から同時的に派生したセム語とヨーロッパ語の雑種であるという。ツッカーマンの提示するこの複数母語交雑モデル(multi-parental hybridisation model)は、現代イスラエル語とは古代ヘブライ語が復活したものであるという伝統的な「復活説」の見方とも、あるいは現代イスラエル語はイディッシュ語の語彙をいくつか古代ヘブライ語の語彙に転換しただけのものであるとする「語彙置換説」(relexification)の立場とも、どちらとも対置される 。ツッカーマンの複数母語交雑モデルには、歴史言語学における「系図」分析(family tree tool)いわば「血統」分析を相対化させる意義がある。 ツッカーマンは現代ヘブライ語(Israeli Hebrew)をイスラエル語(Israeli)と呼び、系図学的には印欧語(ゲルマン、スラブ、ロマンス各語)と亜亜(アフリカ・アジア)語(セム語)の両方に源を有すると主張している。この説は、現代ヘブライ語は文語としてのヘブライ語を継承しているだけではなく、ヘブライ語復興者たちが話していたイディッシュ語、ポーランド語、ロシヤ語、ドイツ語、英語、ラディーノ語(イベリア半島のスファラージ・ユダヤ人が話し、ヘブライ文字で記録したユダヤ・スペイン語)、アラビア語その他の言語をも継承しているというものである。ツッカーマンの雑種モデルはまとまりの原則(congruence principle)と創始者原則(founder principle)の二つの原則から成る。 まとまりの原則によれば、特定の言語学的特徴がより多くの寄与言語に顕れていればいるほど、それは目標言語にもよりはっきりと存続している。特徴の蓄積の統計にもとづき、一つの語彙が同時に多数の語源を持ちうることを認める「まとまりの原則」は歴史言語学における系図分析(family tree tool)と対置される。まとまりの原則は、語彙置換(relexification)モデル、例えば、現代ヘブライ語は語彙を文語ヘブライ語彙に置き換えたイディッシュ語に過ぎないので、印欧語の一種であるというような、文法をそのままに語彙を他言語語彙にすっかり置き換えたものだという見方に異論を唱えている。 創始者原則は、創始者の人口が新興語形成に与えた影響の大きさを重視する。従って、「現代イスラエル語の生成期においてヘブライ語復興者とイスラエルの地の最初の入植者の大多数の母語がイディッシュ語であったので、イディッシュ語は現代ヘブライ語の第一義的な寄与言語であるといえる」。ツッカーマンによれば、ヘブライ語復興者たちはヘブライ語をセム語の文法と発音で話すことを望でいたけれども、ヨーロッパに生まれ育ったアシュケナージ・ユダヤ人の身に染みついた習性を取り除くことはできず、ヨーロッパに起源を持つことを拒否し、流浪の歴史(diasporism)を否定し、雑種性(イディッシュ語に反映されている)を忌避することに失敗した。「もし、ヘブライ語復興者が、例えばモロッコ出身のアラビア語を話すユダヤ人たちだったならば、現代ヘブライ語は、系図学的、分類学的に見て、はるかに今よりセム語的な、全く異なった言語になっていただろう。創始者が現代ヘブライ語に与えた影響はその後の移民の与えた影響とは比較にならないほど大きい」。この創始者原則は、現代ヘブライ語は古代ヘブライ語が復興されたものであるから亜亜(アフリカ・アジア)語(セム語)系であるという伝統的な復興説に異論を唱えている。 ツッカーマンは、もはや話されなくなった言語を復興させる場合、それは雑種にならざるを得ないと結論する。
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