歴史記述の転回
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/05 05:12 UTC 版)
民衆の中に入り民衆から学ぶ、という姿勢は国民的歴史学運動の要諦であったが、このことは歴史記述の方法論にも及ぶ。民衆が自分自身の歴史を書くことで「声」を手に入れ、知識人はその助力をすることで既存の学問を変革していこうとしたのである。これが「歴史学の革命」と称される所以とされる。 具体的には生活記録運動を支持、労働者や農民とサークルを結成して、労働組合や村の歴史を書くことを勧め、なかんずく民話や伝承など民間史料の使用や村の老人や女性からの聞き取り調査を重視し、その成果を民衆へ還元してゆく、というものであった。 このように運動が着目していた聞き取り調査は、文書史料に基づく歴史の記述、既存の歴史学の実証主義的な手法に対するアンチテーゼと言える。石母田にしてみれば、文書史料は権力者側が残すもので、民衆の意識が現れていないと見なすのも当然のことであった。 ともあれ、学生や労働者を組織することにより、「村の歴史」「工場の歴史」「職場の歴史」「母の歴史」を、聞き取り調査や民衆自身の記述を通して再現する方法論は、従来歴史学の対象ではない人々を主体に据えた、新たな日本史像を想像する上で不可欠な要素となる。 とりわけ「母の歴史」については、歴史記述から削ぎ落とされてきた女性に光を当てつつ、「表現という創造的な仕事を媒介として、新しい自分を作り上げてゆく」という石母田の目的が、政治状況から切り離され、女性史という新たなジャンルの確立に向かうこととなる。
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